37 大侵攻一回目
準備は整った。チュートリアの村を中心に多数の砦が作られた。砦といっても積み上げた土を石灰で固めて、周りを青銅の板で囲った程度のもので、一つ一つは高さは有るものの広さは五m四方位しかない。まあ中に入られなければいい程度の存在である。
各砦に配置している兵隊からの連絡で、数万の大軍が西から攻めてくるのが分かった。一番最西にある砦に籠って相手が近づくのを待つ、殆どウエスマウンテンの麓と言っていいような場所だ。まあ遠くから攻めて来てもらった方が迎撃までの時間が稼げて助かるから良いんだけどね。
住民から借りた装備で火魔法はスキルLV十二相当に、風魔法はスキルLV十相当になった。他にも知力や魔力を高めたり、HPやMPを増やしたり出来るブーストアイテムを多数着こんでいる。
ブーストアイテムは指輪類が多く普通なら片手に二つ、両手に四つまでしか装備出来ないが、課金して片手に五個ずつ装備が出来るように枠を増やした。他にもマントや髪飾り、ネックレスなども複数の課金行って装備出来るようになっている。
作製した聖なる守りの効果は、闇属性からのダメージ二十%減、物理防御力五%増加、悪魔系モンスターに与えるダメージ五%増加、という有難い性能であった。これだけ強化していると、もうチート級だと思う。このイベントが終わった後、また元の微課金生活に戻れるか心配だな。
『それでは行ってきますね』
ビジンは敵を引き付けるための囮として立候補してくれた。彼女は忍び走りというスキルがあり、走っても普通の敵が湧かないので、イベントモンスターを引き寄せるには最適だった。しかし、彼女にそんな危険な任務をさせるのは気が引ける。
「ビジン、こんな危険な仕事を任せてしまって申し訳ない。これでお詫びになるか分からないけど…」
声をかけて、両手を握り、そっとプレゼントを渡す。
『え? 何ですか? カトウさんが私のために何かくれるのですか? 嬉しい!! これって、もしかしてっ!』
そう、ビジンに渡したのは、その場で復活出来る課金アイテムと、死んでも物を落とさない課金アイテム、アイテムをディレイなく使える猫の手も借りたい、それそれ割引率の高い五十個パックを渡しておく、これで何度死んでも大丈夫だろう。頑張って敵を引き連れて来て欲しい。
『グハッ、何というサディスト。でも、そこがイイです』
ビジンの好みのタイプが良く分からん、でも、足らなかったらもっと渡すからね。ビジンが大軍に向かって走る、走る。
敵は高い場所から見ると、本当にトンデモナイ数だとわかる。もじゃもじゃと言ったら良いかな? よくもまああんなに来るもんだなと。その集団にビジンが近づき、敵に対してヘイトを稼ぎ、物凄い数がビジンの後ろから追っかけてきている。
ビジンの後ろからは攻撃魔法やスキル、矢などが飛んできてダメージをガンガン与えている。猫の手も借りたいの効果で、HP回復ポーションをカブ飲みしているのが分かる、常にビジンが回復している事を示す光りが出っぱなしの状態だ。あっ死んだ。でもすぐに復活してヘイトを稼ぎ直して、再度引き寄せる、ごめんねビジン。
「よし、まずは一発様子見で。ナパーム!」
ビジンに向けてナパームを放つと追っかけてきている敵が丸焼けになって消えていく。範囲内の敵は一撃で死んでいくが、範囲外の敵は引き続きビジンを追っかけてきている。
『鉄壁』
ビジンが砦逃げ込んだので、入り口を師匠が塞ぐ。これで敵は砦の周りにくぎ付けになるので、引き続き魔法を何度もぶち込む。敵は雲霞のごとく押し寄せて砦を囲む、囲むが砦の塀の高さに阻まれて中に入って来れない。
「トルネード、ナパーム、ファイヤアボール【二】、トルネード、ナパーム、ファイヤアボール【二】」
魔法のクールタイムが重ならないように、複数の魔法を織り交ぜてぶち込んでいく。物凄い勢いで経験値や熟練度が上がっていく。入ってくるGやアイテムも半端ない数だ、範囲狩り超美味しい。
『ダークレイン、ファイヤボール【ニ】、テラー、パニック、アイスクル、ウォーターボール、ファイヤーボール、ダークレイン…』
悪魔軍にも当然魔法使いが居るので、物凄い数の魔法や、行動阻害のスキルがとんでくる。でも高LVの支援魔法で魔法耐性も上がっていて一つ一つの魔法によるダメージは少ないし、常時HP回復も行われているし、範囲回復魔法も定期的に唱えている。
