第五十六話 暗闇の中で(とある△△視点)
✻注意
この話は暴力的な描写があります。飛ばしても話は通じるので、苦手な方は読み飛ばしてください。
暗闇の中、じっと蹲る黒い影。ジメジメとした地下に設けられたその場所で、彼は、実の母を失ってからずっと、閉じ込められていたらしい。
痩せ細った体には、無骨な手枷と足枷が取り付けられ、ピクリとも動かない。
と、その暗闇にガチャリと音が響く。
「ふんっ、いつ見ても忌々しいわねっ!」
ゼラフに良く似た色味を持つ女性は、吊り目でキツそうな雰囲気を持つ狐の獣人だ。そして、ゼラフの母親でもある。
レアナ・ドーマック。それが、彼女の名だ。
レアナの登場によって、うずくまっていた彼は、ビクッと体を震わせ、必死に頭を抱えて体を丸くする。
「でも、あんたには、存分に苦しんでもらうわっ。あんたの母親の分もねぇっ!!」
そう言って、レアナは手に持っていた鞭を振るう。何度も、何度も……。
早く助けたい、とは思えども、今はそれをすることなどできない。まだ、全ての証拠は集まってはいないのだ。まだ、手を差し伸べることはできない。
彼は、悲鳴を上げることもできずに、苦痛の時間を過ごす。
鞭だけではなく、つま先が細いヒールで蹴り上げられ、その軽い体は一瞬浮き上がり、ゴボッと血反吐を吐く。
このままでは、死んでしまうっ。
それでも、今、何かを行ったとしても、彼を助けられないことは理解できていた。ただただ、待つことしかできない自分が情けない。報告はしているものの、まだ救出の合図は出ない。ただ……。
もう少しだ。もう、少しで、助けられるっ。だから、あと少し、耐えてくれっ!
私にできることは、ただ、誰も居ない隙に食事を与えること、そして、怪我の治療をしてやること。
本当は、もっと色々してやりたいとは思えども、それは救出の合図が出なければ不可能だ。
目の前で運命の番が痛めつけられているという現状に、目の前が真っ暗になりそうになるが、必死に殺意を押し込めて、ただひたすらに待つ。
彼が私の運命の番だと判明したその瞬間は、任務を降ろされる危機に直面することになったし、実際、彼が痛めつけられる現状を黙って見ているしかないというのはとてつもなく苦しい。
それでも、私はこの任務に就くことを望んだ。全ては、この手で報復するために。彼を、私の手で守るために。
合図が出たのは、その三日後。その日こそが、ドーマック家の滅亡の日となった。




