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タロウ、井戸に入る

髪の長い女の人は出て来ませんよ?

 

「あ、遊び人に転職するだってーッ!!!?」


 転職をする為にエターニアを目指す旅立ちの朝、『春のツバメ亭』を出る時に俺はカイトへと旅の目的を語った。やはりと言うか、案の定な驚きっぷりである。


「何だ、カイトは知らないのか? 遊び人を極めると賢者になれるんだぞ?」

「……た、タロウって……お伽噺を信じてたんだ……。と言うか、そんなに強いのに何で賢者を目指すのさ!? ……とりあえずは遊び人らしいけど」


 俺の強さを知ってしまった以上、カイトもやはりそこが気になるか。


 ならば、語らねばなるまい! 俺の目的を!!!!


「いいか、カイト? 俺は魔法で無双したいんだよ。しかも! 俺の意思で! 自由な威力に調節した魔法をな!!!!」


 そうなのだ。『ステータスオープン』の魔法が使える事でも分かる通り、今の俺にも魔法は使える。いわゆる、生活魔法と呼ばれるものに分類される魔法だ。

 誰でも使えるその魔法を唱えれば、例えば気軽に水を出して飲んでみたり、炎を出して焚き火の種火にしたり、風を出して洗濯物を乾かすなんて事も出来るのだ。


 しかし、俺にはそれが出来ない。いや、出来ないんじゃない……意味不明なステータスのお陰で威力調節が出来ずにとんでもない事になってしまうのだ。


 焚き火をするのに炎を出せば、山が何個も入るくらいの面積が焦土になり……飲水を得ようと水を出せば、濁流が発生して大地が形を変える程抉れたり……服を乾かそうと風を出せば、巨木が生え揃う太古の森林を根こそぎ吹き飛ばす風速100m/sを超す突風になってしまったりしたのだ。

 その結果、ロゼ村の西に広がる広大な森林地帯の中央付近は……いや、言うのはやめておこう。誰も近付かない事を祈るばかりである。


「そ、そうなんだ。でも、賢者の魔法って憧れるよね! 伝説によると、ある賢者は魔法で星を堕としたなんて話もあるくらいだもんね」


 カラカラカラカラ〜……ガチャンッ!!

「分かってくれた様だな……よっと! つまり、俺はそういう賢者になる為に……ほっ! 遊び人を目指している訳なのだよ、カイト君。……う〜ん、大丈夫かな」

「それで、なんだけど……遊び人を目指してるのは分かったけど、タロウはいったい何をしてるのかな? 僕の目には井戸の中に下りようとしてるみたいに見えるけど……」


 マム達とカイトの感動(?)の別れを済ませた俺達は、バンイチ村の東に在る『カンドセの街』に向かう前に、バンイチ村の中央付近にある井戸へと来ている。ちなみに魔法云々の話は、ここに来るまでにした会話である。

 それはそれとして……目の前にある井戸の事だが、名目上は村人の喉を潤す為の井戸となっている。

 だが、村人の誰もがこの井戸を使っている姿を俺は見ていない。だいたい、水は生活魔法で賄えるのだから井戸なんて物は必要ないだろう。

 他に水が必要とするものに農業があるが、畑や田んぼは近くを流れる川から用水路を引いている為、やはり井戸水は使っていない。


 だとしたら、この井戸は何の為にあるのだ?


 そこで俺はピーンと来た。この井戸には何かが隠されているに違いないと。

 某国民的RPGだって、井戸の中にお宝が隠されていただろう? つまりはそういう事なのだよ。


 そして俺が何をやっていたのかと言うと、井戸水を引き上げる為のロープと滑車、そして井戸水を汲む為のロープが繋がれた水桶が俺の体重を支えられるかを確かめていたのだ。結果は良好、かなり頑丈な事が分かった。

 後は、水桶を滑車まで引き上げて引っ掛け、滑車で固定された水桶に繋がるロープを伝って井戸の底まで下りるだけである。実に楽しみだ。


「入るのは構わないけど、その前に小石か何かを落として水があるかとかの確認はしないの?」

「しない!」

「あ、あっそう……。でも、気を付けてよ? こんな所でいきなり水死なんてシャレにならないからね!?」

「それじゃ、ちょっと行ってくる!」


 滑車から伸びるロープに掴まり、井戸の底を目指して一気に滑り下りる。気分はちょっとした探検隊である。

 井戸の深さは20m程はあるだろうか。ゲームでは一瞬で下りられる井戸も、実際にはそこそこの時間が掛かるものである。地上に戻るのも、普通の奴ならばそれなりに体力を使うし、時間も下りる以上に掛かるだろう。俺ならばステータスのお陰で楽々とこなせるが。


