花火の準備に忙しい
それからの数日間は情報収集に追われる毎日だった。
俺はサフランの店でサキュバスたちと一緒にお客さんから。
一方でリカはアムスブルクを中心に人間の街でクエストの為のパーティーを結成してその人間たちから。
それぞれ情報を収集したのだった。
しばらくたったある日、サンハイム森本に久々にリカが襲来。
詩織も呼んで俺の自室にて作戦会議が開かれた。
話を切り出したのはリカからだ。
「結論から言えば、色にこだわらなければ花火そのものは何とか作れそうね!」
「色?」
「打ち上げ花火に色がついたものがあるでしょ?あの色を出すための材料が魔王ランドじゃ作るのがちょっと難しそうなのよ。一部はすぐに用意出来そうなんだけど……中途半端になるから、それなら潔く色づけしなくてもいいかもしれないわ」
「なるほどな」
「でもそれって何だか寂しいわよね」
詩織がミカンを食べながらそう言って来る。
「そうだな……寂しいというか、物足りないってのはある。花火をゲンブに見せるっていう目的だけは達成出来るけど……」
「それでも充分だとは思うわよ?下手に感動させ過ぎても地震を起こしちゃうんでしょ、そのゲンブっての」
「うん……そうなんだけどさ」
詩織の言うことはもっともだ。
だからこれ以上何かをしようというのなら、それは俺の趣味とか自己満足と言えるのかもしれない。
でも何となく、もう一押し欲しいって気持ちが強いんだよな……。
そんな風に考えていると、リカが突然鶴の一声を発した。
「花火が充分でないのなら、それ以外で盛り上げればいいんじゃないかしら!」
「それ以外……」
「つまりね……」
「なるほどな。それはいいかもしれない」
「だったら……」
「はいはい!それなら私も提案させてください!」
リカに続いて、詩織とソフィアからもアイディアが出てくる。
「うん、いいなそれ。面白くなりそうだ」
俺のその言葉に呼応するようにリカが拳を掲げて言った。
「どうせやるならとことん盛り上げてやろうじゃないの!」
「「「「おーっ!!」」」」
全員で拳を突き上げてそう叫び、話し合いは終了。
直後に行われたミーティングでこれからやろうとしていることを皆に伝えた。
俺たちが出したアイディアの実現には全ての魔族の協力が必要になる。
だからまずは幹部たちへ、それぞれに手伝って欲しい内容を伝えていく。
とは言ってもメインはやはり花火だ。
ミーティングが終わると、俺は早速花火作りに向けて動いた。
花火を作るに当たってまず最初に、ライル、ゴンザレス、ゴンからそれぞれが担当する部署に関する情報を聞き出す。
花火の材料の中にはライルの担当する鉱山や、ゴンザレスの担当する農耕地から採れるものがあるからだ。
ゴンたちダークドワーフ一族の製鉄技術も活きて来る。
必要な分は揃えられそうとのことだったので、俺はライルとゴンザレスに指示を出して花火の材料を集めて来てもらう。
そしてその中から精製が必要なものはゴンに渡して精製してもらった。
こうして一通り材料を揃えた俺は、リカを連れて多目的ホール的なところへ。
巨大ハンバーグを作った時に使った場所だ。
ひとまず俺の生産系スキルで花火を打ち上げる為の筒を作る。
そして花火をリカが作ってそれを試し打ちしてみるまでが今日の流れ。
何だけど。
「いいか、ここにあるものは全部触ったらだめなやつだからな」
「そう言われると何だかうずうずしてしまうのでござるが」
「だからフリじゃねえって言ってんだろ」
何故かシャドウもこの場に居た。
「大体お前最近はルーンガルドの警備が部下で事足りるから、シオリンガルドでシャド子のサポートをしてたはずだろ。そっちの仕事はどうした」
「それが……最近シャド子殿が相手をしてくれないのでござる……」
