第三十二話 心はグラグラ
セインさんとのデート。……いや、セインさんにとってはただのお詫びなのだろうが、好きな人とのお出かけを『デート』、と称したい乙女心は、簡単に止められるものではない。
早過ぎる到着に、何故かセインさんも同じように着いていて、急遽、そのまま街へ繰り出すことになる、なんてトラブルもあったものの、多分、きっと、楽しく過ごせていたはず……なのだ。それなのに……。
『なんだ? なぜ、お前がこんなところに居る?』
聞きたくもなかったその声は、元婚約者のゼラフの声であり、その後、散々に罵倒された。その上、その対処をセインさんにしてもらって、迷惑までかけて……最初は浮き立っていた心も、今は地の底まで沈んでしまう。しかし……。
「はい、リコさん、あーん」
この、状況はいったい……?
何故か、このお店の店員一同に感謝され、とっても美味しそうなフルーツパフェが登場して、セインさんが甘い顔で、甘いパフェを私に食べさせてくれている。
今の状況を飲み込むことは出来ないくせに、セインさんからのパフェは素直に飲み込んでしまう。ただ……味を感じられるだけの余裕は全くないが。
「リコさん、こっちのフルーツも。はい、あーん」
私……夢でも、見てる……?
もしかしたら、ゼラフと出会った時に何かあって、その衝撃で気絶しているのかもしれない。そう思えるほど、今が現実だとは思えなくて……それでも、とても幸せな時間であることは確かで、夢ならば醒めないでほしいと祈る。
「リコさんが、可愛い……」
時折、小さく呟かれるその声に、私の精神的な何かはどんどん、ゴリゴリと削られていく。きっと、セインさんは私にその言葉が聞こえているなどとは思っていないのだろう。
体温の上昇は、留まるところを知らない。
「リコさん、手を、握っても良いですか?」
そうして、甘い表情のセインさんからそっと、慈しむかのように優しく手を握られた瞬間、私はとうとう限界を迎えた。
「きゅぅ……」
「リコさん!?」
最後に、どこか遠くでセインさんの慌てる声が聞こえた気がした。




