表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/50

戦いは逃げる前に始まっているのです。

 不思議だなぁと思うのは、魔法はあるし、真名で人を縛ることも出来るのに、人のステータスを確認することは出来ないこと。

 まぁ、ステータスで確認出来るのは魔法などのスキルと体力[普通]などというなんとも中途半端なものでしかないんだけど。


 この2年で体力は[多目]に、魔力は[凄く沢山]になった。

 魔力に関しては魔力切れを起こしたことはないので、どれくらいが限界なのかは実はわからない。

 でも、特殊結界と収納魔法は常に魔力を消費しているので魔力切れを起こすわけにもいかないのだ。

 それに国では私の魔力は[多目]程度であると思っている。

 これは周りをみて魔力切れを起こした聖女を真似たからなのだが、これが面倒臭い。

 常に体力も魔力も少な目に立ち回るのは意外と神経を使うのだ。

 でも、お陰で体力が[少し多目]魔力が[多目]で中級治癒魔法と生活魔法と色々な初級魔法が使える程度の私には価値は殆どないと判断された。

 私程度ならば腕の立つ冒険者の方が役に立つからだ。

 それに瘴気から逃げるならばともかく特殊結界【悪意】は使い勝手が悪い。

 人間は綺麗事ではすまないのに腹に一物持ってるだけで近寄ることもできないなんてむしろない方がいいスキルなのだ。

 魔物も寄っては来ないが、それでは瘴気を払うことも出来ないのだ。


 結界のおかげで色々あった。

 その中でも腹が立つのは修行だと言われて1人迷宮に放り込まれたことだ。

 魔物は寄ってこなくても、罠はある。

 それに魔物を倒せないということは成長が遅いということでもあるのだ。

 あと結界は範囲外から攻撃される分には攻撃は通るのだ。

 なので投げナイフや弓、魔法での遠距離攻撃では怪我をする。

 その辺りを知ることができたのはよかったけれど結界があるからと1人で迷宮に放り込まれたことは多分一生忘れない。

 忘れられない。

 修行ってなんなのさ。

 魔物も居なけりゃ人同士が戦うことが日常じゃない世界から来たのに「魔物と戦って世界を清浄化させて下さい」って寝言にしか思えない。


 毎日、肉体作りのための走り込みに歴史、行儀作法、魔法、薬師の勉強。

 それプラス武器の訓練。

 学校の方が確実に楽。


 おかげで痩せましたよ。

 今は普通よりもちょっと太めかな?になってます。でも、相変わらず胸はない。

 中学の運動部よりハードだったから痩せるのはわかってたけどさ。


 でも、私は武器の訓練は余りしてない。

 それは特殊スキルのせい。

 特殊結界【悪意】は攻撃は実は通る。ただ近寄れないので近距離攻撃は効かないし、遠距離攻撃も相手をその範囲外に押し出してしまえば攻撃されることはない。

 ただ、この結界、常時発動で停止することが出来ない。

 この結界のおかげで武器を振ることや型を覚えることができても誰かと対戦することが出来なかった。

 そう、組み手や練習でも悪意と判定されるというなんとも微妙な結界なのである。

 常時発動ではあるがある程度の強弱はつけられるし、この範囲内に人も動物も魔物も立入禁止のように結界を強めることは可能なのだ。

 ただ、最小範囲が半径2m程なので悪意を持たれると同じ部屋にいるのも難しい。

 しかも最小範囲で常時発動されてるわけではないのだから困ったものである。


 魔物だけでなくて、人間にも効くおかげで城でも敵味方がわかりやすくて助かったけどね。

 私のことを忌々しいと思っただけで歴史や行儀作法の先生達は何人も変わったのだからビックリした。

 ちなみに勉強中に厳しいことをしても、それは悪意とは認定されません。

 なので薬師のお師匠様は一度も変わってません。


 結界があるので戦うことは早々にその辺は諦めた。

 本人が諦めてるのにこの国の人間は諦めきれずに他の候補と同じように迷宮に放り込んだのだ。

 しかもスキルの効果を見たいからと1人だけで。

 迷宮では魔物達は避けていくが、罠までは避けてくれない。

 魔物達が避けていくということは戦闘ではレベル上げもままならない。

 それでも迷宮を踏破するまでは迷宮から出れないという魔法をかけられていたので頑張った。

 戦闘による怪我ではなく罠によって死ぬかなー?と思うことも多々あったけれど、とりあえず今日まで生きている。


 迷宮で手に入れたものに関してはちゃんと報告して買取してもらった。

 値段はかなり安めだったようだけど、衣食住だけでなく装備や学習代を引かれてると思えば仕方がないことでもある。

 迷宮で手に入ったのは武器とか魔道具だったから私には必要なかったしね。


 戦いには役に立つ能力はほぼないので私には意外と時間があった。

 歴史や礼儀作法、魔法を習う時間以外は治癒魔法や薬師としてお金を稼いでいたくらいだ。

 中級生活魔法を使えるようになってからは部屋の掃除や洗濯も自分でしていたので私には側付き侍女は外してもらった。

 そうしないといつ部屋に誰が入ってくるかわからなかった。

 警戒はしといてし過ぎることはない毎日だったから。


 聖女の毎日は離宮の食堂で食事をして、勉強して、ノルマのトレーニングを終えたら、あとは基本自由だったので、料理をしたり、薬の調合を習ったり、本を読んだり、街の治癒院で治癒魔法を使ったり、薬草の採取をしたり。

