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デミット×カワード ぷろとたいぷっ  作者: 駒沢U佑
第一章 環境適応のススメ編
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こぼればなし

これから約一月後、3月4日月曜日にて、週一のペースで連載を再開したいと思います。どうぞ宜しくお願い致します。実はこの知らせと更新を昨日行いたかったのですが、盛大に寝落ちしまして今日に持ち越したU佑でした。


 西の山々に太陽が差し掛かる頃。森の中では木々が太陽の光を遮り、薄暗がりを作り出していた。そんな中に周囲の様子を伺える程の光源を産み出しているのは、紅朗達がベースキャンプとして選択した場所での焚火だった。


 その焚火の横に、どさどさと、肉の塊となった動物が落ちる。



「獲って来たぞ。取り敢えずこんだけあれば充分だろ」



 その声の主は、赤褐色の髪の青年・紅朗。ソーラとテーラに焚火の作成を任せ、一人で夕餉の狩猟に出かけた青年だ。


 狩猟の成果は芳しく、拳二つ分程の体積を持ったハムスターのようなげっ歯類が五匹程、焚火の横に転がっている。揺らめく光源に照らされて、げっ歯類の体毛が濃い紫色である事を教えてくれていた。



「野宿の時はやっぱネズミだよな。基本群れで生活してっから、巣さえ見付けちまえば簡単に獲れっし量も多いし――」


「……」


「ムイコルペじゃない。これ、毒よ」



 数も獲れて機嫌が良いのか、焚火の前にどっかりと座りながら饒舌に語る紅朗の隣で、何かもの言いたげなスイよりも先にソーラは言う。



「――はん?」



 実はこのムイコルペと言う名のげっ歯類。主に毒草を主食としていて、体内に溜まった毒の成分をどういう原理か体毛の栄養分として回している、ちょっと不思議な体内環境を持つ生物である。当然として体毛は毒だし、内臓も毒。肉にも微量ながら毒成分を保有している。そんなに強い毒でも無いので触る分には問題は無いが、一匹食べれば腹痛、嘔吐、下痢に見舞われるという。毒草を好んで食しているのは、恐らくは食の棲み分けで他の生物に負け、仕方なく毒草を食べていた個体だけがその後生き延びて繁殖してきたからだろうと生物学者が記しているのは余談である。


 更なる余談であるが、森に居を置く野生のネズミはさして不衛生では無い。不衛生レベルで言えばそこらの獣と変わらない。では何故不衛生の代名詞とも言われるようになってしまったのかと言えば、人間の生活圏に存在するネズミの多くが下水道などの不衛生な場所で生活し、ペスト等の伝染病の媒体となってしまったからだろう。人類史に残る感染拡大の印象を一部のネズミが実績解除してしまった結果、ほとんどのネズミが不衛生と思われているのだ。別にネズミは不衛生を好むのでは無く、暗がりを好んでいるだけである。そもそも衛生的な獣など自然界に存在しないので、大体の動物が不衛生と言えば不衛生なのだけれども、それはさておき。


 自分が獲ってきた生物が毒保有の生き物だと知り、食用不可である事が判明した紅朗は、渋々ながらも次なる獲物を求めて再び森の中へ入っていった。


 そして約三十分後。太陽が完全に没した頃にソーラ達の下へ戻ってきた彼の手には、両手に無数の爪を持つモグラのような生き物が五匹。この短時間で野生生物五匹狩ってくるその狩猟能力に驚く狐兎族姉妹を放っておいて、獲物を焚火近くに放り捨てた紅朗は何かを目撃でもしたのか興奮気味に語る。



「おいおいお前ら聞いてくれよ! 鼻行類おった!! 鼻行類!! いやマジ信じらんねー! あんなオカルト生物ガチで居んのかよ!! シュテュンプケこっちに来たんじゃねぇのか!? シュタイナーに教えてやんねぇと!! 俺が見たのはきっとハナアルキの――」


「――あ、あの……」


「何を言ってるのか解らないけど、それ、食べられないわよ?」


「――あはん?」



 鼻行類とは地球にあるちょっとしたマイナー創作生物の事であるが、それは兎も角として。



「貴方が獲ってきたソレ、スティンクって言うのだけれど、私達は遠慮しておくわ。毒も無いし食べられない訳でも無いんだけど……」


「それ、腐った油を泥に混ぜたような味がする。ぶっちゃけスゲェマズイ。ヒョウモンゼブラよりも。あたし、それ食べるぐらいなら自分の靴食べるよ」



 ソーラに次いでテーラの注釈だが、味の評価は最悪な部類の生物だった。食べられない事は無い。ただそれを食べるのならば他の食べられないものを全部食った上で、周囲の草木や自身の衣服を食いきった上で、もう他に物理的に食べられるものが無くなった場合、自分の四肢を食うかその生物を食うかの二択を迫られた場合の極限下においてのみ、選択肢に上る程のものであった。


