17 先生
『そこまでよ! 私の店で無法は許さないわ』
マルグリットさんの体に風のようなものが纏った様に感じた。魔法? 無詠唱? いや魔方陣ぽいものが出なかったから違うかな、もしかして闘気のようなものか? すげーなマルグリットさん。
私も憧れたよなあ、本気を出したら“気”によって地面にあるチリが浮き上がったり、ビリビリと空気が震えたり、力を籠めたら地面にひびが入ったり。努力したらこの世界で想像したような事が出来るのだろうか、よし頑張ってみよう、まずはチリを撒くところから始めないと普通は落ちてないから。
一人アホな事を考えていたが、マルグリットさんは本気モードを継続している、そろそろボケるんじゃないかなと思っていたんだけどな。
『そんなにやりたいなら、私が先にお相手して差し上げるわ』
あれだけ強い師匠にこれだけのセリフが言えるとは、マルグリットさんも滅茶苦茶強いのかも知れない。でも師匠の強さは桁外れだと思う、なので伝えて上げた方が良いかも、そのセリフ変な意味にも取れますよ、と。
天使が通り過ぎるくらいの時間が経過したが、三人とも向かい合ったまま誰も動かない。私もどうしていいか分からない。これほどのプレッシャーを感じるのは多分初めてだ、今日の中では。今まで生きてきた中で言うならトップ五百に入るか入らないか程のプレッシャーだ。
ついにしびれを切らしたのかマルグリットさんが動いた。
『さあ来なさい! カトウ!』
「俺かよ!」
思わずマルグリットさんの頭を斜め上からひっぱたいてしまった。頭がスコーンという感じで前に傾く、気持ちイイ。
『許さんぞカトウ! マルグリットさんを叩くなら、まずはマルグリットさんを叩け』
「意味が分からん!」
師匠の頭も上から引っ叩くと、ズコーという感じで、上半身は前かがみに、両手は前に突き出しながら上にあげる。
『まだまだー』『もう一丁』
「何がだよ!」
意味の分からない発言に再度二人の頭をひっぱたく。マルグリットさんは恍惚した顔になったまま動かなくなった。師匠は腕を組んでウンウン頷いている。
『どうじゃろ? 修行の成果は出ているじゃろうか?』
「はい、確かに。あそこは何でも良いから言葉を出したのが正解だと思います。面白い事を言おうと思って考えるよりも、とにかく何かひねり出した、間が良かったです」
師匠もガッツボーズをして喜んでいるようだし、とりあえず危機は去ったようです。しかし師匠すげーな、普通ここまで早くコツが掴めないと思うんだけど。
『残念だけど、カトウをお手伝いとしては雇えないわ。雑貨スキルがある人でないと駄目なのよ、ごめんなさいね』
デイリークエはガラスの瓶の納品だったので、雑貨スキルを持ってないから諦めていた。なのでシャルと一緒に働けると思って、お手伝いクエの方を選択してみた結果がこれだ。はぁ~、横をチラっと見ると師匠が大量の花を取り出している。
『マルグリットや。あの、これ』
師匠が両手に抱えきれないほどの真っ白な花を持っている。恰好良いな、女性に花をプレゼントするとか凄い勇気だと思う。少し屈んで花を差し出した。
『ドワージンさん』
その花を両手いっぱいに抱え込むように受け取り、恥ずかしいのかトットットット走りながらカウンターの後ろに。
『全部で五千Gになります。はいどうぞ』
師匠の顔が硬直している。ただ手だけがロボットのように動き、その手に五千Gが置かれたようだ。素材買取じゃねーよ、見るに堪えないので薬局に向い回復ポーション十個、服飾店にイノシシの毛皮十個納品してきた。
冒険者ギルドに行き納品クエの報告をしたが、さて、これからどうしようかなと。採掘場所には多分一人でいけないし、荷物はまだ八十%を超えたままだから多少遅くなっているし、かといって素材を何にもしないで売るのは勿体ないし。八方ふさがりだな。
『あらカトウさんこんにちは』
シャルが偶々歩いてきて、というか狭い町だから会っても全然おかしくないんだけどね。折角だし現状困っている事を相談してみた。
『それならウチで預かりましょうか? 十種類程度なら倉庫に余裕がありますから』
