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異世界スピノ ~恐竜に生まれ変わった私はスローライフを希望する~  作者: SIS
ウォールランド王国騒乱

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第32話 和気藹々と竜を囲む


「グラララララ……!」


 申し訳ありませんでしたーーーーーっ!!!


 事情聴取の場と化した礼拝堂で情報共有が行われた結果。


 サルッカスから事情を聴いた私は、その場で前足をそろえて床につき、這いつくばるようにして頭を下げた。


 DOGEZAである。


 無防備な後頭部および、うなじを突き出すこの姿勢は、生殺与奪の権を相手に譲渡する、最大限の謝意の現れである。


 日本文化を知らぬサルッカスにもその誠意は伝わったようで、彼は困ったように頬をかいた。


『ああ、うん。めっちゃ謝ってるのは伝わるっすよ、ハイ……』


 事の真相はこうである。


 サルッカスは私と争い敗れた上で介護された後、思う所があって私の所在を探していた。匂いを追っていくうちにこの神殿を見つけ出したのだという。


 一方、オルタレーネは私の事が気になり、一人空を飛んで神殿を訪れたものの、私は留守。寝床の様子から居を移したわけではないと判断し私の帰りを待っていた所、ちょうどやってきたサルッカスと遭遇。


 最初こそ見慣れない巨体に驚きの声を上げたものの、会話が通じた事で神獣と理解。お互いに尋ね人について情報交換し、その探し相手がまさに私だと判明した所で、勘違いした私が血相を変えて割って入ってきた、という事らしい。


 完全に私、ただの暴行犯である。


 あとオルタレーネ、湖を渡るほどの飛行能力をもっていたらしい。いくらなんでもビックリである。人間がもし鳥のように羽ばたいて飛ぼうと思ったら、5m近い翼と非常識なレベルの胸筋が必要だと聞いた事があるし、道理的にそうなるはずである。もしかしてこの世界の生物は、大小の違いがあっても超常的な力を秘めているのだろうか。


 いやまあ、そういう事を考えるのはあとだ。


 今はとにかく、謝罪の気持ちがサルッカスに通じるよう、頭を下げるばかりである。


『まあ、顔を上げてくださいな、スピノの旦那。今回はこっちに非があるんで。勝手に他人の縄張りに入ったんだからぶっ飛ばされても仕方ないっすわ』


「グルルル……」


 いや、本当に申し訳ない。


 お気持ちに甘んじて顔を上げるも、居心地が悪く部屋の隅で縮こまる私。そんな私を見て、オルタレーネとサルッカスは微妙な顔をしていた。


『スピノ様、他人を傷つけるのを凄く重い罪のようにとらえていらっしゃるようですので……』


『みたいっすね……。いやあ、しかし凄い剣幕でしたよ。向こうでやりやった時、殺意も何もなかったのが改めて分かったっす。え、何、オルタレーネ嬢ちゃん、スピノの旦那の良い人か何かなの?』


「グルッ!?」


『あー……。そういうのでは、無いです。スピノ様はただ、身内認定した相手にすっごい過保護みたいなので……』


『あー、そういう……』


 何がそういう、だ。突然何を言い出すのかこのワニ野郎。


 え、それともこの世界だとこの体格差でもカップル成立するの? よく考えてみたら種族云々は、ウサギとキツネとイヌとフクロウとヒツジとネコがごちゃ混ぜに生活してる霊長の街を見る限り、基本的に関係ない感じなのか?


 いやでもオルタレーネは頭身が違うし明らかに浮いてるしな……。


 あ、いや、別にオルタレーネとそういう関係になりたい気持ちは……微塵もないと言うとこれはこれで嘘になる! オルタレーネ、普通に凛々しい系の美人だし可愛いし。いやでもそんな子の服剥いで裸確認したんだよな……思い出すな私!!


