ひとりで買い出しのつもりが…。
脚屋さんから聞いた広場へとまず向かう。時間はもう夕方なので、仕事を終えて帰る人達の波に紛れて露店を巡る。
この先、旅を続けるなら荷物を一式揃えなくちゃならない。
本当はお店で買った方がいいのだろうけど、探すのも楽しみのうちと露店にした。
えーと、必要なのは鞄とコップとお皿に着替えにタオル。あとは保存食かな。
調合道具はとりあえず買わなくてもいいな。
脚に乗るなら本当はブーツの方がいいんだろうけれど、サンダルでも平気だったし、なるだけ軽い方がいいなら、足元はこのままで大丈夫ね。
一応、予備にサンダルは買っておこう。
街に入るとクゥと一緒にいられなくなるから夜は野宿かな?
そうなると野営道具と調理道具はいるよね。
あとは着替えは前と同じに寝間着にも普段着にも出来るワンピースとペチコート。一応下着も一式は買おうかな。
調理道具はどうしようかなぁ。
また投げ捨てる可能性を考えたらやめておこうかな?
保存食もパンだけじゃなくて、スープや煮れば食べられるものもいる。お肉類や野菜も買おうかなぁ。
テントはどうしよう。
クゥが許してくれなるなら一緒丸まって空を見ながら寝てみたいけど、雨が降らないわけじゃないし。
それとも雨の日は諦めて街に泊まる方がいいのかな。
この地域は…と城で勉強したことを思い出す。
この地域というよりはこの大陸はあまり雨が多くは降らない。
トルー国は平地が多く、今の時期は雨が少ないはず。
なら、あまり雨の心配はしなくてもいいかな。
この辺も含めて脚屋さんに明日聞いてみよう。
あと風呂敷代わりの布。何かを包んだり入れたりする時に便利だから。
それ考えるとリックに入れてた鞄の取っ手だけみたいな風呂敷をバックとして持つことが出来る器具がなくなったのは悔しい。
予備はアイテムボックスの中にあるし作り方も難しくはないのだけど、しっかりしものを作るにはどうしても時間がかかるから旅しながら作るのは面倒だ。
まぁ、投げたのは私だしね。と切り替えて周囲を見る。
もう夕方なので店じまいしていたり、別の店になっているところもあるが、まだ野菜や肉は売っている。
下拵えまでして収納魔法の中に入れておけば調理は楽だし、明日の朝買った方が新鮮かもしれないけど、今買っちゃおう。
あ、でもその前に入れ物買わなきゃ…。
目に付いた布を売ってる露店で丈夫そうな布を買う。
それを風呂敷バックの畳み方にして肩にかけると露店の人が目の前でビックリしていた。
「おい、お嬢ちゃん」
「はい?」
「それ、今、売った布だよな?」
「そうですよ」
「縫ってないよな?」
「ないですね。捻って縛っただけですよ」
「ちょっとやり方教えてくれ!」
「あの、他にも買物があって…」
教えることは構わない。でも、買物が出来なくなるのは困る。
「何、買うんだ?」
「旅に必要なものと、野菜やお肉です」
「旅?保存食とかか?」
なんでそんなに詳しく聞くのかな?と思いつつも答えていく。
「保存食もですけど、鞄と野営用の調理道具と食器、後は服です」
「随分と多いな」
「脚で旅するので荷物は多くても大丈夫なんです」
「なら、俺に任せろ!教えてくれたらいい店紹介するし、値切り交渉もしてやるぜ!」
値切るつもりはなかったのだけど、安く買えるならそれはそれでありがたいし、何より案内してもらえるのは楽だ。
「なら、先に買物でもいいですか?お店が閉まってしまうと困るので」
「…急いでるのか?」
「明日にはこの街を出ますから」
「よし、わかった。買物が終わったら夕飯でも食べながらさっきの教えてくれ。俺はタクハ。行商人だけど、実家はこの街で店やってるからこの街には詳しいぜ」
「マゥです。よろしくお願いします」
すぐに露店を畳んだタクハは近くで遊んでいた子供を呼んで銅貨を握らせて、布を任せた。
「いいの?」
「あいつなら大丈夫。ちゃんとうちまで運んでくれる。よくあることだしな」
聞いたのはそちらではなく店じまいをしたことの方だったのだけど、言葉が足りなかったようだ。
「そうなんだ」
「商品を盗んだりくすねたりしたら次から仕事はもらえないしな。それに人との繋がりは金には変えられない」
