ジェンガで女の戦いが
全員喋りもせず、大会は驚く程スムーズに進行した。
今回の参加者リストは俺、エレナ、ルネ、詩織、リカ、アリスだ。
ジェンガをやるには逆に多すぎる様な気もするけど……。
まあ徐々に減っていくとなればあまり関係はないか。
もはや戦いの火蓋は切って落とされている。
今更俺の力ではどうすることも出来ないのだ。
ルールを確認しておこう。
六人でジェンガをやって、崩したやつから抜けて行く。
最後に残った一人が優勝……景品は俺とのデートらしい。
俺が勝った場合は誰か好きな人一人とデートだってさ。
本当に誰が得をするんだか……。
日本にいた頃よく読んでいたライトノベルみたいに、主人公周りの女の子が全員主人公の事を好きとかだったらわかるけど。
俗に言う「鈍感難聴主人公」みたいに皆の好意に気付いてないなんて可能性は……いやいやあるわけない。
どんだけナルシストなんだって話だ。
詩織が俺を好きなんて事は絶対にない。
最悪嫌われている可能性まである。
ソフィアは最初あいつの事をツンデレなんて言ってたけど、まだツンの部分しか見たことがないからだ。
アリスもないだろう。
何て言うか女子力高いし……アムスブルクにいた頃はかなりモテてたと思う。
俺は全く相手にされていない……はず。
リカは俺の事を好きと言ってくれたけど……。
からかわれてるんじゃないかと思う時はある。
でもあんまり人の事をからかったりするやつじゃないし。
きっと本当に俺の事を好きでいてくれているんだろう。
ルネは妹だ。
俺の実の妹の数倍は可愛い。
今は俺の事を慕ってくれているけど、大きくなったら「お兄ちゃんきもい」とか言い出すに違いない……詩織かよ。
エレナは……どうなんだろうな。
ていうかエレナって好きな人とかいるんだろうか。
ダークエルフ村に結構イケメンな男とかいたし……いても不思議じゃない。
まあ今は関係ないか。
そんな事を考えている間にもジェンガ大会は進んで行く。
全員無口なままで……。
いやこいつら真剣すぎだろ、息苦しいわ。
場を和ませる為に何か話題を振ってやろう。
「そういえばさ、詩織は」
「気が散るから黙ってて」
「はい」
詩織は本当に俺に厳しいな……兄さんたまに泣きたくなってくるよ。
いつかデレてくれる日が来るのだろうか。
「さあ遂に始まりましたジェンガ大会!一体英雄さんを手にするのはどの女の子なのでしょ~かっ!実況は私ソフィア、解説はエレナちゃんとルネちゃんのお母さんでお送りいたします!」
ソフィアの茶番が始まった。
例の五芒星が先についた杖を両手で持ってマイク代わりにしている。
「エレナとルネの母です。このジェンガ大会が終わる頃にはどちらかがお嫁に行くのかと思うと、嬉しい反面寂しい気持ちもありますね」
話が飛躍してんじゃねえか。
デートするだけだから。いや本当にするの?
と思ってはいるものの、また詩織にうるさいと怒られそうだからツッコミは心の中に留めておいた。
「さあ、一回戦も終盤!残るブロックはあと僅か!次は英雄さんの番です!」
「わかってるから」
そう言いながら手頃なブロックを引き抜こうとすると、その周りのブロックがまるで磁石にでもなったみたいにくっついてきて一気に山が崩れてしまった。
「あ~っと!ここで崩れてしまいました!英雄さん脱落ですっ!」
「いやいや今のおかしいだろ!ソフィアの仕業か!?」
以前ダークエルフ村でジェンガをした時にも同じような事があったもんな!
ソフィアは目を逸らしたまま口笛を吹いている。
「え~?何のことですかぁ?」
「ヒデオ様が亡き者になった方が勝負が面白いとか色々都合がいいだとか、そういった事は一切ありません」
エレナのお母さんがそんな事を言っている。
まあそういう事なんだろうな……絶対に許さん。
「ひでおにーちゃん男の子なのに見苦しい!」
「そうよ兄さん、言い訳だなんて魔王のする事じゃないわね」
「くっ……」
詩織はともかくルネに言われるのは意外に応える。
俺は抗議を諦めて実況席に陣取る事にした。
試合は再開。
その後も全員口数が少ないままハイレベルな戦いが繰り広げられたものの、リカとルネが惜しくも脱落。
残るは詩織とエレナとアリスの三人になった。
相変わらず真剣にゲームを進行していく三人。
その最中、不意に詩織が喋り出した。
「それで?アリスちゃんは一体どういうつもりなのかしら?」
「え~?何の話?」
「とぼけないで。アリスちゃんは兄さんになんか興味ないでしょ……それなのに兄さんとデートとかいう景品を提案するなんて……」
うん……良くわかんないけどそれは俺の前でする話じゃないと思うな。
そんな事を言いながら、順番が回って来た詩織がブロックを引き抜こうとしたんだけど。
「あれれ?私はってことはぁ~……詩織ちゃんはヒデオ様に興味あるんだ?」
アリスの言葉と同時に山は派手な音を立てて崩れ去ってしまった。
「なっ、ななっそんなわけないでしょ!こんなのが誰とデートしようと別に構わないっていうか関係ないんだけど!?私はただ……」
「ふふっ……詩織ちゃんの負けだね」
「あっ……!……~~~~っ!」
唸り声をあげる詩織。
よっぽど腹に据えかねたのか、拳を握ったままわなわなと震えている。
