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立志生の目指す未来 【休載中】  作者: 海斗
第二章  ここから始まる……。 東京襲撃編(前編)
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第七話  移動


「さてと…。皆、こちらに注目してくれ!」



 雄斗は事を早く進めるべく、謝ってばかりの神也から離れて呼びかけで視線を集める。



「今回、十二族の私がここに来た理由はただ一つ。君達を優秀な戦人へと育てる、その第一歩を歩ませるためだ。戦人の需要は今や戦争以外にも必要とされる。特に!陸上自衛隊は翌年に解体となる。今は防衛省が二つある状態。これから統合されて一つとなる。その際に、戦人の需要はこれまで以上に高まる。そのためにも戦人は増やさねばならない。特別扱いされる一方で、それ相応の努力は積んでもらう。これは覚悟の一歩でもある。そのことを胸に刻んでこの一週間励め。俺が伝えたいことは以上だ。早速だが、もう始めるとしよう。最初のスタート位置は皆同じなので問題はない。そして、これから一週間君達がお世話になる人物を紹介する」



 そう言って今の位置より少し下がり、荒哉から見て右手のほうに雄斗は頭を下げる。そしてその右手にある自動ドアから研究用白衣を着た一人の男がゆっくりとした足取りで堂々とこちらにやってくる。男は白髪交じりで黒の眼帯を付けていて、雄斗ほどではないが大柄の男と言っていい体付きだった。

 最初は荒哉にとって知らない人物のはずだったが、周りが妙に騒ぎ出している。彼は一度目をこすってもう一度容姿を確認する。



「あっ…あの人ってテレビに出てた人か。なんか武器の仕組みとかどうとかで…」

「そうですね。戦人の業界では名の知れた方ですよ。この研究所の所長ですから」

「よく知ってるねぇ」

「はい。勉強してるので!」



 自慢げに話す累和にどこか和やかな雰囲気が二人を包み込む。だがそんな時間は短く、事は時間が経つと同時に待つことなく進んでいく。



「こんにちは。問題児諸君。もしかしたら様々なメデイアで私を見たことがあるかもしれないが一応、自己紹介としよう。私はこの研究所の所長をしている、長田(ながた)伊之琉(いのる)です。今日から一週間、精一杯サポートさせていただきます」



「ご挨拶ありがございます」



 雄斗はそう言って頭を再び下げる。そして、一週間というタイムリミットでできるだけのことをやっておく必要がある今回の目的は、執行を早める要因となった。



「さて、一週間という期間はまだ長く感じるだろうが、先程言ったように今から本格的に始める。最初は武器からだ。そもそも武器の適正が判明しているにもかかわらず武器を持っていない理由がわかるか?」



『え?』

『ステータスの問題とかじゃね?』

『なんだろうな』



 雄斗の質問に場が騒がしくなり、騒音のように声が重なって大きく聞こえる。なぜここまで騒がしくなるのか。


 それは適正武器の検査において詳細がないから。

 すぐに受け取った生徒にはその詳細が話された。それにより、自主的な行動を取ることできる。それらの武器は企業が開発したもので性能の改良を依頼できる利点が多い。ただし、その改良は個人差があるため優劣が生まれやすい。企業によってもその性能の差で優劣が生まれる。使い勝手はいいが、その反面で自分の実力以外で決定的な欠点が生まれやすい。


 その一方で……――。



「お前達が今から与えられる武器は企業が開発しているような代物じゃない。年代物で今まで受け継がれてきたものだ。企業が開発してる武器より明らかに欠点が多い。毎年、それで挫折するヤツは少なからず多からず。だが、欠点の多さはあるし利点は少ないかもしれない。だが、その一つ一つの利点が計り知れないほど大きい。そんな代物をお前達は選んで扱うわけだが……」



 雄斗は途中だが話すのをやめ、所長という立場である長田所長が引き継ぐ。



「生徒さんだけではわかりません。それに一人一人を見てあげたいですがそんな余裕はない。そこで、一校に一人、うちの研究員をつかせます。私ながら部下には自信があります。皆さん。今日から一週間、よろしくお願いします」



