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初めては血の味でした

誰得シーンと言われようが、好きな人は居ると思います!

 

「つまり、お前のステータスは村人の子供レベルなんだよ!」


 俺の力のこもってないデコピンで大ダメージを負ったらしいサタンは、四度目のデコピンを防ごうとおでこを両手で守ったまま固まっていた。デコピンがよほど痛かったのだろう、その目からは大きな雫が溢れそうになっている。


「聞いてるのか? ……でも、お前が復活したって言ってもそんな力じゃ人間を滅ぼす事も、ましてや世界を魔界にする事も出来ないだろうな。放っといても問題無さそうだが、殺しておいた方が後腐れがなくていいか……」


 力が奪われているなら、取り戻す前に始末した方が世の為人の為だろう。こんな可愛らしい幼女を殺す事に心が痛むが。


「……覚悟は出来たか? 今度生まれる時は良い奴に生まれて来いよ?」


 せめて苦しまない様に、一瞬であの世に送ってやろう。あの世=魔界の可能性も捨て切れないが、まぁいい。


 拳を握り、右腕を後ろに引いて力を込める。後はサタンの頭を吹き飛ばすだけだ。


 ……ッ……!?


 だが、中々そこから先に進まない。まるで、自分の体じゃない様に感じた。


「……我を……殺す……のか?」


 拳を握ったまま行動に移せない俺に、サタンは涙を零しながら何かを悟った様に呟く。魔王と言えど、俺にはその涙がとても美しい物に見えてしまった。


「……ああ。それがこの世界の為、そしてこの世界に住む人間の為になるなら、な」


 そうは思えど、体が言う事を聞かない。コイツはここで始末した方が良い筈なのに……。


「そうか……。我の夢はここに潰えたか。女神に虐げられし我が同胞達よ……願わくば、汝らに再びの光溢れる世界が訪れん事を……!」


 ……ッ!!!?


 辞世の句では無いが、今際の際を悟った幼女の口から呟かれた言葉に、俺は衝撃を受けた。


 女神に虐げられた。


 つまり、サタンを含め魔界とやらに住まう者達は、女神様に罪も無いのに堕とされた者達だという事か? サタンの雰囲気からして、罪も無いのに魔界へと追いやられた……。


「女神の使徒たるその方に頼むのは筋違いとは思うが、我が同胞を見逃してはくれまいか? 代わりに、このサタンの命はくれてやる。……頼む……!」


 サタンが人間を滅ぼすというのは見過ごせないが、もしかしたら人間を滅ぼすという事にも訳があるのかもしれない。現に、今のサタンの死を覚悟した表情は、魔王とは程遠い天使の様な表情をしている。

 こんな優しい笑顔を浮かべる者が邪悪な存在だとは俺にはとても思えなかった。


 俺は構えを解いていた。


「……やめた」

「……え?」

「やめたと言っている。俺はお前を殺さない」


 決して、俺が幼女が趣味な訳では無い。だが、純粋とも言える柔らかな笑顔を浮かべるサタンを、俺は殺す事が出来なかった。

 むしろ、人間や世界、それに女神様を敵に回してもサタンに味方しようとまで思ってしまった。


「我を……見逃してくれるのか?」

「そうだ」

「我はこの世界を滅ぼす大魔王であるぞ?」

「そうだな」

「この世界を魔界に変えようとしているのだぞ!?」

「ああ。だが、それがどうした?」

「……その方は変わった人間なのだな。だけど、今の我にはその方には勝てん。いや、恐らくそこらの人間にすら勝てないだろう。……タロウ、と言ったな、その方の名は」

「……そうだ」

「…………」


 それっきり、サタンは黙って俯いてしまった。何を考えているかは分からんが、その姿は泣いてる様に俺には見える。

 コイツはもしかしたら、初めて人の優しさというものに触れたのかもしれないな。魔界に君臨するという事は、他を寄せつけぬ孤独だろうし、どれだけ生きてるのかは知らんが、ずっと気が張りつめていたんだろう。


