表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

  【お願い】最近ネット上でうわさされている件について


 先日、本作品の作者である岩重クラリス――つまり私の妹の死についてご報告しました。


 また、妹の部屋から見つかった左手の指紋の持ち主が、すでに二週間以上前から交通事故で死んでいたことについても前回の追記でお伝えしました。

 素直に考えれば指紋の主は殺人犯ではありえないということになりますし、だとすればなぜ犯人はそのような指紋をわざわざ現場に残したのかという疑問が出てきます。


 その点について、警察の捜査はまだ進んでいません。


 話は少し変わりますが。

 この件について、世間ではSNSなどを通じてあるうわさが広まっています。

 妹の死の真相に関する、外野の推測めいた内容です。


 本日はそのことについて、私の今の心境をお話させてください。



◇◇◇


 うわさの内容はおおまかに以下の通りです。


 先述した指紋の持ち主は、妹から作品批判を受けていた例のウェブ作家そのひとである。

 死んだ時期や、現場から左手が消えたなどの共通点から、ほぼ間違いないだろう。


 彼は妹のレビューで自作品に関する批判にショックを受けた直後、歩きスマホによる不注意から交通事故に遭い死亡した。


 実は、その消えた左手には、死んだウェブ作家の怨念が宿っていた。

 左手は関東から四国へ移動し、妹を殺害し、その恨みを晴らした。

 例の迷惑メッセージも霊障のひとつであり、全て故人から送られた恨言だったのだ。


 左手はいまも見つかっておらず、どこかを彷徨っている。


 と、そのような内容です。

 要するに、妹は死者に呪い殺されたのだというわけです。


 このような奇怪なうわさが、今ネット上でどんどん拡散されているのです。


 これを広めている人たちは、それが本当に事実だと思っているのでしょうか。

 作品を少し批判されたくらいで、相手を殺したくなるものなのでしょうか。

 私には、オカルト話を面白がっているとしか思えません。


 しかも。

 一部界隈では、殺された妹がまるで悪人のように批判されはじめています。


 他人の作品にケチをつけた妹は、恨まれても自業自得なのだそうです。

 他人の作品にリスペクトのない作家は、祟られて当然なのだそうです。


 私には、レビューというものの良し悪しや作法は分かりません。

 妹のレビューを読んでみても、呪い殺されるほど悪辣だとは思えませんでした。

 ですが、あの内容に強い反発を抱いた人も世の中には多いようなのです。


 そして同時に。


 妹を呪い殺したとされる作家の遺作もまた、炎上に伴い注目を浴びています。

 そちらについてのネット上の反応も、これまた酷いモノでした。


 稚拙だ、つまらない、才能がない、などという意味合いのネガティブな感想。

 それらをいかに悪意と皮肉で膨らませて表現できるかを競い合う大喜利大会のような様相を呈しています。


 一方では妹のレビューをけしからんものだと叩き、人間性を批判して。

 一方ではレビューされた側の作品に対して、執拗に侮辱の言葉を並べて。


 どちらもまるで、死者に鞭を打つ非道ではないでしょうか。


 そして最悪な事に。

 このうわさは、現実世界にも影響を及ぼし始めています。


 私たち家族は、雑誌記者や動画配信者から取材されるようになりました。

 どうやら妹がなろう作家であることを知る人間――おそらくは彼女の生前の友人あたり――から、妹の個人情報がネットに漏れたようなのです。


 取材者たちは突然自宅へとやってきたり、マンション入口でしつこく出待ちしたりと非常に迷惑で困っています。

 ご近所さんや両親の職場にまでうわさは広まっており、半ば事実のように語られています。


 針のむしろです。

 家の外にいても、家のなかにいても、常にだれかに見られているような不気味な感覚につきまとわれるようになりました。


 私はいま就職活動期間中なのですが、とてもじゃないけれど集中できそうにありません。

 明るい未来など想像することができず、暗澹たる気持ちでいっぱいです。


 私も両親も、心身ともにすっかり疲れてしまいました。

 どうしてこのようなことになってしまったのでしょうか。


 冷静に思い返せば、このサイトで妹の死を報告したこと自体が、そもそもの間違いだったのかもしれません。

 その点について私を批判する人たちもかなり多いようです。


 たしかに軽率でした。

 そして私の過ちの代償は、今や家族の生活の崩壊へと至りつつあります。



 ◇◇◇


 皆さまにお願いです。


 オカルトめいたうわさを拡散したり、死者に対する中傷で盛り上がったり、私たち遺族を追い立てまわすのをもうやめてください。

 わたしたちをそっとしておいてください。


 どうか、よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