 所長の言葉とともに足音がいくつも重なって一瞬、騒がしくなるその瞬間から雄斗と長田所長による話は終わった。

  荒哉と累和の元には女性の研究員が一人。



「いきなりやって来て大変失礼ですが、自己紹介をさせていただきます。私はここの研究員で武器生成棟で勤めています『長沼(ながぬま)優華奈(ゆかな)』と言います。静岡校の担当をさせていただきます」


「「よろしくお願いします」」



 お互いに挨拶を交わしてから地下にあるという武器管理庫に向かうという。特に無駄話もすることなく向かうのだが、累和は相変わらずこの研究所に入ってからというもの少しはよくなったようだが、まだ晴れない様子だった。

 あまり気にしないようにはしていた荒哉だったが、やっぱり累和のことが心配なようで何度も累和の様子を窺っていた。


 そんな状況とは知りもしない研究員の優華奈は足を止めることなく前へ進む。



「さあ。エレベーターに乗りますよ」



 荒哉と累和は優華奈の案内の元、ガラス張りになっているカプセル型のエレベーターに乗る。

 この研究所は地下合わせて六階。地下二階の地上三階。

 そして地下二階が、今回の目的地。地下一階より遙か下にある。その場所はセキュリティーが厳重にして最強。荒哉の武器と累和の武器はそんな厳重警戒が敷かれた場所にあった。


 地下を行くゆえに途中からエレベーター内で明かりがついて中が照らされる。カプセルエレベータに乗ってから数分で、目的の地下二階に到着した。

 自動ドアを通して目の前には明かりの付いた廊下が続いていた。


 荒哉達はエレベーターから降りるなり、そのまま長い廊下を進んでいく。廊下は鉄で固められ足音が静寂だった廊下に鳴り響く。

 三人は淡々とただ歩いているだけだったが、この状況に研究員の優華奈が終止符を打った。



「あの……。あなたって佐々木累和さんよね?」

「え……?」



 累和は自己紹介を済ませていないにも関わらず、優華奈は彼女の名前をさらりと言う。そのことに累和は驚いた顔を見せたが。、それは一瞬だけ。荒哉はかなり長い間だったが。



「知っているんですか?私のこと…」


「はい。あなたは()所長の娘さんですから」


「元所長……」


 その発言に真っ先に驚いたのが荒哉だった。



「哀れんでいるのですか?私の父のことを」

「えぇ。もちろんです。五年前のことはけして忘れません……」



 累和はその話を聞いた瞬間、うつむいた姿勢になって少しよくなっていた表情も逆戻りする。荒哉は先で累和の表情が暗かった理由が理解できた。


 彼女が『トラウマ』を抱えていることを。



「あのときは、累和さんと逃げたおとう――――」

「これ以上!言わないで下さい……」

「あっ。す、すみません。私としたことが」



 しかし、荒哉は理解をした瞬間、同時に疑問が生まれる。この研究所が累和のトラウマを作った原因だというのに。

 そして、研究員の態度が今の会話で変わったことを荒哉は見逃さなかった。



「ところで、あなたの名前は?」

「え?あっ…」



 油断していた荒哉は研究員からの突然の質問にびくりと驚いたような反応を見せたが、すぐに平常に戻る。


「僕の名前は、八千戈荒哉と言います」

「八千戈荒哉くん…。はい。ちゃんと覚えておきます」



 そう言って笑顔で答える。



「それはそうと、そろそろですよ。お二人とも」


「え?」

「あれは……」



 荒哉達の目の前には一つの巨大かつ重厚な両開きの扉が大きく構えていた。

 その扉に荒哉は純粋に驚いてはいたが、累和は険しい表情になって睨んでいた。彼女の中で少なからず負の感情があった。それは険しくなった顔からも伝わるようだった。彼女の中の思いは揺るがない。心に誓って揺るがない…――。



 それは怒りが生み出す『復讐』だった。



 そして、その復讐のための足掛かりがこの中に――――。



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