俺。最終日の朝
完全不定期更新です
というわけで、犯行を実際に見た俺達少年探偵団(女の方が多いし俺はオッさん)は近辺の情報を集めつつ走り回っていた。
いつ次の犯行が行われるか分からないくせに一切の情報も無く考える余地もなかった為、脈動で男という理由だけで俺一人が街を駆け回り屋根を越え壁を走り回っている。
だが俺の苦労も虚しく事件も起きず情報も手に入らなかった。
わかったことと言えば犯行は昼夜問わず人がいようがいまいが変わらず行われるらしい。だというのに誰一人犯人を見たことがないというのだから驚きだ。
さて街の滞在期間が1日と迫ってきている中、今日走っているのは広場から少し離れた場所にあり高い位置に建てられた豪邸の周辺とその一帯。
無駄に広い庭が目を惹くここには街を治める『オクジョウ・アバントリア』の自宅ということらしい。流石に入ることはできないが遠目で見る限りでも相当な使用人と警備隊がいてなかなかファンタジックしている。
肝心のオクジョウはというと、豪華な家に不似合いな醜く肥った豚に酷似した男だった。声までは聞こえなかったが聞こえていればおそらく荒い鼻息が聞こえてきそうな奴で、俺の苦手なタイプに見える。
「特に異常なし」
呟いて持っていたパンの最後の一切れを口に放り込み珈琲で胃に流し込んだ。
そうしてから屋根から降り服に落ちていたパンくずを叩いて珈琲のカップを返しに行く。持っていったら変な目で見られたのは、多分気のせいだ。
向かうのはテラスに設けられたテーブルの一つ。そこには朝日を受け優雅なアーリーモーニング・ティーを楽しむオスクラとルーズがいた。
隣の椅子に腰を下ろしスコーンを口に運びながら手にしていた双眼鏡っぽい物をテーブルに投げ、周囲の状況を報告する。
「……そう。どうでもいいわ」
俺の苦労を一言で流しオスクラはカップを置いた。
そのまま少し神妙な面持ちで儚げに息を吐くと顎に手をやって思考に耽る。
邪魔するまいと、オスクラの残りを飲み干しつつ柑橘ジャムをスコーンに塗って頬張っていく。
「ハフハフ、これ美味ェ! 超うめぇ!」
「……フウトくんは空気を読むというのを覚えた方が良いと思うな」
冗談はさて置き、正直こんな所で考えた所で何も変わらんのだしさっさと移動した方が良いと思うがね。
そう考えているとオスクラが立ち上がり俺達を一瞥すると外の方に目をやり、それを数度繰り返してから何か納得したのか頷き、俺へと指を指す。
「フウトは北区で待機してこれまで通り警戒を怠らないように、ルーズは南区に待機し二人共合図を待つように」
「みんながそんなに離れてて良いのか?」
「相手も神多夢なら単独行動より集団行動してる方が勝ち目はあるんじゃないの?」
オスクラの言葉に意を唱えたところルーズもそれに賛同した。
しかしオスクラは首を振り声を落として話す。
「今日で滞在期間が過ぎるのを忘れないで、今まで通り当てずっぽうに行動していても埒があかないわ。それに前に言った通り相手は殺す相手を相当憎んでる。ならまず犯行を第一に考えて行動するだろうから皆が集まるまで手を出さなければ良いだけよ」
「待て、それだと後手に回るだろう」
「……それで良いのよ。わざわざ人を守りながら立ち回っていたら、それこそこっちの身が危うい」
「なっ……」
心ない言葉に思わず絶句する。
見知らぬ俺をすぐ信用し共闘したことやルーズとの関係を見ていたせいで懐の広い優しい奴だという印象を持っていたために、今の発言は俺の思考を停止させるのに十分だった。
そうしているとルーズが俺の袖を指で摘んだ。
「オスクラの判断は正しいよ」
「いやダメだろ」
「いいから聞いてっ、まず襲われる人を守るということは私達も神多夢を使わなければならなないよね。その場合いくら問題を解決しても、結局守った人を通じて私達は捕まるの」
ルーズの言葉は理解できる。
相手が神多夢である以上、俺達も本気で相手をしなければならない。その場合守ろうとした人に神多夢だと知られてしまうことになる。その場合、神多夢を良しとしないこの街から無事出られる保証はない。
しかし、だからと言って、人が殺されるのをただ黙って見るだけの言い訳にはならないと思うのは、俺がこの世界の住人ではないからだろうか。
話は終わりと、オスクラが踵を返す。
その後に続いてルーズも立ち上がるが、俺だけは俯いて拳を握っていた。
……
太陽が傾き始めた頃、俺は一人で城壁沿いに歩きながら腰に携えた剣を軽く持ち上げた。
人はまだいるものの知り合いがいるわけでもないし、そもそも警備中のため暇すぎて欠伸が出そうになる。
「……合図が出るまで待てって言われたけど、これ最終日にすることじゃないだろ」
辛抱たまらず鞘ごと短剣を取り、手の中で転がしてみる。
質素な鞘からは少々凝ったデザインの柄が伸びており武器屋で見た物たちとは一線を画すほどだ。
それを回して遊びつつ周囲を警戒するが、事件っぽいことはこれといってなく喧嘩すらない。
なので暇を持て余したのでオスクラとルーズが言っていたことを思い返した。
「自分の身が優先、か」
言っていることは分かるが、理解はできないでいる。
それは俺がこの世界の住人でないことが関係しているのだろう。
神多夢の苦労とういうのがいまいち理解できていないし、この世界での命の重さが計り知れないのが理由だろうか。元の世界なら人が殺されると知っているならなにがなんでも助けるとか考えるそうなものだと思うが、この世界の住人たちにとってはどんなものなのか。隣の住人が殺されそうになっても見て見ぬふりをするのが正しい判断というのが、この世界のルールなのか、それはまだ世界の小さい俺には理解できないことだが。
「……なんにせよ犯人を見つけないと始まらないよなぁ」
頭の中で思い浮かべる犯人像は元の世界でも名高い切り裂きジャック。
いや元の世界でも見たことないし昨今では女体化されているので勝手な妄想でしかないが、長身で体の大きな厳つい男だと想像しておく。
そういう奴が逆手に包丁を持ち舌なめずり……うん、それっぽい。
犯人像が固まったところで無駄シャドウボクシング。
頭の中の犯人はなすすべもなく俺の拳を受け血反吐を吐き、地面に頭を擦り付けながら謝るDOGEZA。
しかしそれを許さない俺の正義の言葉を聞き犯人は失禁「アイエエエエエ!」これで決まりだな。
ぴゅー……パンッ。
妙な音がしたかと思うと空が一瞬だけ明るくなった。
空を見上げると頭上には照明弾の光が見える。誰が撃った物など考えるまでもない。
「もう見つけたのかっ!」
方角から見てオスクラの方だろう。距離はそんなに遠くないはずだ。
しかし犯行は昼夜問わず行われているとは聞いていたが、時間はまだ夕刻、その早さに驚きが隠せない。
短剣を腰に差し一気に駆け出す。
おそらくルーズも気づいて向かっていることだろう。だが目印としては目立ちすぎているんじゃないのか、俺たちだけじゃなく民間人や憲兵も引き付けてしまうんじゃないか。
そうは考えるも後の祭り、まずはオスクラの支援に向かい犯人を捕まえることが優先だ。
「待ってろよオスクラっ! 今俺が颯爽と駆けつける!」
緊張が心身を駆け抜ける中、軽口で気持ちを落ち着かせながら夕焼けの街を駆け抜けていった。