マジで! いや待てよ、もし荷物を持ってとんずらされたら、まさかシャルに限ってそんな事はしないよな? いや聖職者でさえ騙そうとした疑いがある。それに前回変態がぼったくろうとしたのを仕方がないと言っていたし。
『そう、でも困ったときは相談してね。いつでも協力するから、じゃあまたね』
裏切られた時が怖くて決断できなかった。シャルに裏切られたら悲しみで死んじゃう、いや死なないけど。決断は先送りにしよう。
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『取り出したくなったら、教えてくださいね』
悩みに悩んだ結果、決断をした。シャルに特に重い荷物の一部を預かってもらった、騙されても良いように自分の中で精神的に許せる理論を組み立てた。
元々売ったら四分の一の価格になってしまう、なら四分の三は元々損する計算だ。だったら四分の三までは預ける。結果的に荷物の重量が八十%を切れば効率は上がるんだし、売るのも盗まれるのも変わらないと。
これでしばらくは大丈夫なはずだ、この後はLV上げと魔法スキルLV上げだな。魔法スキルに詳しい人を訪ねてみた。
『魔法に詳しい人ね。マルグリットさんか、薬局店主のエルファさんか、本屋のフレデリックさんかな』
あんまり詳しくない人に教わるほどコミュニケーション能力が高い訳ではないので、とりあえず変態に尋ねてみよう。
『あらカトウ、また私を喜ばせに来たの? もう本当に貴方も好きねー、え? 違うの? 魔法スキルを高めたいと、強くなりたいと、ふむ、良いわよ協力しても。
先ずは現在のLVと、魔法スキルLVと、覚えている魔法と、その他スキルLVを教えて貰えるかしら。……、じゃあ次は装備を教えて』
包み隠さず称号も含めて全ての情報を伝えた。どうすれば一番効率が良いかを真剣に悩んでくれている、イメージが変わったな、師匠の二人目として敬うべきかもしれない。
『当たり前の話になるけど、今のあなたに必要な物は魔法スキルLV上げね。火と風のスキルLVがそれぞれ3になれば新しい魔法を覚えられるし、魔法のスキルLVが合計6になると任意の場所に魔法を撃てるコントロールのスキルが覚えられるわ。
コントロールを覚えると今までは自動でターゲットされたところにしか魔法を使えなかったけど、任意の場所に使えるようになるわ。例えば相手の顔面や腕などの特定個所を狙えるようになるの。でもデメリットもあって魔法が外れる可能性も増えるから、それでもこれは魔法使いには必須スキルよ』
『それと魔法の熟練度を効率良く上げる方法は、攻撃魔法なら相手に大きなダメージを与える、自分より高いLVの敵に大きなダメージを与える、そうねLV4以上強い敵にダメージを与えるのがコツね』
『ダメージを強く与えるには良い武器が必要、それと魔法スキルLVを高めるための装備ね。例えばこの指輪は風魔法スキルLVを+2してくれるわ。与えるダメージが増えるけど、自分の実力が高くなった訳ではないから、新しい魔法を覚えることは出来ないわ』
なるほど、マルグリット先生の話は分かりやすかった。これからは敬意をこめて先生と呼ぶ事にしよう。
『以上の事から、貴方より強い敵と戦うためにウエスマウンテンに行くわよ』
先生からPT申請が来た。
「え? 一緒に戦われるのですかマルグリット先生」
『当然。カトウ一人では死にに行く様なものだし、効率的なLV上げにならないわ。一人前になるように私が直接支援と指導してあげるわ、それと先生じゃなくて名前も略して呼んでいいわよ』
『ちょっと待つのじゃ! それならワシもいくぞい』
振り返ると師匠が居た。何時からいたのか分からないけど、もしかして隠れて聞いていたならストーカーだろう。
VRMMOゲームもののはずなのに、お笑いの成分を多くし過ぎてしまった。多すぎてメリハリが無くなっている。もう少しゲーム成分を増やします、多分ですけど。
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