「してくれないのでござる……とか言われてもな」
「何か嫌われるような事をした心当たりはないんですか?」
ソフィアの問いかけに、シャドウは首を傾げながら答える。
「そういえば……この前シャド子殿の影にずっと潜んでいたら、バレた時にかなり怒っておられたでござるが……」
「ええ……っ」
ソフィアが珍しく引いている。
「怖いわ。どう考えてもそれが原因じゃねえか」
「ええっ……どうしてでござるか?こっそりいつでも一緒にいられるナイスアイディアだと思ったのでござるが」
「そういうのはな、相手の了解が必要なんだよ。残念だけどシャド子はまだ、まだだぞ?シャドウといつでも一緒に居たいとは思ってないんだろ」
どう考えても脈なしどころか嫌われている気しかしないが、シャドウを傷つけないように「まだ」のところを強調しておいた。
「むう……女子というのは中々に難解なものでござるな」
「お前も中々に難解な気がするけどな」
何を言っているのかわからないといった表情のシャドウを置き去りにして、ぼちぼち花火の製作に取り掛かることにした。
「待たせたなリカ。よし、それじゃあまずは実験用の小さいのから作るぞ」
「わかったわ!じゃあサイズは……」
そう言ってどこからか紙を取り出すリカ。
リカは、チート系主人公から教えてもらった知識を紙にメモしている。
おじいちゃんが作っているところを見て要領はわかっていても、火薬の分量などところどころうろ覚えな部分があるため、安全の為にもメモで確認しながらやることにしたらしい。
リカが早速花火作りを開始した。
俺はリカの傍らで作業の様子を観察する。
花火の作り方を一度理解出来れば、後は生産系スキルで量産出来るからだ。
と言っても今回は必要ないかもしれないが。
まず一つ目の花火が完成した。
すぐにテレポートで北門近くの広場に移動して試し打ちをする事に。
筒に花火をセットして、炎系の初級魔法で点火。
これはシャドウにやってもらった。
幹部たちは初級魔法ならばどの属性でも使えるらしい。
正確には属性に関係なく「初級魔法」で一括りのスキルになっているのだとか。
「英雄プロージョン」というチートスキルを持つおかげで攻撃魔法に興味がない俺は全く知らなかった。
「た~まや~!」
ソフィアが元気に叫ぶ。
初めての実験にも関わらず、花火はうまく打ち上がってくれた。
「おっほほ、中々趣深いものにござる」
シャドウは花火を気に入ってくれたようだ。
「成功みたいだな」
「この打ち上げ花火がうまくいけば後はサイズを変えるだけよ!」
リカはどこか得意げだ。
「でも結局チート系主人公たちは魔石をどこに使ってたんだろうな」
「色々考えられるわね。砕いて、魔力を込めれば発火するようにして導線代わりにしたとか、火薬の代わりにしたとか」
「まあ魔石は使い道が多いからな……」
「答えを知っている人はもういないでしょうから、何を言っても憶測にしかならないわね」
「そうだな……じゃあ俺は別の準備に取り掛かるよ」
「頼んだわよ!」
それから俺はルーンガルド中を移動して指示を出していく。
ルーンガルドが終わると、次は外だ。
全ての魔族の協力が必要になると言ったけど、その中には同盟であるドラゴン族や魔人たちも含まれている。
俺は数日かけて各魔人たちの住処やドラゴンの里を訪れ、今回俺たちがやろうとしていることを説明して協力を要請した。
そして、あともう一勢力。
というか一人。
「ひでおにいちゃんだ~っ!」
「久しぶりだな、ルネ。それにお母さんも」
「まあお義母さんだなんて……娘を末永くよろしくお願いいたします……」
「末永くよろしくお願いされます……」
ソフィアが悪ノリをして来た。
「ちょっとお母さんっ……!余計な事を言わないでよ……!」
恥ずかしそうに言うエレナ。