なるほど、確かだ。
商人としてタクハはかなり信頼出来そう。
そんなタクハの案内で広場を回る。
「なぁ、おばちゃん、これ持って帰るのも大変だろ?今なら俺もいるし、いっそこの辺りまとめて売ろうよ、な、な」
タクハには敵わないね。とおばちゃんは苦笑しながら、野菜や果物をまとめてくれる。
「籠は明日返しとくれよ!」
「もっちろん!おばちゃん大好き!愛してるー」
多分、これもいつものやりとりなのだろう。
まるで大阪人のようなテンポの良い会話は見ていて気持ちがいい。
「よいっしょっと!マゥ、今夜の宿は?」
「まだ決めてないです」
「あー…そうなんだ。ならこれ重いから、肉買ったら一度うちに運んでもいい?」
「買うのが間に合うなら構いませんよ」
「うっし!なら、いい肉屋紹介するぜ。燻製肉とかもいるだろ?」
「そうですね。ベーコンにハムは欲しいです」
「生肉もいるの?」
「はい。保存魔法かけますから。ミルクとかは朝に買いますけどね」
「え!あんた生活魔法の中級使えるのかよ!」
「使えますが?」
「ならこれ軽くしてくんない?それなら持って歩けるから」
いいですよ。と軽量化の魔法をかける。
これは保存よりも持続時間がずっと短い。といっても1日程度は持つのだけど。
「うわっ!めっちゃ軽い!」
そうだろう。そうだろう。多分、籠の重さくらいしか感じなくなってるはず。
「いいなぁ、これ使えたら行商も楽になるよなぁ」
「でも、持続時間は1日程度ですし、馬車とかは軽く出来ませんよ」
「どんなものなら軽くできんの?」
そうですねぇ…と首を傾げて考える。
基本的に部屋の模様替えや引越の時などに使う魔法で旅用ではない。
生活魔法の軽量化は生き物にはかけられない。
生き物を軽くして運ぶのは治癒魔法の領分なのだ。
ただし、ベットや担架にこの魔法をかけることは可能なのでそれで運ぶこともできる。
でも、私は治癒魔法と生活魔法両方使えるので生き物も軽量化出来る。ただ、生物を軽量化する方が魔力を消費するし時間も短い。
「タンスやベッドくらいなら1人で運べますよ」
「それでもすげぇや。ちなみにこれ中級?上級?」
「上級です」
タクハががっくりと肩を落とす。
「俺もなー初級はなんとか使えるんだけどなー」
基本属性魔法も生活魔法も初級はそう難しくないが、中級以降はその難易度がはね上がる。
その中でも生活魔法は初級を覚えるのは簡単だ。
ただし、中級から難易度が跳ね上がる。上級はさらに難しい。
イメージとしては生活魔法以外の魔法は母国語以外の言語を一から覚える感じに似ている。
初級はいくつかの単語。中級は文法が入ってきて、上級は読み書きと会話。特級はその言語の古語がすらすら読めると使えると思ってもらえればいい。
生活魔法の初級は平仮名を覚えた子供が中学生の教科書を読むと思ってもらえば近いかもしれない。
なので、読み書きさえ出来れば、生活魔法の初級は苦労はするがなんとか覚えられなくもない。
これが中級になると平安時代の文章を読むようになり、上級は上代日本語のように漢字だけで構成された文章を解読していくようになる。
しかも、中級からは美しく崩した文字になるのだから覚える方としては泣きそうだった。
私は治癒魔法が使えたから、魔法を体感的に理解できていたので楽だったけれど、魔法スキルが全くない聖女達は皆苦労していた。
むしろ苦労したのは薬師の方。
山のような薬草にハーブ。薬効を取り出す処理方法や薬にするためのレシピ。
この辺りもそれなりに料理や化粧品を作ってなかったら多分ギブアップしていたと思う。
本当に何が役に立つのかわからないものだ。
でも、おかげで旅の間も楽に過ごせるのだから悪くはない。
「いいなー。ちょっとは勉強したんだけど、もう中級は何がなんだかわかんなかったよ」
「難しいですよね。私も何度挫折するかと思いました」
「でも、使えるんでしょ!いいよなぁ」
軽くなった籠をぶらぶらさせながら悔しそうにタクハが言う。
その子供みたいな態度にちょっと苦笑しながら、広場をすいすい泳ぐように歩くタクハを追いかけた。