 そう考えると、寂しかったのかもな、コイツは。


「タロウよ」


 しばらくサタンからは鼻を啜る音がしていたが、それが聞こえなくなると、サタンは唐突に俺に話し掛けてきた。


「……なんだ?」

「我と契約をしてくれぬか?」


 そして、俺に契約とやらを持ち掛けてきた。


 だが、俺は知っている。魔王と言えば悪魔の王の事だ。その悪魔と契約するという事は、俺の魂は悪魔の供物になってしまうという事だ。となれば、俺の答えは既に出ている。


「お前が望むならしてやろう……」


 ……護ってやりたいから、とは心の中で呟いた。


「本当か!? タロウは優しいんだな……。ともあれ、我と契約してくれるという気持ちが覆らぬ内に済ましてしまおう。……我が何をしても決して逃げないでくれよ?」

「ああ、逃げる訳ない。むしろ、お前が逃げんじゃねぇぞ?」

「――ッ!!!? 我は逃げん!!!! ……は、始めるか……」


 何故か顔を赤らめているサタンだが、裸の三歳児が頬を染めても誰得だろうか? その手の趣味の奴が居る事は知っているが、俺は断じて違う。ボンッキュッボンのお姉さんが趣味である。


「……ん」


 どうやら契約の為の何かが始まった様だ。サタンは自らの唇を鋭い牙……犬歯で軽く噛んで傷を付けると、そこから流れた血を舌でペロリと舐め、その後自らの指で口紅を引く様になぞった。


「それで、俺はどうすれば良いんだ?」


 俺も同じ様にすれば良いのだろうか?


「うむ、届かぬから座ってくれないか? そ、それと……目を閉じて欲しい……」

「……分かった」


 サタンに言われた通り俺は正座をし、そっと瞳を閉じた。契約という事で俺は正座をしたが、前世からの癖なので仕方がない。大事な時はいつも正座をするのが礼儀だと俺は思っているのだ。


 その状態で待つ事しばし……不意に脳内アナウンスが流れた。


 ――ゼロポイントのダメージを受けました。


 それと同時、唇に柔らかな感触を感じると共に、軽い()()を覚えた。次いで訪れる血の味に、唇が切れた事に思い至る。


 血の味……? 俺が傷付くなんて久しぶりだな……って、えッ!?!?


 ――魂の繋がりを得ました。リンクスキル『魔王支配(サタナエル)』を獲得しました。以降、ノエル=メイズ=サタンは眷属となります。


 ふぁッ!!!?


 続いて流れる脳内アナウンスの言葉に、俺は意味が分からずに瞳を開いた。その途端に目に飛び込むサタンのドアップの顔。瞳は閉じられているが、唇と唇が触れている。


 ま、まさか……俺の初めてがこんな幼女に奪われるなんて!


「『魂の契約(マリー・オブ・ソウル)』……契約は完了したぞ? これで我とタロウは一心同体……いや、我の身も心もタロウの物だ」


 初キスが幼女に奪われ泣きそうな俺に、頬を赤く染めモジモジしながら上目遣いでそう言うサタン。俺……穢れてしまったのね……。


 ――魔王との契約により、称号『魔を従える者』を得ました。以降、魔に属する存在からの経験値は得られません。

 ――ユニークスキル【根性】の効果により、魔王の血を吸収しました。魔王の血を吸収した結果、種族が変化しました。以降、回復薬は毒となり、毒は回復薬となります。


 な、何だってッ!?!?


「す、『ステータスオープン!』……はぁ〜ッ!?!?!?」


 脳内アナウンスの言葉に驚いた俺は、自らのステータスを確認した。


 ♦♦♦


 名前:タロウ

 種族:人間→魔人new

 LV:Ω

 職業:村人


 HP:Ω

 MP:Ω


 力:Ω(+3)

 体力:Ω(+3)

 知力:Ω

 魔力:Ω

 素早さ:Ω

 運:Ω

 経験値:Ω

 スキル:【解析Lv.2】【バリア】new


 ユニークスキル:【根性】【閃き】


 称号:【超越者】【魔を従える者】new


 リンクスキル:【魔王支配(サタナエル)】new


魔王支配(サタナエル)眷属】

 ・ノエル=メイズ=サタン


 ♦♦♦


 何だろうか、これは。種族欄を見ると、確かに人間から魔人に変わっている。魔の人と書いて『魔人』だ。

 それに、立て続けに聞こえた脳内アナウンスに混乱していたが、魔人になった事で薬草などの回復薬が俺にとっての毒になるとは想定外だ。インベントリ内にある大量の回復薬は宝の持ち腐れである。……カイトに使ってもらえば良いか。


 あ、サタンって……『ノエル』って名前なんだな。


 サタンとの契約による変化に、俺はそんな事を思いながら遠くを見つめて固まっていた。

お読み下さりありがとうございます!

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