【探偵#5】
僕の名前は天瀬湊。
瀬礼国際高等学園に通う、ただの高校二年生。
制服のポケットに腕を通しながら、何気ない通学路を歩いている。
僕の人生には、特別なイベントなんて特にない、どこにでも落ちている普通の朝。
僕はきっと、これからも何も得られない、全てを失い、そして母からかけられた祈りという名の”呪い”を解かない限りは。
その時だった。
「湊くん!おはようございます!」
彼女の胸まで伸びる淡い金髪が、僕の景色を塗り替える。
「おはよう、フェリア」
僕の返事を受けて、彼女の顔は屈託のない笑顔に変わる。
「はい!今日もいい天気です!」
彼女の名前はフェリア=アストレア、異界からゲートを超えて日本にやってきた、アストレア王国の王女。
「もうすぐテストですね!私も成績が落ちたら返されるかもしれません」
そう話す彼女の耳は人間の耳よりも長い、そう、彼女はエルフなのだ。
彼女を見つめていた刹那、背中に氷柱を入れられたような悪寒が走る。
「天瀬、お嬢様に次接近したら殺すといったはずだ」
凄まじい殺気を纏って現れたのは、彼女の使用人兼護衛、ノクス。
エルフの国、アストレアに古くから使える妖精族の末裔、その戦闘力は途轍もないらしい。
「またノクス!いい加減にしないさい、ただ話していただけです」
「いいえ、お嬢様、私にはわかります、この男がお嬢様を…」
この妖精の羽が生えた白黒フリフリのメイド、ノクスは僕と出会った時からこんな感じなのだ。
「とにかく、早く学校に行こう、もう遅刻するよ」
「はい!」
そう、最近手に入れたこの何気ない日常、僕はそれはたまらなく好きなのだ。
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彼女がやってきたのは3か月前…あれはまだ桜が咲いていた時期。
進級後、クラス替えからクラスの雰囲気が固まりつつあった頃。
「お前ら席に就け、大切なお知らせがある」
担任の先生が突如として話した内容、それはとんでもないものだった。
「明日からこのクラスに転校生がやってきます、しかもそれはただの生徒ではありません」
朝のショートルーム、普段は緩めの空気だが、今日だけは緊張が走る。
「その生徒は、異界からの留学生で…あのエルフの国、アストレア王国の姫です…」
そう話す先生の顔には心労が浮かんでいた、もう倒れてしまいそうなほど。
「エルフ?」
「お姫様ってこと…?」
「ヤバくね…?」
教室は一気に騒然となる、こんなの簡単に状況を飲み込めない。
「そして、その国から同年代の護衛も生徒兼保護者としてこの学校に転校してくるそうです…」
先生はもはや自分でもなにを話しているか理解してなさそうだ。
「僕のクラス…一体どうなるの…」
この出会いが、僕の青春を盛大に曲げてしまうなんてまだ僕にはわからなかったんだ。




