29 ビキニアーマー
結構貝が手に入ったけど欲しい貝じゃなかった。貝殻ビキニアーマーを作るためには、ホタテ貝が必要なのに、アサリ、シジミ、ハマグリ、しか入らない。潮干狩りだと無理なのかな? 砂浜で地面を掘ったら貝が出て凄く喜んだんだけど、ホタテ貝は出なかった。
素手で掘っているのが良くないのか? 熊手、熊手が必要なのか? 熊手と聞いて、縁起物の熊手を思い出すかも知れないが、そうではない。
なんと言うべきかな、地面にはいつくばって、一旦手を前に出して、恨みを込めて指を立てながら地面の土を抉り引き寄せるような感じの道具ね。そんな恨みが籠ったような、恨みを具現化したような道具が潮干狩りには最適な感じがするんだよね。
まあ、無いものは仕方が無いので、自分の手で代用する、死ねー死ねー。あっクリスマスの飾りが手に入った……スルーしようスルー、そうさ人は人、自分は自分、VRで貝を掘っているのが楽しいんだから全然問題ない。でも今まで以上に多くの貝が手に入るようになった、何でだろうな、爆発しろ。
『おい、お前! 誰の許可を得てそこで貝を取っているんだ』
ん? 夢中になって周囲に人が居る事に気が付かなかったようだ。声がする方向、海の方を見ると緑色の髪、ビキニアーマー、下半身がエビフライの衣の代わりに鱗がついているような感じの人魚が居た。
おおーーービキニアーマーだ、まじで着る人が居るんだな。しかし折角のビキニも胸が絶壁で魅力が感じられない残念だ、てか人魚ってもっと優雅な感じがしたんだけど、背筋を一生懸命頑張ってます両手無理やり上半身起こしてます、みたいな姿勢が辛そうだ。
他にも色々と気になることが百個位出て来た、どうしようどうしよう、どれから聞こうかな悩むな。いやでも、まずは相手の質問に回答を返さないと。というか、ここは彼女の縄張りなんだろうか? そんなの線でも引いておいて貰わないと分からないよな。
「えーと、その、ここで貝を採るのは、禁止されている場所だったのでしょうか? 存じておらず申し訳ございません」
こちらの責任があるかどうか分からないけどとりあえず謝っておこう。ちなみにアメリカとかでは無暗に謝ったら駄目だぞ、例えこちらが悪く無くても悪い事になるらしいから。
『ん? 禁止されてはいないよ』
「ん? ん? えーと、どういうことでしょうか」
まだ、まだ状況が分からないな、もう少し下出に出よう。
『許可を得ているか確認しただけだから。許可を得ているなら何の問題もないぞ。ちゃんと漁業権を得ているんなら』
「ぎょっ漁業権!? 漁業権ってなんですか?」
ゲームの中で漁業権があるのか、びっくりだな。
『あさりやアワビ、さざえとか、そういうのは漁業権が無いと駄目だぞ。許可制だからな』
知らなかった。というか、そんなのどこかに書いておいて貰わないと分かんないよ。
「知らない事とは言え、申し訳ございません。ちなみに漁業権はどこで許可を頂けるのでしょうか?」
『普通はサスの港の漁業組合で発行しているから、そこで貰えるぞ』
なるほど、じゃあ早速サスの港にいって漁業権を入手しよう。お詫びと感謝を伝えて立ち去ろうとすると、呼び止められる。
『おい、ちょっと待て。貝を置いて行きなさい』
「え? いや、この後ちゃんと許可を取りますので、これはこのまま持っていこうかと」
『駄目に決まってるだろ、どうしてお前の事が信じられるんだ。お店で物を手に取って後でお金を払いますので失礼します。なんて言われて、はいそうですか、とお前は認めるのか』
確かに。でも折角時間を掛けて取ったのになあ、残念だな、貝を置いて立ち去る。少し進むと、物音がするので振り返ると、置いた貝を物凄い勢いで集めている。さっきの人魚がだ。
「あの、何をなさっているんですか?」
『何って、貝を採っているに決まっているだろ、見て分からないのか?』
「いえ、確かに見れば分かります。ただその貝は私が取って今置いたものですよね?」
『放棄された貝に所有権があるのか? この貝はどうしてお前の物だと言えるんだ? 権利も無く勝手に採った貝にどんな権利を主張するんだ』
