第六十三話 この場所は……
聞き間違い……ではなさそうだ。セインさんは、間違いなく、私のことを片翼だと言ってくれている。そして、苦しくなるほどに、抱き締めてくれている。
「もう、離しません」
「ぁ……」
セインさんの肩は、今もまだ震えている。それに対して、不謹慎だとは思うのに、私は喜びを抑えきれなかった。
「セインさん……」
「もし、リコさんに運命の番が現れたとしても、俺は、リコさんを手放すことなんてできません。もちろん、そうしたケースの悲劇だって知っています。ですが、それでも、離せません」
「セインさん、私」
『私の運命の番は、セインさんです』そう、言おうとしたところで、バンッと大きな音がした。
「姉様!! 目が覚めたんですね!!」
そこには、なぜかレノが居て……いや、よくよく考えると、起きた時にここがどこかと考えなかった時点で、ここがとても良く、見知った場所だったということに気づく。
ここ……私の部屋!?
「レノ君、まだリコは起きたばかりですし、もう少し声を抑えてください」
「あ、はい。ごめんなさい。セインさん」
「…………」
私の部屋にセインさんが居る、という事態と、なぜか普通にやり取りをしているレノとセインさんという光景。それらに混乱して、私は言おうとしていた言葉が全て吹き飛んでしまったことにすら気づけない。
「それで、姉様は大丈夫ですか?」
「大、丈夫……」
混乱中ではあれど、実際に体に異常は感じられない。あとは、そう……。
「あの……何で、私の、部屋……?」
現在の最優先事項は、現状確認だ。どんなに記憶を漁っても、セインさんが私の家を知っているという情報は出てこない。……いや、一つだけ、可能性があった。
「リコさんのお祖父様に連絡をしたところ、ここへ向かうように言われたのですよ。それで、失礼かとは思いましたが、慣れた寝室の方が良いというご家族の判断で、この部屋に移させていただきました」
「そ、う……ですか……」
そう、元々は、ダンお祖父様がセインさんと知り合っていたのだ。だから、ダンお祖父様に連絡をするのは当然だし、セインさんの片翼が私だとは知らないダンお祖父様が、セインさんに私を家に連れてくるよう告げていてもおかしくはない。
そして……そっと視線を向ければ、セインさんの背後で、笑顔で親指を立てているレノの姿が目に入る。
……つまり、セインさんは誘導された、ということかな?
その意味はきっと、私がセインさんに想いを告げやすくするため、そして、万が一上手くいかなければ、私がセインさんに対して何かするのを止められるようにするため。ただ、恐らくは、なのだが……。
今の会話、聞かれてた!?
セインさんの片翼が私だという話は、きっと、間違いなく、レノの耳に入っている。そして、この場で乱入した理由は、もちろん私への心配もあるのだろうが、ここがどこなのか、私に自覚させるためもあったのだろう。
もし、レノが来なかったら……。
きっと、私はセインさんと愛を確かめ合っていたことだろう。それが家族に筒抜けになる可能性にすら気づかずに。
「ありがとう、ございます……」
顔が赤くなりそうなのをうつむいて隠し、私はひとまず、その一言だけを絞り出した。




