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細海先輩と御森くん  作者: 紙屋川トカゲ
2章 本格始動
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第47話 細海先輩と御森くんと伸縮性

天気の悪さを理由に外出は家と会社の往復のみだったのが悪かったのかもしれない。

目の前の作業をひと段落させ、グッと伸びをした時だ


“ポキリ”なんてかわいらしい音ではない

濁音をこれでもかとふんだんに使用された擬音とともに

私の骨が、重厚な音を発した。


「細海先輩、今えっぐい音が聞こえましたけど大丈夫ですか」

「御森くん…」


ギギギと油をさしてないブリキの人形のように彼の方を向く


「私からエグイ音が鳴りました」

「それ今俺が言ったやつです」


流石に御森くんも聞き逃せなかったのだろう

不安そうに声をかけてくれたが

私も自分で驚きすぎて、とっさに相手の言葉を繰り返すことしかできなかった。


「痛くは無かったですけど、各関節が五重奏くらい奏でた衝撃で次の演奏が怖いですね」

「関節に楽団雇ってるんですか?」

「お給料は日々栄養の支給で足りていると思ってましたが、追加で運動も要求された気分です」


冗談を言いつつ、ゆっくりと自分の可動域を確認するように体をひねったり腕を回してみる

良かった、音が凄かっただけで特に異常はない


「運動…鈴木さんに教えてもらったジム、細海先輩も行ってみますか?」

スッとスマホを取り出した御森くんを、同じようにスッと手を上げて制止する。


「ジムは、無理です」

「ですよねー」

流れるようにスマホをポケットにしまう姿を横目に胸をなでおろした。

そう、知らない人が沢山いるところに運動しに行くなんてハードルが高すぎる

突然コーチみたいな人に“二人組を組んでください”とか言われたらどうするんですか

相方を探して迷子になる自信しかない…


「とはいえ、天気を理由に1駅多めに歩くとかもサボってますから、なんとかしなくては」

デスクに沈み込むように小さく溜息をついた。


「寝る前に5分ストレッチするだけで違うと思いますよ!」


キラキラの笑顔で提案してくれる御森くんには申し訳ないが

会社から家までの間に1駅歩くのは、目的地が一緒なので苦ではないが

寝る前のストレッチはもう目の前にお布団が待っているのに5分お預けを食らう行為だ


「寝る前に5分間の捻出とストレッチの習慣化…」

「先輩、顔が本気で死んでます…そんなに5分のストレッチが苦行ですか?」

「そうですねぇ、苦行まではいかないのですが」


遠い目をして、窓の外のどんよりした空を見上げた。


「私がいま本当に求めているのは、適切な力加減の巨人に両端から全身を引っ張って伸ばしてもらいたなぁ~とかなんです」

「解決案が大胆かつ怠惰が過ぎると思います。でもそっかぁ」

うーん、と少し首をひねると

「細海先輩が人に触られるの苦手じゃなければ、引っ張るくらい俺しますけどね」


その瞬間

食べてもなくならない米が圧縮されたおにぎり。

ペンケースでついた壁のへこみ。

そんな数々の出来事が走馬灯のように頭をかすめました。


「怠惰すぎましたね!!体のメンテナンスを怠ってはいけませんね!!寝る前の5分間ストレッチ、頑張ろうと思います!!」


御森くんが「おー!やる気でました?頑張ってください!」と言ってくれたが

善意100%で引っ張られたら私が千切れてしまう!!


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