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街には危険がいっぱい?

 宿は門から内壁の近くにあるという。


「内壁?」

「ああ、お姉さん初めてなんだね。内壁の内側で宝石や貴金属は取引されるの。入場料もとられるから冷やかしはあんまりいないよ」

「入街料以外でいるの?」

「うん。でも一定のお買い物をした人には店から入場料が払い戻されるよ」


 なるほど、なら文句は出ないし、冷やかしも減るだろう。


「貴族や懇意の商人なんかだと中から迎えが来て入場料払ってくれたりするよ」


 それだけ買い物をするということなのだろう。


「うちの宿で紹介できるお店も宝石商なら15。金属商なら8つあるよ」

「金属扱うお店でミスリルとかオリハルコンとか扱うお店はある?」

「武器や防具でも作るの?」


 不思議そうに聞かれたが、そういうものを作るつもりはない。だが、武器や防具が作れる金属というのは時として貴金属より価値がある。冒険者ギルドに依頼が出るくらいなのだからそれは確実だろう。


「今すぐに作るわけじゃないけどね」


 曖昧に誤魔化せば「作るんなら結構な数が必要だよねぇ」と言うので頷いておく。


「そうなるとひとつになっちゃうけどいい?」

「信用がおけるなら構わないけれど」

「信用は凄くあるけど、不愛想な人だし、たまにお客さんを怒らせたりもしてる人だか、うちから誰か連れて行った方がいいよ」


 こういう言い方をするということは普通は誰も連れていかないのだろう。


「普通はどうするの?」

「紹介状を書くだけかなぁ。案内して欲しい場合は宿に手間賃払ってもらうから」


 そうか。入場料がかかるってさっき言ってたものね。


「そこってわかりにくい場所なの?」

「そんなこともないよ。普通に買い物するだけならね。下手な値引きとか無理難題言わない限りは大丈夫じゃないかな?」


 一人で行くつもりだとわかったのか彼は深追いはしてこなかった。

 かわりに街の案内をしてくれる。

 浴場の場所、旅に必要な雑貨を売っているお店、市の立つ広場。

 聞いて満足したので宿に入る前に銅貨をチップとして渡すと彼はお礼を言って、広場へと走っていった。


 この世界ではエレベーターはないので建物の高いところの方が安い部屋になる。

 宿は4階建てなので、つまり4階が一番安いはずなのだが、中庭に納屋のような建物があってベニヤのような板で仕切られた部屋とも呼べないような部屋が最安値の部屋だと言われたので、おとなしく4階の部屋にした。

 広さは四畳半くらいでベットとテーブルがあるだけだ。

 テーブルの上には洗面器がひとつ。明かりは別料金。お湯も別料金だと聞いた。

 トイレは各階にはなく、中庭にあるものを使うらしい。

 2階の個室では部屋にトイレもついているという話だ。

 部屋には旅装を置いて、ワンピースに着替えてフロントへと向かう。

 客引きから聞いた金属商への紹介を頼むと「一番早くても明日の午後だ」と言われたので、それでお願いして、浴場へと向かった。

 広いお風呂は久しぶりで、普段よりもゆっくりと堪能する。


 ああ、やっぱりお風呂はいいなぁ。魔法できれいには出来るけれど、それだと物足りない。

 洗濯とか掃除は楽だけど、お風呂って食事と一緒で娯楽なのだなぁ、としみじみ思う。

 そういえば、どんな格好していくといいのか聞くの忘れた。あと、武器とか防具ってどのくらい金属があれば作れるのかしら?

