カイト
やぁ。ぼ……私の名前はカイト。バンイチ村の宿『春のツバメ亭』の跡取り息子さ!
とは言っても、ぼ……私は宿の跡を継ぐつもりは無い。何故ならば、私は勇者を目指しているからね。
その為に今まで毎日ゴブリンを相手に修行を重ねて来た。既にレベルも5にまで上がっている。
レベル5と言うと、『バンイチの虎』という父さんと母さん、それに防具屋の主人であるボーグさんと村の門番をやっているドロヒゲさんの四人で組んでいたパーティメンバーに次ぐ強さだ。
つまり、ぼく……私は村で五番目に強いって事になるんだ。
となれば、村を出て転職して、伝説に語られる勇者を目指したいと思うのは自然の流れだと思う。
だけど、母さんは村を出て行く事を中々許してはくれないんだ。……父さんはあっさりと許してくれたけどね。
そんなモヤモヤとした気持ちを抱えていたあの日、ぼ……もう僕で良いや。僕はタロウという男に出会った。
衝撃的な出会いだったね。何せ、僕が用を足してる時に可愛い女の子にトイレの扉を開けられたんだから。本当にビックリしたよ。
でも、それがタロウだった。女の子と間違えた僕はトイレから出て抗議したんだけど、タロウは謝りもせずにトイレに入り、その後スッキリして出て来た所でようやくタロウと話す事が出来た。
そして言ってやったよ、「可愛いからって謝りもせずに自己中だと彼氏も出来ないよ」ってね。
その時の衝撃を僕は生涯忘れないと思う。
だってタロウは服を捲って胸を見せながら「俺は男だ!」って言い放ったんだから。
だけど僕は信じなかった。世の中には悲しい事に胸が大きくならない女性も居るって母さんから聞いた事があったからね。だからタロウもそんな女性の一人だと思ったよ。
ちなみにだけど、僕は『ちっぱい派』だ。だからタロウの胸を見た時凄く興奮したんだよ、なんて僕好みの女の子なんだ、ってね。
だけどタロウは、タロウの事を男だと信じない僕に向かって次の行動に出た。あろう事か、ズボンとパンツを膝まで一気に下げたんだよ。あ、ステテコパンツを履いてたよ。僕と一緒だね!
……じゃなくて、僕は目を見張ったよ。本当に付いてたんだよ、シンボルが。すっっっごく小さいから、それでも女の子と見分けが付かなかったけどね。
だからそれに気付いてからしばらく、僕は呆然としてしまった。
しかし本当にビックリだよ。女の子以上に女の子な顔をしてるのに男だなんてさ。
そんなタロウはよほど女の子に間違われたのが嫌だったのか、その後僕の案内で床屋に行って髪の毛を短くしたんだ。
だけど、それがむしろいけなかったと思う。より女の子らしい顔が際立ってしまったんだからね。本人は男らしくなったって喜んでたから言わないけど、タロウが男でも僕は付き合っても良いなんて事まで思ったよ。僕にその趣味は無いから付き合わないけどね。
ともあれ、その後、僕はタロウを武器屋と防具屋に案内した。村を案内して欲しいって言われたからだ。寂れた村だから案内する場所は限られてるけれど、頼まれたら嫌とは言えない。勇者を目指してるけども、僕は紳士だからね。
武器屋のおじさんは普通の村人だけど、防具屋の主人は母さん達と同じパーティだったボーグさんだ。だからこそ、こんな辺鄙な村でもそれなりの防具を揃えてる。タロウは何やらお気に召さなかったみたいだけど。
その二つの店を回り、次は道具屋へと行こうとした時だった。突然タロウが立ち止まったのは。
しかもあろう事か、突然自分の顔を殴った。その突然の行動に僕はド肝を抜かれたよ。
タロウ本人が納得してるから構わないけど、見てるこっちが痛く感じたからやめて欲しい。
それはともかく、そんな愉快な事をするタロウに、僕は訊ねてみた。僕を旅に一緒に連れて行ってくれないかと。
見た所タロウは、見聞を広める為の旅をしてると感じた。だったら、僕の夢でもある勇者になる為の第一歩となる転職をする為、王都のエターニアまで一緒に行って欲しい。
先ずは村人から脱却して【戦士】に転職して、その後に【武闘家】、更に【魔法使い】や【神官】を経て、上級職の【魔法剣士】や【バトルマスター】をマスターし、勇者に至る。
勇者となれば、弱き人を助け、村や街を助け、そして国を助けて世界を救う。魔物に脅かされる事の無い世界にする為に僕は戦いたいんだ。
その夢を叶える為に、僕は連れて行ってくれとタロウに頼んだんだ。
するとタロウは、驚いた顔をしたと思ったら、ズボンのポケットから何かを取り出した。見せてもらったけど、それは震える黒いコインだった。
震える事が不思議だけど、魔法が当たり前なんだからそんなコインもあるよね。
……黒いコインじゃなくて、僕の問いに対する答えは?
そんな事を考えていた時、村中にドロヒゲさんの「魔物だぁあああ!!!!」という叫び声が響き渡った。
僕はタロウに、
「魔物だって!? 行ってみよう、タロウ!」
咄嗟にそう言った。
タロウも僕の言う事に了承した様で、
「ああ! 村の中に魔物が現れるなんて変な話だが、あの叫びは気になる」
僕の提案に同意して、ドロヒゲさんの下へと走り始めた。
そう、タロウが言う様に、魔物は村の中に現れた事なんて一度も無い。この世界の歴史を振り返ってみても、村や街の中に魔物が現れた事は無いらしい。
歴史はさておき、僕とタロウはドロヒゲさんの受け持つ場所に辿り着き、それを見た。見たと言うより、確認したと言った方が適切かな?
