【お別れ】 最後のご挨拶
先日、妹の死に関するネット上のうわさについてお伝えしました。
残念ながら、未だにうわさは止むことなく続いています。
悲しいことですが、これはもう仕方のないことなのでしょう。
私自身はもともと、死者の怨念など信じていませんでした。
ここ数日はうわさを見聞きするたび、妹の死を茶化されているようで非常に不快に思う日々を過ごしてきました。
ですが。
今では、気持ちもだんだんと変わってきました。
もしかしたらうわさは本当なのかもしれないと考え始めています。
◇◇◇
実は昨日、こんな夢を見ました。
見渡す限りの薄暗闇の中。
目の前に、なにか小さい塊のようなものがほんやりと浮いています。
近づいてよく見るとそれは、人間の左手でした。
握りこぶしになった左手が、手の甲をこちらに向けて浮いているのです。
夢の中の私は、その奇怪な光景をただ静かにじっと見つめていました。
そのまましばらく状況を眺めていると。
やがて、一本の指が、おもむろに上へと持ち上がりました。
中指を立てるサイン。
その意味くらいは、私も知っています。
誰かを挑発するときに用いられる、侮辱的なジェスチャー。
左手だけでも行うことができる、最大限の悪意の表現方法。
その悪意が、静かにこちらへと向けられたのです。
そして次の瞬間。
突如、胸の中に激しい怒りがとめどなく沸き起こってきました。
人生、世界、この世の全てが、どうしようもなく憎らしくてたまらなくなり――。
脈絡のない急激な感情の奔流に、私は戸惑い崩れ落ちました。
それはまるで他人の感情が、自分の中に無理やり流しこまれたかのようで。
ぞっとしました。
忌むべきなにかが、自分の中に侵入してくるような感覚。
ですが。
同時に私は、不思議とある種の共感を覚えてもいました。
妹を亡くし、世間からうわさという形の悪意を向けられている私は、理不尽なこの世界に対して強い憎しみを抱きつつあるということ。
自分を取り巻くなにもかもに、消えてほしいと心の底で願っていること。
そんな醜い心の内に、このとき初めて気が付いたのです。
そして。
それを自覚した瞬間、私はいきなり放り出されるように夢から醒めたのでした。
◆◇◇
あの夢をきっかけに、私のなかの何かが変化しました。
自分は一歩も動いていないのに、絶えずどこかへと移動しているような、ふわふわとした感覚。
自分が自分でなくなっていくような、そんな感覚。
あの夢の中で感じた怒りの感情は、未だに心のなかに渦巻いています。
うわさが憎い。
悪意を向けてくる世間が憎い。
誰も助けてくれないこの世界そのものが憎い。
一方で、不思議なことに。
妹を殺した何者かに対する怒りは、なぜかそれほど浮かんでこないのです。
本来ならば最も憎むべき元凶のはずなのに。
そちらを憎もうとしても、いつのまにか世間への怒りにすり替わっているのです。
どうしてなのでしょうか。
この異常な怒りの根源はどこからやってくるのでしょうか。
考えているうちに、突飛な答えがふと頭によぎりました。
もしかすると私は、妹を呪い殺した怨念に憑りつかれてしまったのではないでしょうか。
私が世間に対して感じている怒り。
それはきっと、怨念の怒りでもあるのです。
妹に関する無責任なうわさに私が怒りを感じているのと同じように、怨念もまた自分の遺作を好き勝手に批判されて怒っているのだと思います。
妹を殺した存在に対する怒りが私のなかに上手く浮かばないのは、私自身がその元凶そのものと同化しつつあることの現れなのでしょう。
あまりに非現実的だと思われるかもしれません。
考えすぎだと馬鹿にされるかもしれません。
そもそも怨念は何の目的で私なんかに憑りつくのかという疑問も出てきます。
ですが、一度そんなふうに考えはじめると、もう駄目でした。
自分の中に、自分ではないなにかの存在がまとわりついているような感覚が、どうやってもずっと消えなくなってしまいました。
私はすっかりその迷妄から抜け出せなくなっていったのです。
◆◆◇
突然ですが。
私は、ウェブ作家だった妹とは違って、長めの文章を書くのが苦手です。
国語が苦手で、文法なんかも自信がありません。
また、この記事の文章はすべてパソコンのキーボードで入力しています。
