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阿比久の手記1

はじめに、私は長い時間をかけて取材を受けてくれた栗林依玖さんに感謝したい。


もちろん彼のしたことは許されることではない。

しかし、彼の苦しみは似たような環境であがく人たちに届くことで救われるものがいるかもしれない。

そう長い、私はここに書き記す。



 

公判中、彼の発言でずっと気になっていたものがある。

彼はしきりに「殺してはいけなかった」と繰り返していたのである。


この言葉だけを聞けば殺害を後悔した人間の発言だが、どうやら彼の主張はそうではないようだった。


被害者は向井啓斗。

特にこれと言って目立つ特徴のない保険代理店で働く男性だ。

栗林依玖との関係性としても高校の同級生以上の関係は見当たらなかった。


そんな彼が11月の宵に滅多刺しにあい、命こそ取り留めたものの重傷を負い2度と以前と同じ生活は送れなくなった。

後に容態は安定したがこれは喜ばしいことではない。

この上ないほどの不幸の始まりともいえよう。

せめてもの救いは彼の周りにはどうやら優しい人間が多かったことだ。


そしてこの不幸を生み出した人間が、栗林依玖である。


彼は初公判の頃から様子がおかしく、どこか落ち着かない様子で始めは犯した傷害による情緒の乱れと思われていた。

しかし、彼ははじめから終始一貫して向井を襲った動機を「殺してはいけなかったから」と言っている。


発言に一貫性はあるものの、要領の得ない回答を繰り返す彼は次第に心神喪失、もしくは心神耗弱が疑われ始めた。

弁護士は刑法39条の適用を考え動き出したのである。


しかし、当の本人は自分はおかしくなっていないと主張。

しかし他の人間から見れば明らかにどこかおかしくなっているとしか思えないような言動や行動を繰り返す彼の言葉をまともに聞くものはいなかった。


結果的に彼はどこからか湧きだした「向井啓斗を殺してはならない」という声に頭を悩ませ、善悪の区別がつかなるほどその声により疲弊し、原因は被害者にあると考えた被告がその声に従いつつも元凶を正そうとした結果被害者に重傷を負わせた、という判決文と共に彼の心神耗弱が認められた。←まだ判決は出ていないため修正の可能性あり


しかし、私は彼が精神を病んで考えなく凶行に至ったとは思っていない。


彼は最後まで自分の主張を曲げなかった。

「殺してはならない」から向井啓斗に重傷を負わせた。

これが本当に彼の目的であったのだろうか?

本当は彼には別の目的があったが「殺してはならない」からこの結果になったのだとしたら?

これから晒すのは私が彼と関係を築き真実がどこにあるのかを調べた結果である。


狂人の戯言で済む話でも狂人なりに本当の主張がある。


取材を通して私が知り得た彼の全てをここに残す。


私の人生において彼は特別で、彼の人生を知ることはきっと読者のあなたたちにとってもきっと

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