第四十六話 魔族監査官(セイン視点)
リコとのデートの翌日。俺は、この国で与えられた執務用の部屋で、一人、片翼特例措置の申請を行なっていた。言わずもがな、あの店の守りを固めるための申請だ。
俺達魔族は、片翼のためにはどんなことでもしてしまう。そして、そのせいで悲惨な結末を迎える者とて、昔は大勢存在していた。……そう、それは昔のこととされている。なぜなら……。
「これを、魔族監査官へ」
「はい、承りました」
真っ黒なベレー帽を被った、顔を認識できない何者か。高度な認識阻害の魔法を扱って、正体を隠す彼、いや、彼らは、魔族が道を踏み外さないように、片翼を見つけた魔族を監視する者だ。
魔族は、例え国を違えたとしても守らなければならない法が存在し、片翼を見つけた場合、速やかに魔族監査官へ届け出を行うことや、片翼の要望に答える際に、周囲に影響が出る場合の届け出がそれに当たる。
リコと出会った直後、片翼を見つけたという届け出はすでに出している。そして、リコが気にしていた店の守りも、同じように今、申請しているというわけだ。
こうしたことを徹底することによって、片翼と魔族を巡る悲劇を回避することとなる。届け出ることを二日忘れれば、魔族監査官からの注意勧告が来て、三日目にはその日中の提出がない場合は排除が決定するという警告がなされる。
魔族監査官という存在が、どうやって俺達魔族が片翼を見つけたことを知るのかは不明だが、大抵の魔族は、片翼に出会った直後に届け出るし、もしも怠けていたとしても、三日目の警告が出されれば、誰でも届け出を提出する。何せ……排除の対象は、自分ではなく、片翼なのだから……。
魔族監査官の手足とされている認識阻害のかかった彼らは、魔族達が必要とする時に、どこからともなく現れて、魔族監査官へと繋いでくれる。もはや、そういう存在なのだと納得する以外にはない、というくらいに、彼らの存在は謎で満ちていた。
「事後報告ですが、問題はありませんよね?」
「はい。問題ありません」
機械的に返答をした彼は、そのまま一礼をすると、その場からかき消える。その存在を知らなければ、恐ろしいとしか思えない存在だ。
「団長、今、よろしいですかっ?」
と、そこに、俺の補佐をしてくれている男の声が聞こえる。普段からのんびりとしている彼は、珍しく慌てているように聞こえる。
「入れ」
「失礼します! 団長! 片翼が見つかりました! ありがとうございますっ!!」
「は?」
そして、そいつから放たれた言葉に俺は耳を疑った。