 その辺りのことは聞けば答えてくれるといいのだけど。


 長湯をして、火照った体を冷ましながら宿へと戻ると食堂は凄い人だった。


 この中で食事をするのはちょっと嫌。


 来た道を引き返して一人でも大丈夫そうなお店へと入る。


 最近は自分で作ったものばかり食べていたから、人の作ってくれたものというだけでご馳走だ。

 注文して代金を払って、回りの人達の話を聞くと話に聞いていると、皆、宝石市へとやってきた人ばかりらしい。

 市は5日後から。でも、明後日からは売買は出来ないがプレオープンいう形で商品を見ることは出来るらしい。

 明後日からは宿も争奪戦になるらしくて野宿をする人達や、自分の家や部屋に人を泊めたりする人もいる。

 本当にお祭りなんだなぁ。でも、トラブルも多そう。

 欲しいものが手に入ったらさっさとこの街を去るべきかちょっと悩む。

 この先、あんまり大きな買い物が出来ないことを考えると覗いてみるものいいかもしけれない。

 んー、でもクゥ借りっぱだしなぁ。

 かといって宿を出たらもう部屋は取れそうにない。


 途中で悩むのにも飽きてきた。

 ともかく全ては金属商に会ってからだ。

 気持ちを切り替えたところで「ここいいですか?」と声がかかる。

 顔を上げると困ったようにこちらを見る男性がいた。


「相席いいですか?」


 回りを見回せばいつのまにか店内の席は埋まっていた。

 あんまり知らない人と関わりたくないけれど、まだ注文した料理が来ていない。

「どうぞ」となるだけそっけなく聞こえるように了承して、下を向いた。


 しまった。本くらい用意しておけばよかった。

 話しかけられないための小道具が何もない。

 窓際の席でもない。正確にはガラスの窓はないけれど木窓が開け放されているけれどこの席からは外は見えない。

 どうしようと考えている間に男性は注文を終えていた。


「あなたも宝石市にいらしたんですか?」

「え?」

「僕も宝石市に来たんですけど、こんなに沢山な人とは思いませんでしたよ。しかも、ここからまだ人が増えるなんて凄いですよね」


 この世界では渋谷や新宿のような人混みに出会うことは珍しい。なので今の街の人混みは王都でも中々ない賑わいではある。


 うーん、この人、何がしたいんだろう。単にご飯の間のお喋りがしたいだけならいいのだけど。

 用心深くなっているとは思うが仕方がない。

 多分、今も監視されている。

 この人がエリーゼ国の密偵でない保証もない。

 でも、何も話さないでいれば不審に思われる可能性も高い。

 仕方がないので、男性の話すことにだけ相槌を打つ形で会話することにした。


「……確かに凄い人ですね」


 考え事をしていたので少し不自然な間があったのだが、そのことに男性は触れずに嬉しそうに男性は話し始めた。

 ここまでの道中に起こったこと、門を入ってすぐの広場での客引き達に驚いたことや、屋台で食べた初めての食べ物のこと、取りとめなく話される話題に少し警戒心が緩んだ時にそれは起こった。

 男性がさりげなく私に伸ばした手が結界に弾かれたのだ。


 この人、私に悪意を持っている。


 ぶわっと汗が出たが、顔色は変えずに済んだらしい。

 あれ?というように自分の手を見ている男性から少し距離をとるように体を起こして椅子に浅く座る。

 この結界の短所は常時発動していることだけれど、こういう時には役に立つ。しかも、この結界、常時発動している部分は悪意をもつ者全てに自動的に発動するわけではなく、私に悪意がある者にだけ反応する。


 この人、何を考えているのかわからないけれど、何か魂胆があることは間違いがない。

 でも、すぐに席を立っては不審に思ってくれ、と言っているようなもの。

 そういえば、これだけ話しているのにこの人、名前も名乗らないのだろう。

 こうやって考えるとこの人怪しい。でも、何かをしようとしてるとしてもそれがエリーゼ国の差し金なのか、宝石市関係なのかがわからない。

 浴場でも噂話として聞いた。この市は年に一回のものなので、大陸中から人が集まる。その分、動く金額も多い。つまり、今、宝石市を待つ人達はかなりのお金を持っているということ。

 ならば悪い人達もこの街へと集まっているだろう。


「どうです?もう少し何か頼みませんか?」


 また手が伸びてきたので、結界が反応する前に立ち上がった。


「いえ、宿に戻ります。連れも待っていますので」

「え?」


 驚いたように顔を上げた男性に、にっこりと笑いかける。


「ええ、主人が戻る前に戻りませんと。そろそろ商談を終えて戻る頃合いですから」


 わざと主なのか夫なのかわからないあいまいな言い方で連れがいることを告げると男性はいきなり興味をなくしたようだ。

 女の一人なら組し易いと思って声をかけてきたのならば、エリーゼ国は関係ないのかもしれない。

 どちらにしろこの街では警戒が必要。宿に頼んで案内人をつけてもらう方がいいのかもしれない。


「相席出来て楽しかったです。それでは」


 していた話は世間話のみ。宿がどこかも名前も話していない。この後、追いかけられることさえなければ面倒事からは距離を置くことが出来るだろう。

 こういう店は前金制なので食べ終わったらそのまま席を立っても問題はない。

 店を出て、しばらくはぶらぶら歩いて尾行を警戒してみた。

 男性は着いてきてはいなかったので宿へと戻る。

 宿に戻ってから受付で金属商の話を聞くと、明日の午後一に会ってくれるという話なので、先程の話をして案内人がいた方がいいかを聞いてみた。


「そうですねぇ。お客様はお若いし、今回のようなことは意外とあると思いますよ。宝石に金貨、女、どれも悪党を呼び寄せる一番の餌だ」


 そこで一度、女将らしいその人は私を上から下まで見た。


「あんたみたいな人は簡単に騙せそうに見えるから、誰かと一緒の方がいいとは思いますよ。ただ、こちらも商売ですから、案内人をつけるなら料金はいただきますよ」


 下手にここで甘いことを言われないのは逆に信用が出来る。


「なら、明日の商店までの案内を頼めますか?」

「午後だけでいいのかい?」

「…この街はそんなに危険ですか?」

「旅の物を買物するくらいなら大丈夫だよ。店、教えておくかい」


 お願いします、と頼んで明日の案内料ともう一泊の代金を払う。

 まいど、と踵を返した女将を呼び止めると不思議そうな顔をされた。


「もし延泊をしたい場合って前日とかに言いだしても大丈夫でしょうか?」

「うちは予約を受けるような御大層な宿じゃないので大丈夫だよ」


 ま、先に言いだしてくれるなら多少は割引するけどね、と話を打ち切る女将に「よろしくお願いします」と頭を下げて部屋に戻った。


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