表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/45

俺。乖離する過去

完全不定期更新です

 俺はとても、とても、とてもとても

 重い罪を背負っている。




 俺の家は4人家族だ。

 働き者の父と少し煩いが優しい母と頼れる兄、そして俺だ。


 裕福でもなければ貧しくもない至って普通の家庭だった。

 父は朝早く出て行って、帰りはいつも夜遅くだ。

 それでも兄と俺が玄関でお迎えの挨拶をすると疲れてるであろうに遊んでくれるのだ。


 父は治安を守る仕事をしていた。

 分け隔てなく人助けをする父をみんなは尊敬し、慕っていた。父は街のヒーローだ。


 母も綺麗だと評判だ。

 そんな母が焼いたパンはとても美味しくて、いつも午前中には完売していた。



 そして兄も優秀だった。

 剣の腕は勿論のこと勉学においても1番で容姿も評判が良かった。


 俺はそんな家族が好きで、俺もみんなに認められるような凄い男になるのだとよく息巻いていた。




 ………だけど俺は優秀ではなかった。



 なにをやっても兄には負け、習い事も殆んど続かなかった。

 唯一の救いとして俺は生まれつき神多夢の素質を持っていたということだろうか。

 だが神多夢が覚醒することはなかった。



 そもそも俺は満ち足りていた。

 たしかに何をやっても中途半端で長続きはしないし胸を張って自慢できることは無かった。

 それでも家族はみんな優しく、周りのみんなも応援してくれて、俺を必要ないなんて言う人はいなかった。



 なにも無くても成長はするもので、兄と俺は大学を卒業し職に就いていた。


 俺は必死に勉強し、俺にしかない神多夢というものがどんな物か知りたくて、神多夢について研究する機関に入った。

 兄は父と同じようにみんなを笑顔にする職に就いた。


 道は違えど兄と俺の仲は崩れることはなく、お互い苦労を知ることで更に仲を深めた。



 仕事を覚え、

 新しい生活環境に慣れ、

 荒れ狂う時間の中で安らげる一時を見つけ、生活が潤い始めた折のことだった。





 父が死んだ。


 いや正確には殺されたのだ。

 女性に性的な乱暴をはたらく男を捕らえたらしいのだが、そいつがここ一帯を牛耳る貴族だった。


 そいつは金と権力を使い全てを揉み消し、父は貴族へと暴行を働いたとして

 見せしめに殺された。



 こんな理不尽な事があって堪るか。


 兄と俺は力の限り叫び続けた。

 だが自分達の命欲しさに誰も事件に触れようとせず、果てには俺達の父が悪かったと噂される始末。

 本来動くべき機関は金を握られ完全に俺達の敵だった。



 その貴族を殺してやろうとも考えた。

 だが兄には既に恋人がいたし俺も母を養わなければならない。

 俺達だけが死ぬのは構わない。


 けれど、俺達の勝手とは関係ない人が不幸になるのは嫌だった。




 それから俺はただひたすらに上を目指した。

 あの貴族を殺せるくらいの、理不尽が無くなる程の地位が欲しかった。


 だが一介の研究者である俺がそんな地位を持てるはずがない。

 ならばと神多夢の研究に没頭した。

 父の仇を殺せ、尚且つ誰にもバレず、誰にも被害が訪れない十字架を。



 しかし俺の考えることは全てが駄目だった。

 そこで何が駄目なのかを探し、修正し、実験した。


 そうやっていくと『掌握者』という存在にぶつかる。

 奴らは謂わばスペシャリストだ。

 だがそれでは説明が付かない点も多い。



 まず『脈動掌握者』と『深層掌握者』

 これらは見て分かる通り、自身の十字架を克服し完全に自分の支配下へと置いた者達だ。


 だが『動物掌握者』や『精霊掌握者』に『神格掌握者』とは何なのだろうか。

 ここまで来ると訳が分からなかったが、それでも俺は調べまくった。




 これらは「当たり前」として誰も触れてこなかった分野だった。

 そのため誰にも助言を求められず、

 俺はただ闇雲に見通せない道を、


 安全なのかそうでないのか、

 壁があるのか壊せるのか、

 細いのか広いのか、


 それらをただひたすらに探し出した。



 研究の日々が続き、朝も夜もない毎日。

 俺を突き動かしたのは、ただひたすらの復讐心。





 そうして俺は評価された。


 俺の研究結果は「当たり前」だと取り捨てられてきた神多夢を、ある程度ではあったが解明するに至ったのだ。

 同時に俺は十字架はないものの深層掌握者の道筋を作り出していた。



 これで父の仇を殺すのに一歩近づいた。

 俺は歓喜し、兄にその事を報告しようとした。

 兄だって父が死んだ時は相当に悲しんでいた。なら俺と同じ気持ちだろうと思ったのだ。


 だから、兄へその事を告げた時には驚かされた。




「もう父の事は忘れて、自分自身の為に生きろ」



 俺は兄を罵倒した。

 あの面倒見が良く聡明で何でもそつなくこなし皆の憧れであった父を殺したのだ。復讐せずして何になるのか。


「お前、鏡の前で顔見たことあるのか?