ええ~~何それ、ずるいな。しかし、何で魚釣りは良くて貝は駄目なんだよ、おかしいだろ。ん? 魚は良くて貝は駄目……。
「あの本当に漁業権って必要なんですか?」
びくっと、一瞬人魚の体が揺れた。しかし、そのまま貝を拾い続けている。
「あの、本当に、漁業権って必要なんですか!?」
もう少し大きい声で再度尋ねるが、物凄い勢いで貝を拾っていた。どうやら大体拾い終わったようだな。
『ひっ必要だぞ、必要だ。うん、サスの港で聞いてみなさい』
挙動不審だ、キョドってる、滅茶苦茶怪しいぞ、これってやっぱり詐欺なんじゃないのか? どうしてゲームのNPCに詐欺られないといけないんだよ、おかしいだろこのゲーム。よし、ここからは俺のターンだ、ぎゃふんと言わせてやろう。
「異議あり! 本当に漁業権が必要なんですか? 魚は大丈夫でしたよ、なんででしょうね? ね?」
ビシッと、人魚に向けて指差して声高らかに言い放つ。決まったな、フフン。
『ん? 釣りは遊漁として原則として問題ないぞ』
「え? ゆうぎょって何ですか?」
どうやらレジャー目的の釣りは、遊漁というものらしい。禁止されている漁具とか漁法、禁止区域、禁止期間とか、魚種ごとの大きさ制限とか、そんなに抵触しなければ良いらしい。
『異議あり! 異議あり! 面白いなお前。プププッ』
俺の真似をして指さしながらからかってくる、すげー恥ずかしい。もう指さすの止めよう。絶対やめよう。俺のバカバカバカ。
『自己紹介がまだったね、私は人魚のマーメイ、よろしく』
せっかくなので、気になっている事を色々聞いてみる。
『なんでビキニアーマーを着ているのかって? そりゃ金属の鎧なんて着たら溺れるし錆びるし。革製だって皮が駄目になるし、布製の服だって泳ぎや動作を阻害するぞ。
その点ビキニアーマーは水の加護も付いているし水中での動きも阻害されない素材もありふれたものを使っているから用意するのも容易だし最適な装備だぞ』
なんてこった、ちゃんとした理由があった。もうちょっと突っ込んで聞いてみよう。
『岩があれば座れるけど何にもないところだと、こうやって背筋を延ばすか、仰向けになって腹筋で体を起こすかだよな。人に注意するのに仰向けになって両手を後ろについて話しかけてもやる気がなさそうな感じに思えるだろ』
まじか、こっちも理由ありかよ。意外とちゃんとしているんだな。
『なんで、ビクッとしたかって? 真剣に集中して作業している時に話しかけられたからな。それに大声を出されたら怖いだろ、逆切れされて攻撃されるかも知れないしな』
「そうだったんですね、勝手に勘違いしてしまって大変失礼しました。漁業権を買ってから貝を採ろうと思います。あとビキニアーマーを作ろうと思っているのですが、ホタテ貝はどのへんで採れるんですか?」
『いま手持ちに在庫無いんだけど……これで良ければあげるよ』
いきなり目の前でビキニアーマーを脱ぎだして! いやいや目のやりばに困りますよ。両手で目元を隠す。ちょっとだけ指の間が広いのはご愛敬という事で。しかし、残念なくらい絶壁だよ。
『ん? 種族が違うと同じ男でも気になるのかい?』
男なのにビキニアーマーを装着するなよ! まあ、ありがたく頂いておきます。
え? 人が身に着けていた服を装着するのは気に成らないかって? ゲームですから、MMORPGゲーム内ならアイテムの売買なんて当たり前ですよ。
ちょっとVRだから勘違いしちゃいそうになるよね。自分も書いていて抵抗があったから、言い訳してみた。
それと書くのが遅くて申し訳ございません。他の短編作品とかも面白いのがあるかも知れないから、暇なときにでも読んでいただければ幸いです。
自分の中では面白いと思っていて、何度か読んでるけどいつもニヤニヤしながら読んでます。やっぱ自分の趣味嗜好にあう話を書いているせいなんだろうけどね。
短編も幾つか素案があるんだけど、そっちは書いてもいないから、新作は出てないよ。




