51/魔法
「あああ——あ、ぐっ、うう」
信じられない。
二つ目の封印を施せば、そりゃあ負担はより重くなるとは思っていた。けれどもこれは倍どころの話ではない。
身体の重さはより酷くなった。立っているのも辛い。正直今すぐにでも倒れてしまいそうだ。身体の痛みだって酷い。内側からの刺すような感覚は増え、さらにギチギチと何かが引き絞られるような感覚すらする。熱も上がっている。身体の中が熱い。全てが熱を持っている。神経の一つ一つ、臓器の一つ一つの形がハッキリと感じられるようだ。
封印はあと五つ。
今はまだ耐えられる。梯子を上って、烏兎やグレイさんの前に戻れば元通り。いつも通りのわたしを演じることはできるはずだ。
けれどグラフォさんの言う通り、恐らく三つが限界。次がわたしがまともに立っていられる最後かもしれない。これ以上負荷が重くなれば、わたしは本当に、ただただ封印を施すだけの、封印を維持するだけの道具になるだろう。
「それ、でも」
やらなくちゃいけない。滅びを呼んだ責任を取らなければならない。救いたいという自分の意思を貫きたい。
それにまだ、ここでやらなくちゃいけないことがある。
「モルガーナ?」
杖を再び魔法陣の中央に突き立てたわたしに、テイルが訝しげな声を出す。それを無視して、わたしは少しでも多くのヒトを救えるかもしれない、一か八かの魔法を行使するための詠唱を始めた。
「魔力器官、起動。接続。解析——っ」
「は……おい、おい! 正気か⁈ 失敗したら目も当てられんぞ! おい、モルガーナ!」
膨大な情報が頭に入ってくる。そのせいで、テイルの声なんて少しも耳に入らない。
「魔力、挿入」
対象人数が多すぎる。それでもやらなければ、みんなは魔人のままだ。とにかく慎重に、ヒトリも取り残すことなく、魔力を込める場所を狂わせることもなくやらなければ。
「っ、性質、変更」
片っ端から、繋がったヒトビト……正確には魔人たち……の情報を書き換えていく。元の存在へと戻るように。ニンゲンの姿へと戻るように。
ありがたいことに、魔力さえ尽きなければこの効果は続くだろう。その魔力が尽きるという心配も、外の世界からのエネルギーの供給がある限り考える必要はない。
「————完了」
この土地にいる魔人だったモノ。その全ての性質の書き換えが終わったことを確認して、わたしは杖を引き抜いた。
「…………正気か」
呆れたような、心配しているような声が狭い部屋に響く。
魔法は成功した。それは、テイルから見ても一目瞭然だったらしい。
「当たり前、でしょ……っ、ぐ」
二つ目の封印で重くなった負荷が、さらに重くなって身体にのしかかる。魔力器官が活発に動き続けているのが分かる。外からのエネルギーを変換しては、片っ端からそれをヒトビトへと送り込んでいる。
「は、あ——」
立っていられず、地面に膝をつく。
手足で身体を支えて、ぜえぜえと荒く呼吸をする。息を吸うたびに身体が痛む。息を吐くたびに身体が痛む。瞬きをするたびに身体が痛む。ただ存在しているだけで、耐えきれない痛みが続いている。
「でも、これで」
みんなは助かったはずだ。魔人たちはニンゲンへと戻ったはずだ。
魔法が成功した手応えはあった。それでも、早く自分の目で確認しなければならない。
心配そうに顔を覗き込むテイルに笑顔を向けて、ゆっくりと身体を起こす。そうして杖をついて、壁に手を当てて、のろのろと封印の場を後にした。