 父の事を忘れてお前自身がしたかった事をするんだ」


 それは兄が皆から慕われ、尊敬され、必要とされているから勘違いしているだけだ。

 これが俺のやりたいことだ。

 父を殺した貴族を殺し尽くす。




 怒りを打つけた後、知らずのうちに自宅へ帰っていた。

 そんな俺には復讐とは違うものが芽生えていた事が分かった。






『兄への嫉妬だ』



 俺が躍起になって殺す方法を考えていた時、兄はなにをしていたのだ。

 俺が倒れた時、兄はどこでなにをしていた。

 俺が評価された時、兄はなぜ評価してくれなかった?


 終いには、貴族へ向けれられていた復讐心が、兄へ向けられていた。



 思い返してみれば、俺の前にはいつも兄がいた。


 兄は優秀で誇れるが周囲からはまた違った目で見られていた。

 それは俺という何も持たない奴がいたからだろう。

 兄は俺の面倒を見ながらも、あらゆる分野で優秀な成績を納めていた。


 いつしか俺は『優秀な兄の荷物』と見られていた。

 それが嫌で必死に勉強した。運動にも精を出した。

 それでも兄の足元にも及ばず、兄は常に俺の前を走っていた。



 いくら走れど追いつくことはない。それどころか差は時間と共に無慈悲に離れていく。

 俺にとって兄は追いつくことができない幻想だった。




 そうだ、兄ならあの貴族を殺せたのではないのか?


 あの優秀な兄なのだ。

 神多夢という少ない分野でしか認められていない俺とは違い、兄はどんな人からも認められ尊敬されている。


 その兄は何をしていたというのだ。

 今更になって「自分の為に生きろ」とはお笑い沙汰だ。

 正論を言えばなんでも許されると思っているのか、俺とて復讐がイケナイ事だとわかっている。


 それでも、あの理不尽に打ち勝つ『チカラ』が欲しいのだ。

 そして俺のそれを持って奴を殺した時、その時からこそが俺の「生きる時間」だ。



……



 俺はさらに研究に没頭した。


 だが、今回は少しワケが違う。

 前の俺はただひたすら溢れ出る復讐心を研究にぶつけていた。

 それが今では『兄への対抗心』へと変わっている。


 それを俺が理解することは無かったが、俺は以前にも増して研究に没頭した。

 俺の信念を兄に見せつけ、改心させ二人で父の仇をとるのだ。





 そうして俺は『掌握者』を越える存在『夢幻略奪者』に辿り着いた。


 夢幻略奪者はすごいとしか言えない存在だった。

 そのすべてが未知数で、すべてが胸躍るような御伽噺のような存在だ。

 神多夢の頂点にして次の段階へと進化した新人類。



 これを自在に使えれば貴族の一人や二人殺せるだろう。

 歓喜し酒を浴びるほど飲んだ





 だが俺にはそんな力は無かった。

 それでも一応はと纏めて報告したところ、再び賞賛を浴びた。


 いや、賞賛なんてものはいい。誰でもいいから俺を夢幻略奪者へと仕立てろ。

 そして父の仇を殺しみんなに幸せを、俺の新たな時間を……



 長い間のこと引きこもって研究していた俺は外に出た。

 外の空気を吸いたかった。

 なんでもいいから気晴らしがしたかったのだ。


 道が見つかったと思ったら、再び己の才の無さを痛感させられた。



「………兄ならあるいは」

 首をふる。


 夢幻略奪者の最低条件は神多夢であることだ。

 兄に神多夢である素質は無かった。だからこそ唯一誇れるものとしてきたのだが


「やはり十字架(クルクス)を背負わなければ意味がないか……」


 ガラにもなくタバコを咥え外を眺める。


 研究成果により莫大な金と権力は手に入れたが、俺が欲する貴族を殺す方法が見つからない。

 奴を殺せなければ、こんなもの道端に落ちている石っころと同じだ。



 タバコを吹かせていると、忙しなく足音を立て、若い門下生が顔をのぞかせた。


「ベジタボゥ教授、オンデュレイション様がお見えになっています」

「ふぅ……あの女もよく飽きもせず毎度訪れるものだな」

「ははは、でも悪夢の支配者たちの長女である彼女には、このバグズトロイヤ帝国の明日が握られていますからね」

「俺には物好きなバカ女にしか見えんな。ここで研究しているのは神多夢についてであって、バカ女が使う『異能』ではないってんだ」

「まあまあ、待たせていますから早く行かないとその『異能』で殺されてしまうかもしれませんよ?」



 そう言って先に戻る若造を見送り、タバコの火を消しポケット灰皿に放り込む。


「教授~」

「わかった。今行く」



 踵を返す視線の端で、驚くべきものを見た。


 それは赤子を抱く兄と、それを愛おしそうに見つめる女の姿だった。








 ならこの時だろうか

 俺の神多夢が覚醒したのは



 俺の復讐心が、兄への殺意に変わったのは……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