 あとは一緒に召喚された聖女のマッサージをしたり。

 この辺りの能力は評価された。部活で習ったマッサージと日本にいた時にはそれなりの年で身体のメンテナンスはしていたことがしっかり役に立った。

 そのせいで国に残ることになった聖女に「残って!」と懇願されたりしたのも今は笑い話だ。

 治癒魔法を使える聖女は沢山いたが、治癒魔法しか使えないのは私しかいなくて、治癒院に行くのは大抵私だった。

 そのおかげで薬草による調合も教えてもらったのだからある意味では生きていく術があることには感謝しなくてはならない。

 身体そのものは鍛えることは出来るけれど、戦いの術を身につけることは出来なかったのだから。


 ま、悪い思い出ばかりじゃないけどね。

 治癒院に併設された孤児院の子達の仲良くなったし、街での生活は楽しかった。

 全ては聖女であることを秘されていたお陰だけど。


 これは、50人程いる聖女達の中でほぼ最下位キープという貢献度では聖女と名乗らせるのはどうか?という話になったからで、街での身分は城に勤める治癒魔法使いだったから。

 おかげで皆さん緊張せずにお付き合いしてくれたので、ますます地位を向上される気持ちがなくなったのに、城ではなんとか使える者にしようと煽ってくるのだから面倒で仕方がなかった。


 でも、全く役立たずでいるのも色々不便ではあったので、薬の調合やマッサージ、化粧品など聖女としては役に立たない方面で頑張らせて頂きました。小金も稼がせていただきましたよ、ハイ。


 他の聖女が私を大切にするのに国や役人、使用人が大切にしないわけにはいかなくて随分苦々しい顔をされたり嫌味を言われたりもしたが、お局様と呼ばれ、お一人様と呼ばれ、結婚できない女として扱われたことに比べたら、なんともなかった。

 やるならもっと狡猾にやりたまえと指導したくなったが、それは控えておいた。


 てか、結界のせいで多分いじめることも、私を本当に困らせることが出来なかったのだろう。

 そのせいか監視はキツイし、部屋の荷物をこっそりと探られたりして、それはそれで嫌な思いはしたけどね。


 このスキル、敵の中で生きていくことを考えると本当に役に立つのだ。


 ま、明日からは皆さん顔見ないで済むし、手を出して来ない限りは全力で逃げるから、いいとしよう。


 そう考えた私の目に入ったのは身分証と一緒に渡されたキレイなペンダント。


 しかし、これ、どうしようかなぁ。


 それは追跡魔法がついたペンダント。

 宝石がついているので売ればそれなりの価格にはなるし、ちょっとした魔道具でもあるのだ。

 これを持っていかないなら身分証は出さないと言われたので渋々持っていくことにしたのだけど…。

 本当は身分証もいりません!と言いたかったけど、言ったら城から出してもらえないのは目に見えていたのでやめた。

 ペンダントも身分証もさっさと手放したいが、下手に手放せば、他のものに追跡魔法をかけてくるかもしれないので、捨てるのは今のところ見合わせている。


 城を出る聖女達には半年間は密偵がその動向を見張る、とコッソリとトップの聖女が教えてくれたので、ある意味で手放すなら半年以内ということかもしれない。

 名前を変えるのも、薬以外で商売をするのも半年後ね。

 でも、その間に国は出たい。

 行方をくらますとしてもこの国の中でやれば密偵に見つかる可能性が高くなるだろう。


 薬もどこまで大丈夫なのかな?

 富山の薬売りみたいな行商人もいるらしいし、ポーション専門の薬師さんもいる。

 治癒魔法はお金にはなるけどその場に相手がいなければどうにもならない。

 化粧水やクリームとかの方が売るのは簡単かもしれない。


 見つからないためにはどうしたらいいのかなぁ?

 いっそ作り方を広めちゃうのがアリかもしれない。

 カレー粉やクレイジーソルトも作りたいし、それなりに広がれば「〇〇で流行ってる」ということにして売っていてもおかしくない。

 ああ、でも、来た国や街はわかっちゃうか。

 うーん、と考え込んでしまう。


 バスボムやカレー粉、クレイジーソルトはこの城の人に誰にも教えてはいない。というかカレー粉に関しては材料になる香辛料が全部は揃ってない。

 シャンプー、リンス、化粧水やクリーム辺りは既に薬師ギルドにレシピを売った。聖女達が使うからだ。

 自分が使っている昆布とハーブを煮たものを使ったリンスは誰にも教えてないので、これで荒稼ぎも出来るかもしれない。


 薬師ギルドに売った分はギルドでも売られるはずだし、似たようなものを売る分には大丈夫かな?