『スピノ様、なんか百面相してる……』


『言葉通じないけどなんか面白い人っすね、スピノの旦那……』


 なんだか生暖かい視線を感じて我に返る。


 わざとらしく咳を鳴らし、私は改めてサルッカスに向き直った。


『おっ。ここから本題って感じっすね』


「グァゴゴゴ」


『……相変わらずさっぱり何言ってるかわからんすね。ただこっちの言葉は間違いなく通じてる、よな』


『ですね。でも羨ましいです』


『一方通行だけどな』


 何やらサルッカスとオルタレーネが親し気に会話しているように見える。なんかずるいというか不公平である。あの二人の間には十全に会話が通じて、なんで私だけ駄目なのだ。


 ずるぅい(ジェラッ)。


『あー、うん。本題、本題。まず俺っちがスピノの旦那を探してた理由なんですけど、旦那が神獣なのか、他の何かなのか確認したいからだったんすよ』


『……その事なんですけど。スピノ様と何があったんです?』


『いやあ。スピノの旦那が俺っちの縄張りに入ってきましてね。で、旦那の言葉が一切分からなかったんで、あ、コイツ魔獣だな、変だけど、って判断して争いになったんすよ』


『まあ』


「……グルルゥ」


 改めて私の方に非がある事実を指摘されて少し気まずい。こちらをチラチラ見るオルタレーネの視線にも、非難の色合いが……あるような、無いような。もし彼女にまで見切りをつけられたらショックで100年ぐらい寝込んでしまいそうだ。


『実際のとこ、マジで何も知らずに迷い込んできたみたいなんでそれはいいんですが。で、その結果俺っちが負けちゃいましてね。このまま川の底に沈められるのかと思いきや、スピノの旦那、俺にトドメを刺すどころか救助してくれましてね。介抱した上でこれ以上何も荒らさず縄張りを後にして帰っていったんですわ。それで、ああこれ、間違いなく魔獣じゃねーわと認識を改めまして……じゃあ何なのか、という訳です。言葉が通じないのは事実なんで』


『スピノ様らしいお話です。スピノ様はお優しいのですが、極力俗世の事に干渉なさらないように振舞っておられますので。しかしその一方で飛竜の暴虐を前に看過せず、誰に頼まれた訳でもなく、何の得にもならないのに命を懸けて立ち向かってくださったのです』


『あー、そんな認識なんすか。へー』


 なんかサルッカスの奴がじろじろこっちを見てきている。何を言ったのオルタレーネ。


 しかし、サルッカスが聞く耳持たず、いや言葉は通じてないんだけど、とにかく問答無用で襲ってきた理由は大体予想通りだったらしい。


 魔獣ってのはこの世界において、あっちこっちで迷惑をかけまくっている存在のようだ。


 所謂パブリックエネミーという奴か。そんなのと混同されたのは正直たまったもんではないが。


『でもそういう事でしたら、確認するのは簡単な話ですよ、サルッカス様』


『え、なんか証明する手段あんの?』


『はい。その、腰にくくりつけてるの、世界樹の実ですよね?』


『これの事?』


 何やらオルタレーネに指摘されて、サルッカスが何かごそごそと取り出す。割といい生地の布につつまれて腰に括り付けられていたそれは、色こそ違うが見覚えのある果実。私が主食にしている、湖の畔に生えているやつだ。


 ただ私が食べている奴はオレンジ色なのに対し、サルッカスが持っているのは淡いブルー。ラムネとかソーダ味とか、そんな感じだ。


 え、コイツこれが食べられるの?


『どれだけ探索にかかるか分からなかったんで、お弁当に持ってきたけど……世界樹の実っすよ? 俺達神獣にはご馳走だけど、他の生物には……』


『ええ、問題ありません。スピノ様はそれを食べられますので』


『え、マジで?』


 吃驚したようにこっちを見るサルッカス。だが吃驚したのはこっちもだよ。


 神獣しか食べられない作物? しかも世界樹の実とか、つまりあの木って世界樹? 意味もなくそんな大仰な名前を付けるはずもないので、あの木って実は結構な代物だったりする?


 私そんな事も全然知らずに根本でくつろいで木の実食べ放題してたんだけど、何らかの罪になったりしないよね??


 それはそうと、おずおず差し出された果実を受け取る。


 流れ的にこれを食べれば私の身の上は証明できるらしい。そんな事で、とか、なんか変な脱力感を覚える。もしかして直前のザリガニ戦でお弁当を消し炭にしていなかったら、サルッカスとも戦闘にならずに身分証明できてたりしたのだろうか。おのれザリガニめ、死して私の脚をひっぱりやがるのか。


