第10話 細海先輩と御森くんの週末
金曜日の午後、作業がひと段落したのでグッと伸びをすると〝ぽきり〟と関節が小気味よく音を立てた。
思わず「いてっ」と呟くと、近くのデスクの先輩達がこちらを見て笑う気配が心地良い
「大丈夫ですか」
隣の細海先輩にも聞こえたらしく安否確認をしてくれた
相変わらずこの先輩は表情が読みづらい
重い前髪にメガネをかけているので背の高い俺から見るとほぼ目が見えないし、淡々とした口調とあいまって最初の頃は少し怖い印象もあった
「大丈夫です!関節が鳴っただけなんで」
そう言うと安心したようで「なら良かった」と、また自分の作業に戻る
「ところで細海先輩、業務に関係ない話をして良いですか?」
そう聞くと「どんな話ですか」と静かにEnterを押して再びコチラに視線を向けてくれる
「明日、友達と古着屋巡りに行くんですけど、このあたりでおすすめのランチとかありません?」
そう言いながらスマホで地図を見せると小声で「本当に多趣味だなぁ…」と聞こえ、ジッと地図の場所を確認する
「この辺ですと老舗の洋食屋さんがあります、入りづらければチェーン店も沢山あるから選び放題ですよ」
そう言いながらお店のURLを送ってくれた
「あざっす、じゃあ友達と相談するとき候補に出してみます」と、情報を保存した。
細海先輩の行く店は新しいカフェから、こういう昔ながらのお店まで幅広いので聞くだけも楽しい
「そういえば…」
ふと気になった事が口から零れ落ちる
「細海先輩ってプライベートではどんな服装なんですか」
教育係の細海先輩という人は
性別と趣味くらいしか、はっきりした輪郭がないように現時点の俺には見える
研修が始まってしばらく経つけど、服装に統一感がないというか、サイズが有っていないというか
全体的に“こういう人”というカテゴリーに当てはめられずにいた。
「好きな服を着ますよ、ジャンル関係なく」
そう言いながら今着ているカーディガンの端をつまみ
「会社には祖母や母のお古とか着てくるので“仕事に来る時の私”コスプレですね」
と教えてくれた
「古着屋行く俺が言うのもなんですけど、物持ち良いっすね」
なるほど、だから丈やサイズが有っていないのか
「仕事って人生の半分を占めるから服装自由な会社なら好きな服着てくるもんだと思ってました」
性別も考え方も価値観も、本当に何もかも違うこの先輩について数か月
「この会社は髪型、服装、メイクが自由ですからね、よって“仕事に来る時の私”コスプレも合法と言う訳です…まぁ仕事の時とプライベートのオンオフは差が大きい方が楽しいじゃないですか」
と、静かにドヤ顔で言われた。
「そうですね、確かに〝細海先輩〟って感じがします」
こんな細海先輩との空気感をなんやかんや楽しく思っている
「じゃあ、いつか好きな服着た細海先輩におすすめの美味しいご飯屋さんに連れて行ってもらうという事で」
そう言う俺に
「趣味は〝1人〟飯って言ってるじゃないですか」
と呆れ顔で笑った
カクヨムにて1話から投稿し始めました