 クレイジーソルトに関してはハーブやらニンニク、香辛料と塩を混ぜてるだけだか問題にはならないだろうし…。

 むしろカレー粉の方が問題になるかも?

 でも、カレー粉はいつか聖女仲間が開発するかもしれないし、もしかしたらこの世界にもあるかもだし。


 魚醤があったんだから、味噌や醤油もどこかに存在してると思いたい。

 米と昆布、鰹節もあったんだから希望は捨てなくていいはず。

 でも鰹節を削り箱じゃなくてナイフか魔法で削るのは本当に勘弁して欲しい。


 上級生活魔法トレースがなかったらきっと鰹節使うの諦めたかも…。


 色々な国のお金に両替した手切金は早いところ使い切りたいし、旅装も国の支給してくれたものは売っ払うつもりだ。


 手切金はかなり早くから支給されていたので、そこから色々買ってなるだけお金を手放す工夫はしている。

 でも、全部を金貨に変えるとどうやって運んでいるのかを疑われるだろうから白金貨も残してはいるのだけど…。


 ああ、そうだ。使ってた魔法書出さなくちゃ。

 自分で買ったものはずっと収納魔法で入れっぱなしだったけど、国から支給されたのは置いていこう。

 薬草図鑑や野草図鑑も国からの分は置いていく。

 魔物図鑑もある。

 特殊結界【悪意】のせいで魔物を殆ど見ることが出来ないけど、一応持っている。

 魔物がなぁ、もう少しだけ側に来てくれたら攻撃魔法も必死で覚えたんだろうけど、姿も見せずに逃げていかれるとこっちのやる気も失せる。


 私が使えるのは全ての生活魔法と上級治癒魔法。

 他には中級雷魔法を半ばまでと初級の火水風土と植物魔法。あとは初級などのくくりがない探知魔法に解呪魔法、それから身体強化魔法。

 本当は幻魔法や転移魔法、飛翔魔法も覚えたかったけれど、やんわりと遠ざけられた。

 一応、魔法書は買ってはあるけれど、本だけで覚えられるようなものではなく未だに覚えることは出来てない。


 雷魔法は電気が作れないかと試行錯誤した結果で、土と水と植物魔法は家庭菜園用。 土を耕したり、混ぜたり、多少の発育促進と毒かそうじゃないかを見抜く程度のもので農夫も使っていたりする。

 火と風は薬師の調合のために使うので覚えた。

 各属性毎に属性を付与する魔道具もあるけど、それがないと薬を作れないということを避けるために覚えた。てか、薬師の授業でまで魔法を覚えることになってびっくりした。

 この世界では本当に当たり前に魔法があるのだ。

 探知魔法はそのものズバリの魔法で自分を中心に魔物や人がいるかどうかと地図が見える。これにはかなりの魔力を消費するけど逃げようとしてる私には必須の魔法だ。

 解呪魔法も大切。たとえ解呪が出来なくても、魔法がかけられているかはわかるのだ。

 なので掘り出し物を見つけるのにも使える魔法だったりもする。

 この世界の治癒魔法は怪我だけで病気も治せるし、体力を回復することもできる。部位や内臓の欠損まで回復出来る。

 特級になれば息さえあれば身体の大部分を修復できる。

 ちなみに私は治癒魔法は国には中級までしか使えないと申告してある。


 さてと、本当にそろそろ寝ないと、ね。

 とりあえず、まずは隣の国へ。

 それからさらに別の国へ。

 できれば名前を変えて。

 どこかの街で定住するか、一定のルートをめぐる行商人なるのが目標だ。


 どこかで脚を手に入れるといいな。

 でも、この国からもらうのはダメ。どんな仕掛けをされてるかわからない。

 馬は苦手だけど乗馬は習ったし、羊熊や兎狼にも乗れる。

 一応、地鳥とかにも乗れるけれど、トップスピードで走らせることが難しい。

 でも、象とか地龍とか大蜥蜴はダメだった。どちらも身体が大きくて視点が高い。それが怖い。

 個人的にはもふもふが出来る羊熊か兎狼がいいな、と思っている。どちらもキチンと仲良くなれば護衛もしてくれるからだ。


 あと、忘れちゃいけないのは体毛の色と目の色を変える薬。

 これを作れるのは師匠にも内緒だ。

 持続時間と色によって使う薬草や込める魔力が違うけれど、私の場合は自力で作ったから入手していることは知られてはいないはず。

 ただ、そのせいで実験はあまり出来てないのでちゃんと機能するかが心配だけど。


 ま、これ以上は悩んでも仕方がない。


 なるようになる!と私は城での最後の夜にベッドに潜り込んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