ドロヒゲさんが対峙する魔物のスライムは村の外では無く、確かに村の中に存在していた。
今思えば、これが世界を揺るがす異変の始まりだったのかもしれない。
その考えを熟考する余裕は無く、スライムの背後の不思議な穴から次々と魔物が飛び出して来た。かなりの数に上るだろう、その穴から出て来た魔物は。
内訳は、良く見るスライムにビッグマウス、それとこの辺では珍しいバウンドドッグの三種類の魔物だ。
最後に出て来たワニーラと名乗る魔物の親玉はとんでもなく巨大で、不思議な穴を砕きながら出現して来た。正直恐ろしかったよ。こんな事が起きたのもそうだけど、世界がこのまま終わるんじゃないかってね。
僕の恐怖をよそに、そのワニーラが長々とした前口上を述べ始めた。やはり世界を滅ぼす為の第一歩としてこの村を襲ったらしい。
ともあれ、ワニーラの口上が終わった所で村の存亡を賭けた戦闘が始まった。
その頃には戦える村人達も集まり、母さん達『バンイチの虎』も全員が集まり魔物達と戦っていた。当然僕もその戦闘に参加している。
僕が主に戦っていたのはスライムだけど、普段からゴブリンを相手に戦っていたから楽勝だった。
そんな戦闘の最中タロウはと言うと、怪我をした村人に回復薬を渡して助けていたみたい。さすがに女の子みたいな体付きだから戦闘は無理だよね。スライムくらいならば倒せるだろうけど。現に初めのスライムの一匹は倒していた。
そうこうしている内に、魔物との戦闘はワニーラを残すだけとなっていた。主にバンイチの虎の活躍のお陰だ。
だけどさすがにワニーラは魔物の親玉だけはある。母さん達は劣勢に立たされていた。
となれば、僕がワニーラの気を引き、その隙に母さん達に倒してもらうしか無い。
そう考えた時には、既に僕の体は動いていた。タロウから行くなと言われたけれど、動き出したらもう止まれない。隙を作る事が出来れば、後は母さん達が倒してくれるさ。
ワニーラの懐に入る事に成功した僕は両手で銅の剣を握り、体を左へと目一杯に捻って力を込める。狙うはワニーラの右足だ。
体長が5mを超える巨体だけに、足を怪我すれば動きも鈍り隙も生まれるだろう。そう思っての一撃だった。
しかし僕の攻撃は効かなかった。恐らく1ポイントのダメージも与えられなかっただろう。
この時、僕は心底後悔した。隙を作るどころか、このままではただの犬死にだ。
そう思ったところでもう遅い。既にワニーラの巨大な斧は僕に向けて振り下ろされていた。
「うわぁあぁああああッ!!!!」
――ドッガァアアアアアアンッ!!!!!!
死の恐怖から、悲鳴を上げながら僕は目を閉じた。その途端響き渡った何かが激しくぶつかる音。正直、僕は何が起こったのか分からなかった。
だけど、いつまで経っても痛みが訪れない事を不思議に思い恐る恐る目を開けてみると、タロウがワニーラの巨大な斧を何事もないかの様に左腕で受け止めていたのだ。それも盾も無しに、だ。
もしもタロウが圧倒的に強かったとしても、そんな事ってあるだろうか?
しかしそれだけじゃ無かった。
女の子みたいな見た目のタロウが母さんでさえ吹き飛ばされた程のワニーラの攻撃を受けて平然としている事にも驚いたけど、その後の事にも驚いた。目にも止まらぬ速さでワニーラを翻弄し、しかもあっさりと一撃で倒してしまったのだ。
驚き過ぎると何も考えられないとよく聞くけど、それは本当だったね。ちなみにチビったのは内緒だ。
ともあれ、こうしてバンイチ村はタロウに救われた。
その後色々あって僕はタロウの仲間になったんだけど、とんでもなく強いタロウも僕と同じで、転職しようとエターニアを目指していたらしい。
ここまで強いタロウが何に転職するのか聞いてみた所、彼はなんと遊び人を目指しているそうだ。遊び人を極めると賢者になれるっていうお伽噺を信じてるらしい。
まぁ、転職の目的は人それぞれだから構わないけどね。
旅立ちの朝、タロウは井戸に入るという奇行をしていたけど、何故か井戸の中からノエルちゃんという幼い女の子を連れて出て来た。話によると封印されていたって事だけど、あんな幼い女の子が封印されるってあるだろうか。
まぁ、誘拐はしていないとタロウは言っていたからとりあえずは信じるけど、もしも両親が見つかった時は帰してあげようと思う。それが勇者を目指す僕としては当然だよね。
長くなってしまったけど、これが僕とタロウの出会いであり、後に勇者として世界を救う事になる(はずの)僕の旅立ちの話だ。
まぁ、この後も色々な出来事があるけども、それはまた次の機会にでも語るとしよう。とても一晩では語れないからね。
という事で、その時を楽しみに待っていてくれ!
お読み下さりありがとうございます。




