【探偵#8】
テスト一日目。当日の朝、いつものように春のにおいが残る涼しい朝。
だが、今日は違う。
いつも一緒の二人を置いて、僕はとある人物と接触していた。
「どうして僕と勝負なんかするんだ?普通に彼女を誘えばいいだけだろ」
人気のない教室、僕の前に立つのは、森田財閥の跡取り息子、森田修也。
「そうだね、君を無視して彼女を誘うこともできたよ、おそらくこの賭け自体は彼女達は気づいているはずさ」
彼から出るオーラ、それは正に自分を絶対的に信じているといった物。
「僕にフェリアをどうこうする権利も関係性もないよ」
そう、彼女との距離がクラスで一番近いのは認めるが、本当に僕にそんな権利はない。
「君は本当に自分では選べない人なんだね」
その言葉には、嘲る…というよりも哀れという言葉が合うだろう。
「いや、僕には__」
「僕は、欲しいものは必ず手に入れたい、どんなに高価でも、どんなに希少でもね」
僕の覚悟を遮るように、森田は思いをぶつけてきた。
「見ればわかるよ、彼女は君に好意を持っていることぐらい、でも、それでも僕が引く理由にはならない」
彼の真っ直ぐな覚悟、それを僕は受け止めることができるのだろうか。
「成績は君と僕は毎度同じくらい、学年の40位くらいにいつもいる、だからこの賭けはちょうどいい」
森田がポケットから何かを取り出した。
「これは会場のチケット、もう僕が購入してある、僕に勝てば君の渡して僕は彼女から手を引くよ」
「わかった、もう僕は何も言わない、その覚悟を受け取ったよ」
この時の僕は気づくことができなかった。
真っ直ぐな男、森田修也。その心に奥に隠れた狂気の大きさを…
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「今日のテスト、自信ありますか?」
「あったらこんなに教科書を開いてないよ」
今日はテスト二日目、森田との賭けを頭に残しながら、一日目を終え、今日もなんとか答案に向かい合うことができた。
「フェリアは知らないと思うけど、今回のテスト、去年は3日あったんだよ」
「テストが3日…そんなにも…?」
「まぁ、テストは午前授業なのは変わらず、期末に詰め込むんじゃなくて授業内の小テストで生徒の負担を減らそうってことらしいよ」
「そんなことがあったんですね」
フェリアの笑顔、そして今の関係性。
俺は今のまま、この日常を過ごして生きたい。
森田との賭け、お互いの学力はほぼ同じ、毎度それなりの上位のいるから覚えている。
(というか、今思ったんだけど、フェリアと森田って話したことあんのか?そもそもクラスでは俺と少ない女子以外フェリアと話せる奴なんかいないよな…?)
ノクス、あいつの殺気が教室の男子をつねにけん制している。
そんな状態、奇跡が起きてノクスが許可を出し、森田とデートしにいっても果たして関係は進展するのだろうか…
いや…そんなこと関係ない。
僕はこの”日常”を続けたい、なら、勝負に勝ってノクスと三人で瀬礼演劇祭に行く。
ただそれだけだ。
いつの間にか配られ始めた答案に、僕はその思いをぶつけた。
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数日後、それは学年順位100以上が校内の掲示板に掲載されていた。
その前には生徒が集まり、それぞれ自身や友人の順位で盛り上がっていた。
その人だかりに、一人、影を纏う人物。
「くそったれ…」
その男が差すような視線で眺める先。
31位天瀬湊
32位○○○○
33位森田修也
そう、その男は森田修也、天瀬湊との賭けに奴は負けたのだ。
真っ直ぐな青年、それはその空間にはもういなかった。
いや、もともといなかったというべきか。
「僕の物にならないなら、例え異界の姫でも関係ない」
彼が顔を上げた時、その顔には途轍もない狂気に満たされていた。
その男が向かった先は、下駄箱、そう、天瀬湊の。
そして、賭けのチケットを静かに入れた。
「もう…僕は…俺は止まらない」
ここからが、本番だったんだ。




