「前を向け」
初投稿です。最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです。
「……前を向け」
ぼんやりとした意識の中で、誰かの声が聞こえた。
聞き慣れた、少しだけ呆れたような声。
「ぶつかるよ!」
ゴッ。
鈍い音と共に額へ激痛が走る。
「っ……いってぇ!」
額を押さえながら顔を上げると、目の前には電柱。
そして、その少し先で腹を抱えて笑っている少女がいた。
「だから言ったじゃん」
「俯いてばっかりだからそうなるの」
「……別にいいし」
「よくない!」
少女はくるりと振り返る。
夕日に照らされた笑顔は、昔から変わらない。
「俯いてばっかりじゃ世界は広がらないよ?」
折野陽菜。
十七年来の幼馴染だ。
自由気ままで、いつも明るくて、思ったことをそのまま口にする。
俺とは正反対の人間だ。
「なんか窮屈そうなんだよね、落って」
「もっと楽しもうよ!」
そんな風に考えられたら苦労しない。
そう返す代わりに、小さく息を吐いた。
考えたって何も変わらない。
環境も、お金も、才能も。
どうにもならないことばかりだ。
だから考えない。期待しない。
その方が楽だから。
考えたところで選べる道なんてない。
どうせ何も変えられない。
だったら、最初から何も考えない方が楽だ。
……それが、一番自由なんだと思っていた。
「ねぇ!」
「私が楽しませてあげよっか?」
「……どっか連れてってくれるのか?」
「もちろん!」
「街に行こ!」
「今日は行きたいところがあるんだ!」
陽菜は返事も待たずに歩き出す。
俺はその背中を追いかけた。
途中、前から歩いてきた高校生くらいの集団の会話が耳に入る。
「おい、この動画見てみろよ」
「それ凍ったり爆破したりフェイクっぽいやつじゃね?」
「ぎゃあ!」
「なんだよビビりすぎてスマホ落とすなよw」
笑いながら通り過ぎていく。
「最近こういう話多いよね」
陽菜が少しだけ空を見上げる。
「もし能力が使えたら、落は何が欲しい?」
「……別に」
「つまんない!」
そう言って笑い、また前を走っていく。
「ほら!こっち!」
陽菜に連れられて着いたのは、オープン前の展望フロアだった。
「今日だけ一般公開なんだって!」
期間限定で設けられた展望スペースには、多くの人が集まっていた。
ガラス張りの床。
見下ろせば街が小さく見える。
「うわぁ!」
「高っ!」
陽菜がはしゃいで飛び跳ね、ガラス張りの床を楽しそうに渡っていく。
「早くおいでよー!」
渡り終えた陽菜が言う。
苦笑いしながら俺も一歩、二歩と踏み出した。
その時だった。
パキッ。
嫌な音が響く。
「……え?」
足元に亀裂が走る。
バキバキバキッ!!
ガシャァァァン!!
「え、落!?」
床が崩れた。
世界が反転する。
落ちる。
落下途中に鉄骨が見えた。
このままぶつかれば、鉄骨に身体を打ち付け、そのまま地面へ叩きつけられる。
地獄だ。
まだ死にたくない……!
グッ。
身体が何かに引っ張られた。
真下にあった鉄骨のすぐ横を通り過ぎる。
「……は?」
何が起きた。
分からない。
でも、落ちていることは変わらない。
まだ死にたくない……!!
これ以上落ちたくない!!
……違う。
この感情は、何だ……?
分からない。
分からないけど、俺は……
俺は……!!
グッ……
「落ーー!!」
……
「落!!!」
ゆっくり目を開ける。
涙ぐんだ陽菜が目の前にいた。
「何ともない!?」
「あ……ああ」
生きている。
俺は、生きていた。
この時の俺はまだ知らない。
あの日から、世界が少しずつ壊れ始めていたことを。
第1話を読んでいただきありがとうございます!
ここから少しずつ世界が動き始めます。
よければ第2話も読んでいただけると嬉しいです!
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