ちょっくらさっきの仕返しをしてやろう。
「おいどうした詩織?負けを認めないなんて魔王らしく……」
「うるさいっ!バカ!」
「ええっ……」
いくらなんでも理不尽じゃないだろうか。
驚愕する俺にソフィアが耳打ちをして来た。
「ふふっ、可愛いですね。詩織ちゃん」
「どこがだよ!」
こうして最後の戦いはエレナとアリスの一騎打ちになった。
「エレナちゃん……最後の戦いだね」
「うん……」
「私ね……エレナちゃんと二人でここまで来れた事が、本当に嬉しいんだ……」
「う、うん……そうだね……?」
アリスはどこか嬉しそうな表情だ。
エレナは相変わらず真剣……というよりは緊張した面持ち。
「さあいよいよ最後の戦いが始まろうとしています!先攻はアリスちゃんです!どうぞおおおおっ!」
ソフィアの実況にもいらん熱が入っている。
とにかく戦いの火蓋が切って落とされた。
アリスは手を伸ばし、そして……。
「ああ~っ!手が滑っちゃった~っ!」
腕ごと山へと突っ込んでいった。
「ちょっと何よそれ!」
「どうせこんな事だろうと思ってたわ」
抗議をする詩織とは対照的に、リカはすまし顔だ。
ルネは何が起こったのかよくわかっていないらしく、唖然としている。
俺もきっとルネと同じ顔をしているに違いない。
「あ~っとまさかのハプニングです!アリスちゃんの技……じゃなくてミスによりいきなり試合は終了!優勝はエレナちゃんです!」
ソフィアがエレナの手を取って掲げた。
エレナはどうしていいかわからずにおろおろとしている。
「エレナ……本当に立派になって……お母さん、孫は五人くらい欲しいわ」
「お母さん!?」
「お姉ちゃん!結婚してもたまにはおにいちゃんを貸してね!」
「ルネ!?」
どうやら俺とエレナは結婚するらしい。
デートって話だったはずなんだけど、こうまでして皆と話が食い違っていると俺の記憶の方が間違えている様な気もして来た。
そして、ジェンガにぶっこみを入れた体勢のままで動かなかったアリスが突然復活してエレナの横に座る。
「エレナちゃん……おめでとう。負けた事はたしかに悔しいけど……それよりも今はエレナちゃんが勝ってくれて嬉しいって気持ちの方が強いんだ……」
何言ってんだこいつ……。
あれ?アリスってこんな頭のおかしいやつだったの?
その後しばらくは詩織が抗議するもうまくアリスに言いくるめられ。
エレナは本当にこれでいいのかとおろおろし。
リカやソフィア、そしてエレナのお母さんが見守る中……。
俺はルネともう一度ジェンガで遊んで過ごした。
数時間後。
とりあえず俺とエレナはデートをする事で決定した。
俺は嬉しいけど……エレナの方は本当にいいのだろうか。
ようやく場が収まったかと思えば「作戦会議をする」とかいう良くわからん理由で女性陣全員が退出しそうになったので、リカとルネだけを引き留める。
ちなみにソフィアもその作戦会議について行ってしまった。
「お前ら今日何でルネにここまで来てもらったかを忘れてるだろ……」
「あら心外ね。私はちゃんと覚えてたわよ!」
「本当かよ……」
「それでどうしたの?ひでおにいちゃん」
そこで俺は今回のゲンブに関する一連の出来事を簡単に説明した。
それからルネとリカに頑張って欲しい内容を伝える。
「うんいいよ~!それくらいなら出来ると思う!」
「それくらいならって……結構大変じゃないか?まあ俺もルネなら出来ると思ったから頼んでるんだけど」
「本番までに練習は出来るのかしら!」
「ああ、あいつらにも了解はとってある。ゲンブの住処から離れたところでやることにはなると思うけどな」
ルネへのお願いは終了。
それ以上は特にやることもないのでその場は解散し、ルネとリカは女性陣の作戦会議とやらに参加しに行ったらしい。
俺はまた久々に訪れた一人きりの時間を満喫しようとかとも思ったけど、疲れていたのかいつの間にか熟睡してしまっていた。
それからも毎日様々な準備に追われる。
日に日に強くなるゲンブの地震に恐怖を感じつつも、皆が一生懸命頑張ってくれたおかげで全てのプロジェクトを完遂。
そしてようやく作戦決行の日がやって来た。
俺たちは予定した時刻通りにゲンブの住処前に集まっている。
ルーンガルドにいる魔族の半分くらいはいるんじゃないかという規模だ。
皆に一度荷物を下ろして待機させてから、俺は住処の中へと入って行く。
シャドウの部下の調査によってこの時間にゲンブがいることはわかっている。
ゲンブが散歩をしている時に来たんじゃ間抜けすぎるからな。
奥に入ると、ゲンブはいつも通りに甲羅の中へ頭と手足を引っ込めていた。
「よう、ゲンブ」
ニョキッっと頭が出て来てこちらを向く。
俺だとわかると、続いて手足も生えて来た。
「やあヒデオじゃないか。今日はどうしたんだい?」
「ゲンブ……今日はお前に、例の『空に咲いた花』を見せてやろうと思ってな」
「えっ……本当かい!?あれが何かわかったの?」
「ああ。でもな……それだけじゃない」
そこで俺はゲンブを指さして言った。
「今日はお前に、面白いものをたくさん見せてやる!人間との嫌な思い出なんて、全部忘れちゃうくらいのな!」
ゲンブのための、ルーンガルド史上最大のイベントが幕を開けた。




