第五十五話 似たもの親子(とある◯◯視点)
獣人の貴族は、野蛮な者が多い、などと人間の国では言われているが、実際は人間とさほど変わりはない。もちろん、個々の身体能力は人間よりも高い傾向にあるし、万が一、運命の番と出会った場合に備えた控室が完備してあるという違いはあるかもしれないが、概ね同じだ。つまりは……。
「まぁ………ふふふっ」
「……ですわねぇ」
陰口なんかも、人間の社交界と変わらず、囁かれる。ただ、身体能力の高い獣人であっても聞き取れるかどうか、という小声なので、人間では聞き取れないだろうが。
「ふんっ、忌々しいバルトリアめっ」
と、そこに登場したのは、ドーマック公爵家当主、ゴウル・ドーマックだった。ついでに、ゼラフも共にその場に来ているが、こちらはニタニタとした笑みを浮かべていて気味が悪い。
「父上、きっと、これでリコは……いや、バルトリア家は終わりです。そうすれば、慰謝料などというものも払うことなく、むしろ、こちらが慰謝料をもらえる立場になるでしょう」
「そうでなくては困る。これだけ、あの小娘の悪評を広げたのだ。その内、我が家に助けを求めるに違いない」
彼らが行ったのは、元婚約者であったリコの悪評を広めること。公爵家である彼らからの情報は、普通であればあっという間に広がり、それがさも真実であるかのように語られる。たとえ白いものであっても、公爵という身分の者が黒と言えば、大抵の家は従うものだ。
リコは、体に醜い傷を負った女であり、様々な男を弄んだ魔性の女。そんな噂を、彼らは広めていた。
ついでとばかりに、先日、リコが男と居るのを目撃したなんていう情報も付け足して、信憑性を高くする。そうすれば、リコの縁談はなくなり、バルトリア家はドーマック家に頭を下げるしかなくなるだろうと思っているのだ。当然、リコとゼラフが結婚することはないが、その状況ならばバルトリア家からの慰謝料請求など取り下げられるし、むしろリコを囲うことで金銭の要求すら可能だと、そういう魂胆なのだろう。
しかし、彼らは、全く現状が見えていなかった。周囲の者が、誰に白い目を向けているのか、誰を嘲笑っているのか。
ただただ、公爵家という身分しか取り柄のない彼らには、社交など到底できるはずもなかったのだ。
公爵家という身分にのみ価値を見出している者達以外は、落ち目とされる彼らに味方するはずもないのに。
「しかし、お前の運命の番は、なぜ出てこないのだ?」
「どうやら、とても恥ずかしがり屋のようなので、こちらでも手をこまねいているところなのですよ」
「ふむ、私とレアナはそのようなことはなかったが……まぁ、運命であれば、何としてでも手に入れるのだぞ」
「もちろんです。父上」
それが、破滅の引き金になることなど、彼らはまだ、気づいていなかった。




