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ここからが本番。

 クゥと別れるのが辛くてトルー国で思ったより時間を使ってしまったので小国群に入ってからは少し急ぐことにした。

 身分証がなくても国境が越えられるかどうかを幾つかの国境で試す。

 身分証を持っていない人間でも国境を通れることはわかった。犯罪歴がないか魔法で調べられるので嘘をつくことはよくない。質問の答えによっては嘘をつくことになるので、その辺りには注意が必要。

 入国料や時間は余分に取られるが身分証がないことを咎められたりはしない。というより身分証を持っていない人間は想定より多かった。なので身分証がないことで目立つことはないことがわかってホッとした。

 これは街でも同じで、魔法の分、入街料は上乗せされるが嘘をついていなければ街へ入ることは出来る。

 あとはギルドに所属してなくても働き口はあるかとか、街に住むにはどうしたらいいかとか、市民権を得る方法などを出来る範囲で調べていく。

 合間に最終目的地の情報も集めながら、じりじりと進む。

 最終目的地は3つの国境に跨る山の麓の温泉の町。

 この山で死んだように見せかけて密偵を振り切り、別の大陸へ渡るつもり。

 エリーゼ国がまた何か仕掛けてくるかもしれないので、早めに町には着いておきたいけれど、その町が目的地だと見抜かれれば、計画に勘付かれる可能性もある。

 この世界での温泉は遊興目的ではなく湯治目的のものなので、治癒師が温泉の町を目指してもおかしくはないし、お金も稼げる。

 ただ、治癒師は目立つ。

 治癒魔法が難しいからだが、計画のためには目立つのも悪くはないので治癒魔法でお金を稼ぎながら先へと進む。

 ただし、引き止められたり、面倒に巻き込まれたりしないように街での滞在時間は短くして、あの街で名前も知らない冒険者に教えてもらったように治癒ギルドや冒険者ギルドで依頼人を探す。

 時たま数日、街に滞在することもあったけれどそれは依頼のためでしかない。

 依頼をこなしながら情報を集める。


 結局、偶然、その温泉のことを知ったというようにするのに思った以上に時間を使ってしまった。

 たまにそこまで警戒しなくてもいいんじゃない?という声が自分の中からする。

 必要以上にピリピリしてる自分を感じているから。

 でも、それも仕方がないと思う自分もいる。


 こちらに来てこちらの暦で3年近くが過ぎた。

 1年が400日なので1200日なので、体感的には既に3年以上たっている。

 なので今でも暦には違和感を感じる。

 でも、それでも、それだけの時間、監視され、束縛されていた。

 そこからもうすぐ解放されるかもなのだから、ピリピリするのも仕方がない。

 落ち着け、落ち着いて行動すればいい。そうすれば大きな失敗はしないはず。


 温泉の町にどうやって馴染もうか。どうすれば死んだと思ってもらえるだろう。

 あの国を出てから一ヵ月も滞在した街はない。

 聖女というより召喚された者たちはこの世界の人間よりお風呂が好きなのは知られている。

 どうやら昔、日本人が召喚されたことがあるらしくその時にお風呂文化を根付かせたらしい。

 今回の召喚された50人は全てが日本人だったわけではない。

 パティシエ志望の子はフランスの子だったし、アメリカやイギリスの子もいた。明らかに日本人だとわかったのは5人だったが、それでも時代が少しずつズレていたように思う。

 でも、そんなことを気にする人間はこちらの世界にも召喚者の中にもいなかった。


 召喚の魔法陣ってどんな基準で召喚者を選んでいるのだろう。


 今更、そんなことが気になってきたけれど、それを調べるには城に戻らなくてはならない。そんなのごめんだ。

 それに、召喚陣は世界中にあるエリーゼ国の召喚陣だけを解析できたとしても仕方がない。


 色々設定が出来るならば『異世界召喚』に憧れている人間だけを選別してくれればいいのに。

 でも、逃げたいと思っていたのは私だけだとすると、私だけが何かのミスでこちらに連れてこられた可能性もあるんだよねぇ。

 今そんなことを考えても仕方がないけどさ。考えなきゃならないのは、どうやってこの世界の人から利用されずに安全に生きていくかだもん。


 本当はこの大陸にいた方が安全なのは旅をしていて思い知ったが、それでもこの大陸にいたらいつエリーゼ国の人間に見つかって連れ戻されるかわからない。

 旅の最中と同じにいつも張りつめながら生きていくなんて無理だ。

 だから逃げるしかない。そのために出来ることはなんでもするしかない。


 そんな風になんとか自分をなだめながら、温泉の町にたどり着いたのは監視終了の1ヵ月前。

 やっと辿り着いた街。でも、ここでうまくやらなくてはまた逆戻り。

 気合を入れると、エリーゼ国からもらった身分証を門番に差し出した。




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