 これをもう一度食せと仰られるのならば、私は私の神を殺しに行くだろう。と、そのスティンクを食べた宗教家の言葉はこの異郷において割と世界レベルで有名である。


 そんな事実を突き付けられた紅朗は、二度の無駄足を食らったからか、鼻息荒く森の奥へ走っていった。陽は没し、辺りは暗いにも関わらず。しかして紅朗は視界不良な状況でありながらも二十分と掛からず狩猟を完遂してきた。



「オラァ!! これで文句無ェだろオッラァン!!」



 台詞と共に投げ捨てられたのは、大型のアルマジロのような生き物。首根っこをふん捕まえて釣り下げれば、大体1m程の体長を持つ大型の生物だ。どうやらそれは食えなくも無いようで、ソーラやテーラの表情が曇る事は無かった。前の二つに比べれば、だが。



「アルティマカイトじゃない。固い甲羅のような部分が分厚くて可食部分が少ない生き物よ」


「食いでが無いんだよねぇ……」


「あの……」


「満足に食える生き物はいねぇのかこの森にゃあ!!」



 暗闇の森に紅朗の怒号が響き渡った。


 勿論、紅朗達が現在ベースキャンプとしている森に可食生物は存在する。これはただ単純に紅朗の運が悪かった事と、未だこの異郷の知識を紅朗が満足に有していない事の弊害でもあるだろう。最初に目を付けた生物が毒持ちで、あるいは不味くて、あるいは食いでの無い生物だった。紅朗はそれを知らずに狩り、これで良いだろうと探索を止めた。ただそれだけの話である。


 それだけの話ではあるが、この徒労感はどうした事だと四つん這いになって項垂れながら悲鳴とも怒号ともつかない雄叫びを上げる紅朗。その声を止めたのは、先程から紅朗と狐兎族姉妹の話に割って入ろうとしていたスイである。



「す、すいません……」



 雄叫びと雄叫びの間。肺の中の空気が全て放出され、次なる雄叫びを上げるべく空気をふんだんに吸い込もうとする秒の間。その間に、スイの遠慮がちの言葉がするりと割り込んだ。


 紅朗とソーラとテーラ、そして余り意味は無いだろうシロがスイに視線を向けると、彼女は申し訳なさそうに俯きながら、伏せた目を右往左往と泳がせながら、おっかなびっくり進言する。



「あの、私、お肉食べられません……」



 その台詞は、スイだけにかかっている言葉じゃない。実はアルテリアという種族、彼らは全員が菜食主義なのであった。体付きも内臓も歯の形状一つとっても雑食性である事は確かなのだが、なんというか、肉を食い慣れていない、というのが一番近いものだろうか。完全菜食主義という訳では無く、一応乳製品も卵も種族通して食べてはいるのだが、それはあくまで調理法の一つに欠かせないというだけ。


 というのも、彼女らの舌、味を感じる味蕾という器官が余り肉に対応していなく、肉の旨味を感じ辛いのだ。反対に、野菜の旨味は一般的な種族よりも感じ取る事が出来る。そういった事からアルテリアという種族は味的に肉を好まず、菜食主義を選んできた。それが何百年も続くと、肉の消化に対応する事の出来ない内臓器官を持つ個体が増えるのは当然。ましてや、スイは親にネグレクトと監禁によって酷い栄養不足に陥っていたのだ。消化の悪い肉が受け付けなくなるのも致し方ないだろう。


 衝撃の真実をスイの口から告げられた紅朗は、暫く時が止まってしまったのかと思わんばかりに停止した後、おもむろに「……ふふ」と笑みを浮かべた。その声に歓喜が籠っている訳じゃないのは誰の耳にも明らかで、やがて紅朗は勢い良く立ち上がる。



「上ォ等だぁコラァ!! 採ってきてやらぁああああああああ!!」



 そしてブチ切れた様子で森の奥へと突貫していった。




 ……――戻ってきた紅朗の戦果を簡単に報告しよう。


 スベリヒユという名の小さな多肉植物に似たオレンジ色の植物。セイヨウタンポポに酷似した深緑色の植物。クレソン、あるいはオランダガラシという名のアブラナ系多年草に似たショッキングピンクの植物。紅朗はそれら三つの植物を両手に抱えられるだけ抱えて戻ってきた。


 が、結果と言えば――

 

 スベリヒユのような小さな多肉植物→すげぇ苦い。


 セイヨウタンポポに似た植物→茎も花も劇毒成分含有。


 クレソンに似た植物→よく似た野草が二つあり、その内の毒を保有している方だった。



「なんで大体毒ばっか持ってくるのよ」


「俺の故郷で食える植物に似た形状してんだよ!!」


「あの、植生によって、毒を帯びたりとかしますから……」


「うるせぇ!! その哀れみの視線をやめろ!! お前ら(異郷)なんか大っ嫌いだバーカ!!」




 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲




 そんなこんなで食事を終えた紅朗達一行は、程よい満腹感の余韻を持って、眠りにつくまでの余暇を過ごしていた。スイやソーラがそこら辺から適当に採取した野草のスープも全て飲み切り、紅朗が狩ってきた肉達もほぼ全てがシロの胃に収められた。