ですが私は普段スマホやタブレット端末しか使わず、これまで一度もキーボードを触ったことがありませんでした。
アルファベットが不規則に羅列された板の使い方がさっぱり理解できなかったからです。
分かりますでしょうか。
本来の私は、パソコンで文章をウェブ投稿するような人間ではないし、その技量もないのです。
なにも発信しないという選択肢もありました。
本来の私なら、きっとそうしたでしょう。
ですが実際には、私はこのサイトに投稿することを選びました。
あの時の私は、妹の作品を読みにきた皆さまへの礼儀として、あの報告文が必要なのだと考えていました。
そうやって自分の意志で投稿したのだと、そう思っていました。
ですが。
今思うと、本当の理由は違ったのでしょう。
妹を殺した怨念が私に憑りついていると仮定して、私の考えをいいます。
怨念が、私に書かせたのです。
私の意識に干渉して、操ったのです。
わざわざウェブ上で、何かを誰かに文章で伝えたいと思い至ったこと。
使い方も分からないキーボードで、不自由なく文章を作成できたこと。
初めて利用するはずのこのサイトで、迷うことなく投稿できたこと。
それらすべてが、怨念の影響だと考えれば理解できる気がするのです。
これは推測でしかないのですが。
怨念は妹を呪殺したあとも、この世界に未練が残ったのではないでしょうか。
なにかを書いて、世間に公開して、あわよくば認められたい。
そんな、文芸の道への未練が。
だから私に憑りついて、自分のやり残したことをこれから再びやろうとしているのではないでしょうか。
作家人生の続きを、私の人生を使って。
私にここまで報告文を書かせたのは、ウォーミングアップのようなものだったのではないでしょうか。
私にはそのように思えてなりません。
もしこの考えが合っているなら、昨日の夢を見るよりもずっと前から、私はすでに憑りつかれていたということになりそうです。
我ながら突拍子もないことを信じ込んでいると理解しています。
精神を病んでしまっているのかもしれません。
憑りつかれているにしても、頭がおかしくなっただけにしても、同じことです。
どちらにせよ私はもはや、以前の自分には戻れないのでしょう。
今、私の中には、これまで存在しなかった強い衝動があります。
自分が現在抱えている感情を、世界に訴えたい。
怒り、不満、憎しみを、この世の全ての人にぶつけたい。
そんな衝動です。
そういうわけなので。
実は一つ、考えていることがあるのです。
◆◆◆
小説を書きたいと思います。
妹が愛した、文芸の道を。
文章が苦手で普段本を読んでこなかったド素人の、この私が。
自分の負の感情を、物語として昇華したいと思うようになったのです。
これは私の意志なのでしょうか。
それとも私に憑りついた怨念の遺志なのでしょうか。
別にどちらでもいいのです。
今回、皆さまに向けてこの報告文を書いているあいだ、私は嫌なことをすべて忘れることができました。
悪意に満ちた世間に対する怒りも。
この先の未来に対する恐怖も。
妹を失った悲しみすらも。
初めて知ったのです。
自分の中にある感情を、文章に乗せて吐き出すこと。
それがこの残酷な世界のなかにあって、こんなにも救いになるなんて。
だから、私は小説を書こうと思うのです。
とりあえず今は、これから書く物語のあらすじを考えています。
この世界への怒りを全て注ぎ込んだ作品にするつもりです。
うわさの拡散に関わり、妹を無責任に批判した全ての人間に向けて。
私の憎しみを全て叩きつけるような作品を。
彼らの人格や人生ごと批判し、絶望させるような作品を。
出来上がった作品は、驕コ譖ク縺ィ荳?キ偵↓発表します。
この作品は私が蜻ス繧堤オカ縺、縺薙→で完結するのです。
作品を通して、世界中に私の謔ェ諢上→蜻ェ隧帙r縺ー繧峨∪縺?※やります。
――それがこの世界に対する、私なりの復讐。
――それがこの世界に対する、私なりの中指の立て方。
時間はかかるかもしれませんが、かならずやり遂げます。
ストーリーについては、まだなにも決めていません。
ですが、作品タイトルはもう決めてあります。
「Fxxk The World」
それでは皆さま、ごきげんよう。
いつか、未来で会いましょう。
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