 それはそれとして、美味しそうな実である。


 私が普段食べてるオレンジ色のは、なんていうか皮ごと食べられるマンゴーといった感じだった。これは皮は青いのもあって、一見すると食欲を減衰させるかもしれないが……先ほど言ったように、前世の感覚を持つ私にはソーダ味とかラムネ味にみえて、なかなか食欲をそそる。表面に軽く爪を立ててみると、皮は分厚い……というか、硬い? それでいて押すと弾力のある手ごたえが返ってくる。見た目だけでなく、触った感じも超巨大な糖皮つきのソーダグミ、といった感じだ。あれめっちゃ好きなんだよね。


 見た目を楽しんだ後で、ガブリ、と牙を立てる。


「グワ……」


 これは。


 皮はカリカリ、仄かに甘味がある硬い殻のようで、噛みしめると心地よい触感が楽しめる。果肉は思っていたより柔らかくぷにぷにとした寒天のような触感。あふれ出すような果汁感はないが汁気がないわけではない、不思議な触感だ。果汁ゼリーのちょっと硬い奴? そんな感じ。


 皮と身の触感の違いで齧ってて楽しく美味しい。こういうのもアリだな、と夢中になってしまい、あっという間に種だけが残った。


 美味しかった。あえていうならいつも食べてるオレンジ色のもそうだが、種が大きくて見た目のサイズより可食部が少ないのが残念である。


「グェーップ」


『……めっちゃ美味そうに食べてたなあ』


『ご納得いただけましたか? ちなみにスピノ様は普段、街の近くの世界樹を主な食料にしていらっしゃるようです。時折、湖の魚や怪物を捕まえて食べてるようですが』


『え、ここの化け物どもまで食ってるの? 物好きだなあ……』


 なんか名誉棄損されてる気がする。


 そりゃあこの果物は美味しいけど、毎日食べてたら飽きない? たまには肉とか別のものが食べたくなるものではないだろうか。


 とサルッカスから見てもザリガニの連中は化け物か。そりゃそうだよな……。


 残った種を名残惜しく口から吐きだし、床に置く。味や触感が違っても種の形状はいつも食べてるやつと同じだ。オシロイバナのそれを思わせる真っ黒でゴツゴツした表面の、アーモンド状の種。あとでどこか適当な湖の畔に埋めにいこう……そう思っていると、サルッカスが訝し気な声を上げた。


『ん? なんすか旦那、種は嫌いなんです?』


 え。お前、種まで食べる派?


 いや、そりゃあまあ前世でも梅干しは種まで食べる派の人がいたけどさ、俺はそこまでするのはちょっと。そんな美味しいものでもないし。


「グルル……」


『じゃあ、いらないならもらうっすね』


 ひょい、と床から種をかっさらうと、サルッカスは尻尾を丸めるようにして器用にその場で胡坐をかくと、自由になった前足で種をしっかりとつかんだ。そのまま左右の手を互い違いに捻るようにして力を籠める。


 すると、硬そうに見えた世界樹の種が真ん中からパキッと割れた。


 その中には、白いつぶつぶとした胚がいっぱいに詰まっている。


『俺、これ好きなんですよねー』


 そして掬うようにして中身をかきだして口に運ぶサルッカス。ウマウマ、と舌鼓を打っている彼の視線がしばらくして、茫然と顎を落として硬直している私に気が付いた。


 目が数度瞬く。


『……えと。もしかして……知らなかった?』


「(コクコクコク)」


『そ、そっすか……。俺はあまり甘いの好きじゃないんで、こっちの種の中身の方が好きなんですよね……あの、スピノの旦那? どちらに?』


 訝しむサルッカスの視線を背に神殿の上から湖を見渡す。


 急いで駆けつける時に捨ててきた木の実、多分まだその辺に浮いているはずだ。あの木の実は不味すぎて他の生き物も食べないらしいし、ザリガニが湖に引きずり込んだりしてはいないはず!


 どこだ、木の実ー!



◆



 結局一人では見つからず、サルッカスに手伝ってもらう事で再発見した。


 オレンジ色の種は中華風のピリカラ。甘いのが苦手なサルッカスはいたくお気に召したようであり、互いの領土の木の実を今度山盛りで交換しよう、という話になった。


 北の川で戦った相手とこんな話をするようになるとは、人生、否、竜生何が起きるかわからないものである


 あともう一つ良い事もあった。


 種の中身なら、オルタレーネも口にできるらしい。相変わらず味はしないが、変なエグ味とかは感じないとか。私達と同じ物を口にした彼女は、なんだか妙に嬉しそうだった。

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