補佐官は、お茶をする。
私は、今の状況がわからない。
お昼。
報告書を終わらせるのに時間がかかったため、遅めの休憩に入った。
今日は監視局前のカフェに行く。
新作が出ていると情報を得たからだ。
いつもは混んでいるが、今日は時間が遅いせいか空いている。
さて、どうしようか。
天気もいいから、外が心地よさそうだ。
通りが見える外のテーブルにしよう。
店員さんに新作メニューを頼み、一息ついて辺りを見渡す。
平和な風景だ。
道を歩く者たちの会話。
馬車の足音。
この音は、きっと平和な音楽なのだろう。
私の好きな時間だ。
それが今は――
なんだ、これは?
どうしたら、こうなった?
今、私の座っているテーブルには、私以外に三人がいる。
一人はワトソンさん。
私のスイーツ仲間だ。
美味しいスイーツの情報を、常に交換し合っている。
もう一人は、最近仲良くなったエディスさん。
ワトソンさんと同じくらいの長身。
女性的な体というより、無駄のない体つきだ。
私が理想とする体型だ。
美しいな。
そのエディスさんの頬は、少し赤い。
ぼーっとワトソンさんを見ている。
好きなのかな?
まあ、ワトソンさんは素敵な女性だから、わかりますけど。
そして最後が――
「それで、どうなんだ?」
セドリックさんが、紅茶を一口飲みながら聞いてきた。
「どうも何も、何もないですよ」
私は、セドリックさんの問いかけに答える。
セドリックさんが聞きたいのは、昨日の出来事のことだろう。
もう、せっかく新作スイーツを食べようと思ったのに。
仕事の話はしたくない。
最近、なぜかこのメンバーで集まることが増えている。
断れない大きな理由は、セドリックさんのおごりだということ。
この集まりは、いつの間にか、ある方向へと変わっていった。
情報交換会へと。
最初は、私とワトソンさんの新作スイーツの集まりだった。
魔法省の近くにある、このカフェ。
週ごとに新作が出る。
私とワトソンさんは、いつもこのカフェの新作を楽しみにしている。
仕事をしているときの、唯一の安らぎの時間だ。
そんな私たちの場所に、仲間が増えた。
次に現れたのは、エディスさんだった。
当然のようにワトソンさんの隣に座り、コーヒーを飲んでいる。
エディスさんとワトソンさんは昔からの知り合いらしく、エディスさんはワトソンさんを慕っている。
「知らないのですか? 藍色髪の天使ですよ」
いつも淡々としているエディスさんは、ワトソンさんを見かけたとき、大興奮していた。
ワトソンさんは「その言い方はやめて」と、エディスさんを注意していたけれど。
藍色髪の天使?
藍色の髪は、ワトソンさんの特徴だからわかる。
けれど、天使という感じはしない。
天使というより、シャーロットさんの保護者というイメージだ。
優しい。
でも、たまに見せる少し悲しげな表情を見たとき、私は心を奪われた。
今でも、たまにドキドキする。
いつの間にか、三人で食べることが増えた。
何人で食べても、美味しさは変わらないので問題はない。
エディスさんは、よくレジナルド准教授の愚痴を言う。
その愚痴を、ワトソンさんはしみじみと聞いている。
何か、二人にしかわからないものがあるようだ。
シャーロットさんとレジナルド准教授の行動を見ていると、大変そうだなとは感じている。
今週の新作スイーツ、黄金レモンのプディング。
北西で栽培された、地域名産の黄金レモン。
それを使ったプディングだ。
黄色いプディングにスプーンを入れると、レモンカードが中から溶け出す。
レモンカードには、レモンの爽やかな酸味と、カスタードのようなまろやかな甘さがある。
甘みと酸味のバランスがたまらない。
はあー。
幸せだ。
すべてが忘れられる。
そんな私の幸せな時間。
「楽しそうだな」
そう言って席に座ってきたのが、セドリックさんだ。
外務調査局員だ。
同じ魔法省の所属ではあるが、他の部署とはほとんど連携がない。
特に外務調査局員とは、関わりがないと言ってもいいくらいだ。
なのに、平然と私の隣に座っている。
私は、まだこの人を警戒している。
外務調査局には、いい思い出がない。
本人にその気はなくても、上の意向ですぐに見ている方向を変える。
今は味方でも、明日には敵になっている。
そういう組織だ。
ただ、セドリックさんと私のスイーツの好みは似ている。
甘いもの好きに悪人はいない。
そう思いたい。
「おお、これは美味しそうだな」
セドリックさんは、私が食べているプディングを見て目を輝かせている。
私はスプーンにプディングを乗せ、見せつける。
「俺ももらおう」
近くにいた店員さんに、セドリックさんは注文していた。
「そうか。でも、何かあるだろう?」
セドリックさんは、もう一度聞いてくる。
私は、昨日のことを思い出す。
連絡が入ったのは、昼食を終えて自分の机に戻ったときだ。
調整室から、市民からの通報があると連絡が入った。
大きな事件も抱えておらず、報告書もだいぶ片付いていたので、私はその内容を確認した。
「これって、何?」
補佐官の仕事の一つが、地域の巡回だ。
それぞれの担当地域を巡回し、報告をする。
とはいえ、週に一度できればよいくらいだ。
基本は、その地域の巡査官が見守っている。
その者たちから話を聞き、状況を確認していく。
中には、市民からの通報もある。
いろいろと迷惑をかける市民もいる。
夜な夜な徘徊する学生や、怪しい研究を行う准教授だったり。
「天使が降臨した」
そう記載されていた。
本当なら素晴らしいことだが、これだけ魔法社会が発展していると、何らかの魔法現象だと思われる。
特に被害もない。
現場にも行ったが、何もなかった。
捜査情報を漏らしたくはないが、このロンドンで怪しいことを企む可能性が高い者たちが、目の前にいる。
関係者に聞き取りをする。
「天使が現れたようです」
私の言葉を聞いて、三人がそろって訝しげな顔をする。
ちょっと待ってください。
また、あなたたちが犯人ですか?