「ソフィアも悪ノリしてんじゃねえよ」
「まあ悪ノリだなんて!私は本気です!」
「本気の意味がわからん……」
今回はルネにも活躍してもらおうと思う。
それで事情の説明や久々に遊びたいのもあってルネをサンハイム森本の俺の部屋へと招待したんだけど、何故かエレナのお母さんまで遊びに来てくれた。
ルネはこたつに入ると、早速持ってきた荷物の中からあるものを広げる。
「ジェンガ持ってきたよ!」
「おっ、いいな。じゃあまずは皆でジェンガをやるか」
萌え萌え大運動会以降、ルネはすっかりジェンガを気に入ったらしい。
ダークエルフ村の子供たちと今でもよくやっているのだとか。
ちなみに今俺の部屋にいるのは、エレナ一家と俺とソフィアのみ。
さすがにエレナのお母さんはやらないだろうし、ジェンガをやるにはちょっと物足りない人数だ。
「暇そうなやつを捕まえて来るからちょっと待っててくれるか?」
「は~い!」
ルネが手を上げて元気に返事をしてくれた。
「それでしたら私も……」
「いやいい。せっかく家族が来てるんだ。エレナはゆっくりしててくれ」
「でっ、でも……わかりました……ありがとうございます」
それから暇なやつらを探して色んなところで声をかけてみたんだけど。
「何でよりにもよってお前らが来たんだ」
「失礼ね!」
「何よ、来ちゃいけないわけ?」
「ルネちゃんが来てるなら来ないわけには行きませんからっ」
集まったのはリカ、詩織、アリスだった。
ちなみにアリスは大運動会の準備期間中に何度もルネと会ってすっかり仲良しになっている。
詩織はルネとは面識はないはずだ。
ルネはこう見えて人見知りの激しい性格だが、一人くらい話した事のない人が紛れてる分には問題がないのかもしれない。
「アリスはともかくリカと詩織は今一番忙しいはずだろうが」
「そうは言っても花火は大体作り終わったわよ!」
「えっ……まじかよ。詩織は?シオリンガルドの改築や修繕はまだ終わってなかったはずだけど」
「最近働き詰めだったからね……私だけじゃなくて皆。今日は休みにしたわ」
「う……まあそれもそうか」
詩織は最近しっかりやっているとシャドウやゴンから聞いている。
少しの休みくらいとやかく言わなくてもいいだろう。
「まあそれならいいか……じゃ、ジェンガを始めよう」
「今回の罰ゲームはどうするのかしら!」
リカがまた嫌な予感しかしない提案を始めた。
「別にそんなのいいだろ」
「え~っ!でもでも、それじゃスリルがありませんよ!」
ソフィアはそう言うが、別にスリルは必要ないと思う。
とその時、アリスが思いも寄らぬ一言を発した。
「じゃあ崩した人から抜けていって、優勝した人がヒデオ様とデート出来るっていうのはどうですか?」
「は?」
俺は思わぬ間抜けな声を漏らしてしまう。
「それで得するやつなんていないだろ。なあ皆……」
「「「……………」」」
皆を見回すと、何だか妙な沈黙が訪れていた。
ソフィアとエレナのお母さんは何だかニヤニヤしている。
「私、ひでおにいちゃんとデートしたい!」
「あらあらルネちゃんは素直ですねえ」
「まあ皆異論はないみたいですし、それで行きましょっ」
そういうアリスは、どこか邪悪な笑みを浮かべていた。
「いやいやそれ俺が優勝したらどうすんだよ」
「その時はヒデオが好きな子を選べばいいわ!」
「リカちゃんだめよ。そんなのじゃ兄さんは絶対にエレッ……」
俺は詩織の口目掛けてソフィアを投げつけた。
こないだサフランの店で、俺がエレナ似の女の子を選んだ話をされる気配がしたからだ。
「英雄さん何するんですか!ひどいです!」
「精霊に何て事してんのよ兄さん!」
「わかったわかった!わかったからもう始めよう!」
不思議そうにこちらを見つめる皆を尻目に、死のジェンガ大会が始まった。




