40/厄災の種
魔物の巣はまだまだ続く。地面は泥沼。周囲には枯れて色を失った木々が立ち並んでいる。
と、変わらない景色の中、なんとなく違和感を覚えて視線を横へと向ける。
枯れた木々の向こうに、強い魔物の気配というか、魔力の気配を感じた。わたしでも感じるようなものだ。当然メルリヌスさんと烏兎も気がついたらしく、足を止めて同じ方向を見ている。
「うん? なんだろうね、あれ」
興味を持ったのか、メルリヌスさんは進む方向を変更して木々の向こうへと向かって行く。後を着いて行ってみると、やがて少し開けた空間にたどり着いた。
そこには、黒く光る泥の塊のようなものがふよふよと浮かんでいた。
周囲を警戒しつつ、みんなで泥の塊へと近づく。巨大な卵のようなそれは、繋ぎ目などなく、簡単に割れそうな気配もない。こちらに何か害を与えてくる様子もない。だが明らかに、それからは強い魔力の存在が感じとれた。
メルリヌスさんは躊躇うことなくそれに触れると、うわ、と珍しく嫌そうな声を漏らした。
「これ、あの塵が固まってできたものだ。中の解析まではできないけど、詰まってるのは確実にろくなものじゃない。何年、いや、何十年と溜まり続けているんだろう。こういうの、これまでにもあったのかな」
メルリヌスさんは触れていた手を離して、ぶんぶんと汚れを落とすように振る。
「浄化できるのならした方がいいんだろうけど、これはやめておいた方がいいね」
「どうしてですか?」
烏兎の大鎌で一撃、とはいかないのだろうか。
「割ればその瞬間、溜まりに溜まった汚れが災害となって放出されるだろうよ。そりゃ烏兎ならなんとかできるだろうけど、わざわざ災害の蓋を開いてまで処理する必要もない。うん。見たところ、これが爆発するまであと五十年はあるはずだ。放っておいても問題ないだろう」
というか関わりたくない、そんな雰囲気を滲ませながら、メルリヌスさんはもと来た道を戻っていく。烏兎もメルリヌスさんの意見に賛成なのか、特に何も言わずにメルリヌスさんの後を着いて行く。
「……」
五十年後に開くであろう災害の蓋。気にならないわけではないが、あの二人が何もしないと言うのなら今は従うしかない。
けれどああやって塵が固まってしまうことは、これまでにもあったのだろうか。今回が初めてのこと、とは考えにくい気がする。
「テイル、昔にもあの卵による災害ってあったのかな」
テイルに訊いても仕方がないかもしれないが、なんとなく訊ねてみる。さあな、とでも返ってくると思っていたのだが、意外にもテイルはあの卵について知っていたらしい。
「ある時から百年に一度、あの卵による災害が起きている。魔物たちは倒されれば塵になるし、その塵が集まればまた魔物の姿へと変わる。だが塵が魔物にならず、溜まり続けることがある。それがあの卵だ」
ビシリ、と尻尾のようなものでテイルは卵を指さした。
「溜まった塵は災害を呼び寄せる。メルリヌスの言った通り、あれが破裂すればステラには災いが訪れる。日照りが続いたり、魔物が大量発生したり、大地震が起きたり。内容はその時々によるけどな」
「なら放置しないほうがいいんじゃないの、あれ」
そんな危険な物を放置していていいとはとても思えない。だがテイルは首を横に振ってそれを否定した。
「今開けるべきでもないだろう。開けたところで、どんな災害が起きるか分からない。対処のしようもない。ま、アステールを倒してから考えても問題ないことではある。どうせ、次に開くのは五十年後なんだから」
どこか諦めの色を滲ませた声で言って、テイルは黙り込んでしまった。
気にはなるが、今するべきことは他にもある。大人しくテイルやメルリヌスさんたちの判断に従うしかないだろう。
もと来た道を引き返して、メルリヌスさんたちを追いかけた。




