プロローグ
生暖かい目で見ていただければと思います。
桜が舞い散る季節。
木々を揺らす穏やかな風が吹き、門から続く桜並木は辺りをピンク色に美しく華やかにしていた。
新入生を迎えることになる高校。真新しい服を身につけて緊張気味の様子が窺える四つの一年の教室。突き当たりから順番にあり、一番奥の教室からは入学式早々、聞くはずのない教師らしき張り上げた男性声が響き渡って聞こえる。
「――…い!おい!起きろ!」
「へ?」
「『へ?』、じゃない。ここは学校だぞ。起きろ」
「あっ。す、すみません!」
「今回は見逃すが、次はないからな…」
男子生徒を起こす男教師。一見は穏やかそうな教師だが、寝ていた男子生徒に鋭い眼差しで多少の牽制をする。その男子生徒は寝起きのせいか少し情けない顔をしていた。その光景に周りの生徒はただ笑うしかなかった。
「たっく…。お前ら。こっち見ろ!」
手を軽く三回叩いて寝ていた男子生徒への視線を、男教師が自分に向くようにして、生徒はそれに慌てるように反応。男教師は教師歴が長いのか威厳を感じさせる。
「寝ていた小僧のせいでホームルームの時間を少し使ってしまったが、色々と話を進める」
男教師は先に寝ていた男子生徒を少しいじるような形で話の進行を続ける。そのことにまたしても周りの生徒に笑いが起こる。
「君達はこの国立戦人育成大学付属高等学校の静岡校に今日で入学したわけだが…。ここに入学するからには覚悟をしてもらう。この学校は君達に助け船をある程度はするだろうが、それは教師が介入しなければならないと判断したときのみ。ただ、最初の一ヶ月はスタートのための助け船をしてやろう。ここで出遅れては不平等だからな。フッ」
男教師は陰湿な感じで話を進める。先程、寝ていた男子生徒は器用なことに男教師が話をしている最中で教室を見渡し始めた。この光景を客観的に見ると完璧に男教師の話を聞いていないと思われてしまうのだが…。
案の定。注意される。
「おい!私の話を聞いているのか!」
「え?ええ。そうですけど。大丈夫ですって。僕は器用なので」
と、一言返すと男教師は静かに男子生徒に近寄って机に手を置く。すると、鬼の形相になって反撃の一言を放つ。
「そうか。そんな器用なお前だったら…このあと職員室で教師に説教されたあげく、大量の宿題を出されても問題は、ないよな?」
「え……?」
この学校の問題児への対処。
それは男教師が言ったことの通り。入学当日に教師に説教され大量の宿題が出される。入学生の問題児が通る懲罰の門であり、ある意味で問題児と呼ばれる者が通る登竜門。
(嘘だろ……)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
東京。防衛戦人省。
そのとある一室。数十人の男達がスーツ姿で透明で巨大な机を挟んで対峙するように席に座る。姿勢を崩すことなく動かない。そして、一つだけ空席があった。
その席はほかの席とは雰囲気が違う。男達はその空席を一番目立つ位置に置き、誰かを待っている。
「あの人はまだ現れないのか?」
「知らねぇ」
「たっく。相変わらずの態度だな」
「いいだろぉ?俺のほうが上なんだから」
「ケッ。生意気だな」
「フッ。どうせ嫉妬だろ?」
「なにを!」
「お二人とも。おやめなさい。廊下から足音が聞こえなくなる」
クールな趣の男や若々しさが目立つ青年。その青年の生意気さに腹を立てる恰幅のいい男が中心となって話している。ほかは沈黙を貫いている。
「ケッ。なんでそういうのだけ古臭くしてんだよ」
「お前のような小僧にはわからぬまい!」
「うっせ」
「ああ?!」
「おやめなさい!二人とも!」
いざこざを少し起こしながらもクールな趣の男の注意によって止められる。
ここで話が途切れたことで、全員が沈黙。それと同時に革靴の足音が聞こえてくる。この時代には珍しい徒歩。
一室に微かに聞こえる足音。沈黙をずっと貫いていた者達や、先に話をしていた者の額や頬などに滴り落ちる汗が見える。
(おい。俺、やっぱ帰りてえ)
(やめろ)
(ちぇっ)
小声で青年と恰幅のいい男が話す。その直後――――。
「戦人のサバト様のご入室です…」
ドアから聞こえてきた声。
それと同時に自動ドアが反応して横に開く。
「今日も…集まったようですな…この会合に」
そう言って現れた一人の老人。しかしながら老人とは思えないほど姿勢が整っていて、スーツ姿は若々しさがにじみ出ていた。一般的な服装とあって彼の存在を薄らせるはずだが、注目はすでにその老人にあった。
「さて。今日も始めますよ。…全国の問題児を集めるため――」
読んでいただきありがとうございます。更新する日が土日しかないですが様子を見て対応していきたいです。