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王女殿下の補佐官は、ため息をつきたい。  作者: 桜の浜


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20/20

補佐官は、お茶をする。

 私は、今の状況がわからない。


 お昼。


 報告書を終わらせるのに時間がかかったため、遅めの休憩に入った。


 今日は監視局前のカフェに行く。

 新作が出ていると情報を得たからだ。


 いつもは混んでいるが、今日は時間が遅いせいか空いている。


 さて、どうしようか。


 天気もいいから、外が心地よさそうだ。

 通りが見える外のテーブルにしよう。


 店員さんに新作メニューを頼み、一息ついて辺りを見渡す。


 平和な風景だ。


 道を歩く者たちの会話。

 馬車の足音。


 この音は、きっと平和な音楽なのだろう。


 私の好きな時間だ。


 それが今は――


 なんだ、これは?


 どうしたら、こうなった?


 今、私の座っているテーブルには、私以外に三人がいる。


 一人はワトソンさん。

 私のスイーツ仲間だ。

 美味しいスイーツの情報を、常に交換し合っている。


 もう一人は、最近仲良くなったエディスさん。


 ワトソンさんと同じくらいの長身。

 女性的な体というより、無駄のない体つきだ。

 私が理想とする体型だ。


 美しいな。


 そのエディスさんの頬は、少し赤い。

 ぼーっとワトソンさんを見ている。


 好きなのかな?


 まあ、ワトソンさんは素敵な女性だから、わかりますけど。


 そして最後が――


「それで、どうなんだ?」


 セドリックさんが、紅茶を一口飲みながら聞いてきた。


「どうも何も、何もないですよ」


 私は、セドリックさんの問いかけに答える。


 セドリックさんが聞きたいのは、昨日の出来事のことだろう。


 もう、せっかく新作スイーツを食べようと思ったのに。

 仕事の話はしたくない。


 最近、なぜかこのメンバーで集まることが増えている。


 断れない大きな理由は、セドリックさんのおごりだということ。


 この集まりは、いつの間にか、ある方向へと変わっていった。


 情報交換会へと。


 最初は、私とワトソンさんの新作スイーツの集まりだった。


 魔法省の近くにある、このカフェ。

 週ごとに新作が出る。


 私とワトソンさんは、いつもこのカフェの新作を楽しみにしている。

 仕事をしているときの、唯一の安らぎの時間だ。


 そんな私たちの場所に、仲間が増えた。


 次に現れたのは、エディスさんだった。


 当然のようにワトソンさんの隣に座り、コーヒーを飲んでいる。


 エディスさんとワトソンさんは昔からの知り合いらしく、エディスさんはワトソンさんを慕っている。


「知らないのですか? 藍色髪の天使ですよ」


 いつも淡々としているエディスさんは、ワトソンさんを見かけたとき、大興奮していた。


 ワトソンさんは「その言い方はやめて」と、エディスさんを注意していたけれど。


 藍色髪の天使?


 藍色の髪は、ワトソンさんの特徴だからわかる。

 けれど、天使という感じはしない。


 天使というより、シャーロットさんの保護者というイメージだ。


 優しい。

 でも、たまに見せる少し悲しげな表情を見たとき、私は心を奪われた。


 今でも、たまにドキドキする。


 いつの間にか、三人で食べることが増えた。


 何人で食べても、美味しさは変わらないので問題はない。


 エディスさんは、よくレジナルド准教授の愚痴を言う。


 その愚痴を、ワトソンさんはしみじみと聞いている。


 何か、二人にしかわからないものがあるようだ。


 シャーロットさんとレジナルド准教授の行動を見ていると、大変そうだなとは感じている。


 今週の新作スイーツ、黄金レモンのプディング。


 北西で栽培された、地域名産の黄金レモン。

 それを使ったプディングだ。


 黄色いプディングにスプーンを入れると、レモンカードが中から溶け出す。


 レモンカードには、レモンの爽やかな酸味と、カスタードのようなまろやかな甘さがある。


 甘みと酸味のバランスがたまらない。


 はあー。


 幸せだ。


 すべてが忘れられる。


 そんな私の幸せな時間。


「楽しそうだな」


 そう言って席に座ってきたのが、セドリックさんだ。


 外務調査局員だ。


 同じ魔法省の所属ではあるが、他の部署とはほとんど連携がない。


 特に外務調査局員とは、関わりがないと言ってもいいくらいだ。


 なのに、平然と私の隣に座っている。


 私は、まだこの人を警戒している。


 外務調査局には、いい思い出がない。


 本人にその気はなくても、上の意向ですぐに見ている方向を変える。


 今は味方でも、明日には敵になっている。


 そういう組織だ。


 ただ、セドリックさんと私のスイーツの好みは似ている。


 甘いもの好きに悪人はいない。


 そう思いたい。


「おお、これは美味しそうだな」


 セドリックさんは、私が食べているプディングを見て目を輝かせている。


 私はスプーンにプディングを乗せ、見せつける。


「俺ももらおう」


 近くにいた店員さんに、セドリックさんは注文していた。


「そうか。でも、何かあるだろう?」


 セドリックさんは、もう一度聞いてくる。


 私は、昨日のことを思い出す。


 連絡が入ったのは、昼食を終えて自分の机に戻ったときだ。


 調整室から、市民からの通報があると連絡が入った。


 大きな事件も抱えておらず、報告書もだいぶ片付いていたので、私はその内容を確認した。


「これって、何?」


 補佐官の仕事の一つが、地域の巡回だ。


 それぞれの担当地域を巡回し、報告をする。


 とはいえ、週に一度できればよいくらいだ。


 基本は、その地域の巡査官が見守っている。


 その者たちから話を聞き、状況を確認していく。


 中には、市民からの通報もある。


 いろいろと迷惑をかける市民もいる。


 夜な夜な徘徊する学生や、怪しい研究を行う准教授だったり。


「天使が降臨した」


 そう記載されていた。


 本当なら素晴らしいことだが、これだけ魔法社会が発展していると、何らかの魔法現象だと思われる。


 特に被害もない。


 現場にも行ったが、何もなかった。


 捜査情報を漏らしたくはないが、このロンドンで怪しいことを企む可能性が高い者たちが、目の前にいる。


 関係者に聞き取りをする。


「天使が現れたようです」


 私の言葉を聞いて、三人がそろって訝しげな顔をする。


 ちょっと待ってください。


 また、あなたたちが犯人ですか?


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