しかし、数の暴力というか一秒間に複数の魔法が飛んでくるので、HPゲージは減り始める。猫の手も借りたいを利用し、HP回復ポーションをマクロ設定でがぶ飲みしつつ何とか耐える。一時間程で引き寄せた部隊は全滅出来たが、まだ三千~四千体位だ。
『じゃあ行ってきますね』
再びビジンが飛び出し、敵を引きよせてを繰り返す事で付近の敵は殲滅出来た。籠る砦を変えつつ戦いを幾度と行っていく。何故か敵の進撃速度は遅く、釣り出した敵以外は、一時間中五分程度しか前進してこない。それと敵はバカだ、動きが単純で捻りがない。
「マル、何であんなに進軍が遅いんでしょうね? しかも兵隊は馬鹿ばかりだし、理由は分かりますか?」
『イベントだし、一気に攻め込んだら来週開催出来ないでしょ。それにプレイヤーは休憩時間が必要だから二十四時間攻め続けられたら誰も対応出来ないわ。
ゲーム全体で何十万ものモンスターを追加でポップさせているんだし、複雑な計算式だとサーバがもたないからよ』
「ネタバレ過ぎんだろ! せめてロールプレイしてそれっぽい何かで誤魔化してよ」
一月五日の戦いは無事に終わり、六日もそろそろ終わらせようかなと思っているところだ。範囲外の所に、一つ抜きんでて強者の雰囲気を醸し出している敵がいる。大きな獣、首が三つあるような感じの、犬っぽい感じかな、まあそんな感じの何かに騎乗(犬乗かも)して、こちらを見ている。
ちょっと遠いから正確な大きさは分からないけど、ザーコと比較しても頭二つ、いや肘十二個、いや足の親指の爪を剥いで縦に五十個位並べたら物凄く痛そう、その位大きかった。
『よくぞ、寡兵で軍団の攻撃を防いでいるな。お主らの強さに敬意を表し、名乗りを上げよう、我が名はアフォー軍指揮官のアフォー』
射程外から大きな声で語りかけて来た。
『なんじゃと! アフォーじゃと!』『ええ! 指揮官が来たの!?』
師匠と先生が物凄く驚いている。ただ、相手の冗談の可能性もあるから、あまり本気にしない方が良いですよ。でも驚く位なんだから、何かアフォー様について情報を持っているのだろうか?
『『いや知らん、指揮官と聞いて驚いただけじゃ(よ)』』
「紛らわしいわ!」
アフォーは後ろを向き撤退を始めた。追撃すべきか? いや、あれは戦っても駄目だ、ダメージを与えられそうな気がしない、一目で見ただけでわかる、頭の上に攻撃不可って大きく書いてあるから。
ノシノシと大きな獣っぽい何かに乗って帰っていく、たまたま地面から湧いたバッファローに対して、持っていた棒で一振りすると、ばびょーんって感じで、いや、ばびょーんは言い過ぎかも、ビューンかな? ビューン、ビューン、どうもしっくり来ない、バーン? どうでもいいや、とにかく牛が飛んでってウエスマウンテンの頂上あたりに着弾して爆発した。
『なんちゅう破壊力じゃ』
『バッファローが可哀想ね』
師匠と先生の感想とは異なる気持ちが湧いた。確かにトンデモナイ破壊力だと思う、でも、そこは重要な問題じゃ無いんだ。問題は牛が頑丈だなという事、そんなに強い衝撃を喰らったら普通はそこでポリゴンになって消えちゃうと思うんだよね。
『それは違うわカトウ。あれは打撃の瞬間、手首のスナップを活かして、牛をやさしく包み込むように抱き上げてから、そこからまた最大限の力で放り投げたのよ』
「そっそんな事が可能なのですか?」
『冗談よ』
「……」
何でも思いついたら言えば良いってもんじゃないんですよ。お笑いってそんな簡単なもんじゃないだよ、まったく。
最初の大侵攻は何とか防げた。想定より侵攻速度が遅かったのと、基本的に単純なロジックで動いているようなので、何とかなったと思う。今回倒した数は約九万、まだ七万以上の敵が攻めてくることになっている。
チュートリアでは暫定祝賀会が開かれているが、遠慮させてもらった。流石に二日間も気が抜けない戦闘を十六時間も行ったので、気力が持たない。
良かったら、ブックマークや評価していただけると大変ありがたいです。そうする事でランキングに載って、他の人の目に触れる可能性が増えますので。
それと他の作品も読んでいただけると嬉しいです。単純なお笑いシリーズは、自分で言うのも何だけど、何度読み直しても、ニヤニヤするんだけどなあ。チラッチラッ。




