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リゼルという街

 村から早く離れた方がいいとわかっていたので、旅路は急ぐことになった。

 国か領主が兵を出した為か、街道沿いの村や町から逃げ出す人もそれなりにいて、道は混んでいる。

 でも、それは今は逃げることが出来るくらいに安全性は高いという証明にもなるし、また山奥へ入って何かに巻きこれることは避けたかったので、大きめの街道を進んでいるうちに、活気のある街へとついた。

 門の前には長い列。

 その近くには数軒の脚屋、大きな乗合馬車乗り場もある。

 街の外にもうひとつ街があるというのが正しいような賑わいだ。


 ここ暫く野宿ばかりだったし、ゆっくりお風呂にも入りたいなぁ、と思った私は数日間クゥを脚屋に預けることにした。

 このところクゥにも無理をさせていたし、少し休んでもらおう。


 クゥを脚屋へと連れていき、果物をたっぷりと与えて、出発は未定でもいい?と聞けばクゥはすりすりと頭をすりつけてくる。

 それはまるで「ゆっくり休んでおいで」というようでちょっと笑った。


「うん、ゆっくりしてくるね。待っててね」


 その言葉に頷くクゥを残して脚屋を出て、街へと入るための門へと向かう。

 門に並ぶ列は2つあり、片方は初めて街に入る人専用のもの。

 そちらに並んで順番を待つ。

 何故だか商人が多い気がする。それを護衛している冒険者も。

 貴族が乗っているであろう脚車も多い。


 なんだろう?お祭りでもあるのかな?


 そんなことを思いながらこっそり風魔法を使って周りの話に聞き耳を立てる。


「どうやら市には間に合ったな」

「そうですね」

「今年は開催も危ぶまれていたからなぁ」

「エリーゼ国に感謝せねばいけませんね」

「聖女様達が瘴気を払ってくれるおかげだな」

「そうですね。ところで旦那様、今回は宝石市メインでよろしいのでしょうか?」

「あぁ、金属市と細工市も見るが、今回は宝石の仕入れがメインだ」


 へぇ、そんな市があるんなら、薬の材料になる石も売っているかもしれない。

 純粋に魔法を使わない薬製作でも石を混ぜる調合法があるし、魔法を使う場合だと入れ物そのものに宝石や特殊な石を使って細工する場合もある。

 そういえばロレンガ言っていた。別の大陸だと通貨が違うのだと。

 銅貨、銀貨というのは変わりはないけれど価値が違ったり、形が違ったりするらしい。

 大陸横断船の出る港ならば、どちらの通貨も使えることが多いが、内陸部は違う。

 だから、旅をする人は貴金属か宝石を持っていくのだと言っていた。

 別の大陸に行くのだし、ここで調合で使う石や、宝石、ミスリル、プラチナ、金も買えるといいのだけど。


 そんなことを考えながら街へと入る。

 エリーゼ国の王都とまでは言わないが、かなり立派な街並みがそこには広がっていた。

 石畳の道に背の高い建物達。

 大通りは脚車用の道と歩行車用の道に別れている。

 門の前は広場にもなっていて、店や屋台の活気が凄い。

 旅人だけでなく、客引きの人もかなりいる。


 なんだか、こういうのは久し振り。

 ぼーっと立っていると危ないので端によると客引きに囲まれる。

 でも、私は一人だし、屋台の方へと向かえば、次々と町へ入ってくる旅人達の方へと客引きは散っていった。

 しばらく様子を見てから決めよう。

 流れ作業のように旅人達に声をかけていくのを眺めていると、旅人の方から声をかけられている客引きが何人かいた。


 常連さんかな?

 こういう街なら安全と信用は何より大切だろう。

 裏の世界がないとは言わないけれど、きっとここで大っぴらには声をかけたりはしない。

 冒険者っぽい人達じゃない人からも声をかけられている客引きの一人に声をかけることを決めて、私は屋台で甘味を買った。

 それを食べながら客引きに声をかける。


「宿、紹介てほしいんだけど」


 まだ成人はしていないだろう少し幼い容貌でも彼は私より背が高い。

 常連さんでもないのに声をかけてきた私に彼は少し警戒しながら言う。


「いいけど、案内は少し待ってくれる?」


 さっきから見ていたから知っている。彼は別の人に任せず客を案内していた。

 本当は待ってもよかったが、この街のことを知らないし、何があるかわからないので、わざとつれなくしてみることにした。


「そう。ならいいわ。別の宿にするから」


 あっさりと離れていこうとする私に彼は焦る。


「ちょっ、ちょっと待ってよ。案内!案内するからさ」

「そう。なら、先に代金教えてもらえる?」


 腕を掴もうとした彼をかわしてそう聞けば、やっぱり聞くか…とため息をつかれた。


「そりゃ聞くわよ。値段なんかいくらでも構わないお大臣なら一番目立つ宿に入ればいいだろうけどね」

「お姉さんも宝石市に来たんでしょ?」

「ええ。でも、私の目当ては薬や魔術の媒介に使える石と貴金属の方よ」

「へぇ、レアもの探しじゃないんだ」

「宝石見る目なんてないもの。それなら保証されている貴金属の方が安心じゃない」


 そう、この世界でも貴金属は共通の価値を持つものとして扱われている。鑑定は魔法具でするので宝石と違って世界のどこでも価値はほぼ同じだ。だから旅に貴金属を持っていく旅人も多い。


「なるほど。資金はどれくらい?」

「宿の?貴金属の?」


 ちぇ、ひっかからなかったか、と彼は笑う。


「宿が気に入って信用出来そうなら宝石商か金属商の紹介頼むかもしれないわよ?」


 途端に彼の眼が輝いた。やっぱり紹介制度はあるらしい。


「で、宿代はいくらなの?」

「うちの宿は大部屋はないんだ。全部個室で、いくつかグレードがあるよ」

「それは部屋が広いとか狭いとか?」

「うん。商談に使うお客さんもいるから寝室と別に部屋があったり、入口が二つあったり。あとはお風呂のある部屋もあるよ」


 川が近くに流れてない街では珍しい。


「それは高そうね」

「うん。そこが一番いい部屋だよ。でもうちの宿からは浴場も近いし、荷物の預かりもやってるから安心して」


 あとね、と彼の話は続く。食事の話やルームサービスやランドリーサービスがあることなど値段の話の前に長所をアピールしてくるところが小憎らしい。


「はいはい。大体わかったから値段は?」

「一人部屋で4階でいいなら…」


 ちょっと言いにくそうに口にした値段はさほど高くはない。でも、一般的な宿の個室よりは高めだ。


「それが一番安いの?」

「…もっと安い部屋もあるけど狭いし壁も薄いから俺はすすめない」

「ちなみにそれって食事つき?」

「朝だけね。夜はうちの宿で食べるならおつまみとかサービスするよ」


 ここで値切って安全を失うのも嫌だし、あとは道中、宿が紹介できる宝石商の話を聞くことにして、私は彼に案内を頼んだ。


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