 そう考えつつも、俺は井戸の底を目指して下りて行く。かなりの深さまで下りたからこそ分かるが、井戸の中はとっても暗い。本来ならランプなどの光源を必要とする所だ。

 だが、これも訳の分からないステータスのお陰だとは思うが、夜目が利く俺には井戸の中がハッキリと見えている。その様子はと言うと、途中まで石を固めて造られた石垣の様な壁面だった物が、下の方まで下りると剥き出しの土となっており、井戸という事で空気もかなりの湿り気を帯びていた。


「よっと……到〜着〜ッ! 思った通り、横穴があるな……」


 下りてる途中で仄かな風の流れを感じていたので、その可能性に気付いていた。どこかで地上に繋がってるかもしれないな、この井戸は。


 その井戸の底はと言うと、中心部分だけが深い水溜まりとなっていて、そこから横穴の方へとチョロチョロと水が流れている。一応ではあるが、どうやらその水溜まりが水が湧き出ている場所の様だ。湧水点って言うんだっけ?


「とにかく行ってみるか。お宝があれば儲けもんだな♪」


 水が流れている横穴へと進み始める。井戸の底もそうだが、横穴もかなりの広さがあり、普通に歩いて行けた。当然、水が流れている所以外を俺は歩いているのだが、地面は少し泥濘(ぬかる)む程度で、歩くにはほとんど支障は無い。歩く際に多少撥ねる泥汚れさえ気にしなければ、意外と快適である。


 そんな横穴をしばらく奥に進んでいると、高さと奥行がそれぞれ4m程の四角い空間に辿り着いた。四方の壁と天井が石造りとなっている不思議な空間だ。

 ちなみに水の流れは、石造りの壁の下を通って向こうに流れている様だ。どこかから吹いてくる風は、どうやら井戸の中と地上との寒暖差で空気が流れていただけらしい。


 そんな事は今はどうでもいいか。


 誰がこの空間を造ったのかは気になる所だが、それよりも目を引く物が中央に在る。石が積み上げられて造られた祠だ。

 その祠の形状もこの空間と同じ真四角で、高さと奥行きは2m程だ。そして祠と言うからには入口がある。中には何が祀られているのか、それともお宝が鎮座しているのか……どちらにせよこの発見に、胸も高鳴るというものだ。


 ――ブルブルブルブル……

「……ん?」


 期待に胸を膨らませて祠へと近付いてると、不意にズボンのポケットに振動を感じた。そう言えば、黒いコインをしまってたんだっけ。

 ポケットから黒いコインを取り出してみると、やはり震えていた。


「まさか……ホールとかいうのがまた現れるんじゃないだろうな!?」


 その事に思い至るが、脳内アナウンスは警告を発していない。ならば、何故黒いコインは震えているのだろうか?

 怪訝に思いながらも黒いコインを握り締め、祠の入口へと向かう。


「……震えが強くなった?」


 黒いコインの震えが強くなるが、何も起こらないのでそのまま祠の入口を抜け、中を確認する。祠の広さは、大人が二人も入ればいっぱいになるくらいだな。

 広さはともかく、その祠の中には四角い石の台だけがあり、それ以外には何も無い。宝箱を期待していただけに、ガッカリである。


「あ!」


 不思議な空間の不思議な祠の中に、まさか石の台だけで何も無い筈が無いと考えて石の台を良く見てみると、台の上に小さな窪みを発見した。そしてその窪みの周りには、何やら不思議な文字の様な紋様も刻まれている。

 だが残念な事に、頭の悪い俺にその文字の様なものが読める筈もない。自慢じゃないが、前世での国語の成績はアヒル(10段階評価で2)である。


「震えが更に強くなったぞ? ……ん? 小さな窪み……そういう事か!」


 謎の紋様が刻まれた台座に黒いコインを近付けると、不思議な事に震えが一層強くなった。もしかしたら、黒いコインを台座の窪みに嵌めろという事かもしれん。試してみる価値はあるだろう。どうせ拾いもんだし。


「うおッ!? ピッタリ嵌った!」


 軽い気持ちで黒いコインを窪みに嵌めてみたら、驚く程ピッタリと嵌った。まるで、初めから黒いコインの為に造られたかの様にジャストフィットである。

 だが、嵌ったからと言ってどうだと言うのだろうか? 今の所うんともすんとも言う気配が無い。


 俺としては、黒いコインが鍵みたいな役割をはたして宝箱が現れるのを期待したのだが。


 ……などと思っていた矢先、異変は突如として起き始めるのであった。

お読み下さりありがとうございます!

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