幕引き 後書き
私は英雄にしたかったのだ。戦争を終わらせた偉大な母を、それを支えた屈強なる父を。ゆえにこれを残そう。母の手記を、当然ながらそれは完全ではなく途中で途切れていた。
補完された内容は近くにいた兵士の語ったものだ。
その兵士は世界でただ一人私とともに母を英雄と呼び、母への恩を返すと言って母を埋葬し父を埋葬し私が掘り起こした祖母を埋葬した。
私は、救いたかったのだ。祖母は最強の魔術師でその力があれば母を助けられると思った。私が見つけた時には全ては終わっていて祖母の遺体を無駄に傷つけたに過ぎない。
ならば、私は英雄となろう。祖母と、母と、その親友の心臓を使って英雄になろう。母を英雄にするために、過去最大の英雄であった祖母の名を汚さぬために。ただ無為にこの英雄譚の主人公たちの遺体を傷つけた悪役に身を落とさぬために。
母がしていたように私も日記をつけてみようか。
ここからは私の物語だ。
リヴィア・ブラッドの日記より
著者ユリア・ブラッド。
これにて魔術師の贄完結です。
この物語は幕引き以外すべてがリヴィアの日記という体で書いています故どうしてもかけないところやどうしようもないほど固定された視点もあります。
しかし、その分より鮮烈に鮮明に書けた部分もあり、本作のこの作風を気に入っています。
本作はヒューマンドラマに重点を置いた作品であり、戦闘やファンタジー要素はおまけに過ぎません。
本作において敵と定めているものは希望です。魔術とは本人にとって希望であり、魔術師とは戦場において希望であり、平和とは人類にとって希望なのです。しかし、本作はどうでしょう。魔術は自らの心臓を喰らい、魔術師とは倒すべき敵であり、平和を求めて怪物を呼び覚ました。
本作は世界の解明に至っておりません。これはあくまで序章のお噺。解明は外伝、続編にてお見せ致します。この世界の残酷な成り立ちを、賽の目すら左右する雁字搦めの運命を。
それでは皆様。次は第二の世界でお会いしましょう。




