第五十話 脅迫?(セイン視点)
リコが、妙に積極的、ですね。
今日のデートを、俺は本当に楽しみにしていた。そして、リコから遠慮がちに指を掴んでもらえたことも、その後、恋人繋ぎができたことも、本来なら喜ぶべきことではある。しかし……。
誰かに、脅迫でもされた、とか……?
リコからは、何とも言えない切羽詰まった雰囲気を感じる。それに、魔族の片翼を脅迫、というのは、命知らずにも思えるが、実際によくある事件だ。
魔族というのは、美形が多い。そのため、魔族との結婚に憧れる者は男女問わず多く居るのだ。
一般的に、近衛騎士という立場の魔族は、その中でも高い能力を持つ優秀な者、という認識で、嫉妬に駆られた者が片翼を脅迫するなんていう事件は後を絶たない。
当然、片翼を害された魔族が黙っているわけもなく、その者の末路は悲惨なものと相場が決まっている。しかし、片翼のために、それを公にしない魔族の方が大半であるため、その現実を他種族が知っていることはほとんどなかった。
調査をすべき、でしょうね。
リコが片翼であることは公言してはいないものの、俺の側に居るというだけで嫉妬されかねないことも知っていた。もしも、嫉妬によってリコを怖がらせているというのであれば、早急に解決すべきだ。
「リコさん、今日もとても綺麗ですね。女神が舞い降りたのかと思いましたよ」
まず忘れてはいけないのが、リコのその愛らしさを褒めることだ。
ピクッと耳を動かして、恥ずかしそうに頬を染めるリコが、可愛らしい。
「今日は俺のお詫びなので、美味しいスイーツの店や、雑貨店などを中心に回ろうと思いますが、リコさんが行きたい場所はありますか?」
そう問いかければ、キュッと手を握り返して、リコは迷うように目を泳がせる。
「……それとも、アスレチック広場へ行って、思う存分遊びましょうか?」
獣人は、体を動かすことが好きな者が多い。リコも猫科の獣人のようだから、もしかしたら、そちらの方が楽しいかもしれない。そう思って提案すれば、リコの耳がピョコンと跳ねる。
「その……えっと……」
「確か、アスレチック広場では、運動着の貸し出しがあるのと、希望すれば化粧直しも頼めると聞きましたよ」
今日のリコも、とても可愛い。きっと頑張ってお洒落をしてきてくれたのであろうことが見受けられるその姿で、アスレチック広場というのは多少、デート場所の候補としては相応しくないかもしれない。ただ、ここは獣人の王国であり、デート場所にそうしたものが選ばれることとて多いのだ。と、なれば、女性の心理をフォローするようなサービスがあるのも当然のことだ。
「シャワールームはもちろん、温泉もあるはずです。スイーツ区画ほどではありませんが、有名なムース専門店とチョコレート専門店もあったと思います。雑貨店に関しても、いくつかありますよ」
調べた情報を披露すれば、リコは驚いたように目を丸くする。
そう、それで良いのです。今は、脅迫など忘れて、楽しんでもらえたら。
リコを脅迫した不届き者は、後で炙り出して地獄を見せるとして、今はとにかく、リコに楽しんでもらおうと笑みを深める。
「俺も運動したいところではありましたし、アスレチック広場に行きますか?」
「は、い……」
嬉しそうなリコの様子に、俺は内心悶えつつ、そっとリコの手を引いて歩き出した。