 硬い肉(アルティマカイト)不味い肉(スティンク)のみならず、毒の肉(ムイコルペ)までも。


 毒を服用しても効かない体質なのか、何か抗体でも持っているのか。あるいは毒すら消化してしまう程の強靭な胃袋なのか。更にはシロの外見から推測した彼女の胃袋の体積よりも多くの肉を食らっておきながら、シロはまるで苦にする事も無く自らの尾で構築したとぐろの上で寛いでいた。


 果たしてこの生物は、なんなのだろうか。シロと対面して座る紅朗は思考し、観察する。


 全体的な体色は概ね白。しかし一般的に白目と呼ばれる強膜は黒く、瞳は赤い。歯は全てが鋭く尖り、肉食獣の様相を呈している。胴体は凡そスイと同年齢のようだが、両手が異様に肥大しており、反対に両足は異常に細く未発達。彼女の移動手段が自らの尾を用いて胴体を浮かせ、蛇のようにくねらせて移動している事から足が未発達のままなのだろうと推測されるが、両手の肥大化については仮説すら浮かばない。


 頭部、頸部、胸部には白い体毛が濃く生えており、長年の野生生活だからか触れずともごわついている事が伺える。胴体部を覆わんとする長いごわついた頭髪からは二対四本の短い角。体毛の生えていない胴体部は白い皮膚の中に大きな鱗が点在し、そして人間であれば臀部であろう部分からは、胴体と同等の太さの尾が3m程伸びている。


 蛇と言うには余りに異質。しかし人と言うには余りに異形。それが、紅朗がシロに抱く印象であった。


 観察だけではどうにも情報が少ないと思ったのか、紅朗は徐にシロの頭髪へと手を伸ばす。重厚な髪の間に指を通す感触。見た目通り、確実に手入れされていないであろう触り心地。髪の一本一本が他の毛と絡まり、指通りは決して良くは無く、何処に指を通しても数cm動かすだけで直ぐ引っ掛かる。まるで一月近く森の中で野宿した、あの時の自分の頭髪のような感触に、少しだけ紅朗は懐かしさを覚えた。



「むふー」



 決してシロに痛みを与えないよう慎重に指を通していれば、それを何と勘違いしたのか、にへらと笑い満足気に瞼を閉じるシロ。そんなシロを放っておいて、紅朗の興味はシロの皮膚へと移行する。


 白い頭髪から抜き出された紅朗の指がシロの肩に触れる。見た目は人間に勝るとも劣らぬ滑らかな皮膚(というよりも肌と形容すべきか)だが、触れて初めて実感する感触が紅朗に否と唱えさせる。



「これは、鱗か……」



 紅朗の呟きは、正しく真を捉えていた。人間の肌と見紛うレベルの、きめ細かい鱗。人間の身体でトップクラスに敏感な指先が、シロの皮膚に微細ながらも等間隔の凹凸がある事を知らせてくれている。更に肌というには水気が余り感じられず、滑らか過ぎており、そして硬質過ぎる事から、シロの皮膚は地球では類を見ないレベルできめ細かい鱗であるという事実が判明。



「つまり、所々に点在する大きな鱗は、この皮膚が集合して結晶化した、あるいはただ単に肥大化したという事か……」



 紅朗の四指がシロの腹をなぞり下降する。それがくすぐったいのだろうシロは湧き上がるむず痒さからか笑顔で身を捩っていた。それでも紅朗の指がシロの皮膚から離れていないのは、少なくともシロにとって紅朗の行為は不快に値しないという証左である。


 紅朗の指はそのままするするとシロの皮膚をなぞり、やがて目に見えて鱗である事を主張する皮膚の場所、腰骨付近に到着する。というのも、シロの身体で大きな鱗が生えている箇所は左右対称で決まっていた。


 まず、身体の正面に三か所。臍よりも下、丹田付近にある横三つに連なる鱗。そして両足の膝の真上にある縦二つ連なる鱗。


 次に身体の側面に二対四か所。今紅朗が触れている腰骨付近にある鱗と、太ももの外側側面に固まる鱗群。


 最後に、身体の背面。胴体と尻尾の境目だ。


 その大きな鱗に触れて、解った事が一つ。シロの身体に生えている鱗は連結していないのだ。鱗の一つ一つが単独で皮膚から生えており、皮膚を伸ばすと鱗と鱗の間に柔軟な皮膚が見える程の隙間が出来る。それが何を意味するのかと言うと、シロの身体の構造は、少なくとも表面だけで言えば蛇の鱗と同じような構造なのだ。爬虫類の中でも極めて柔軟な身体を持つ蛇に。



「シロ、ちょっと口を開けるか? こう、あーっ、て」



 であれば、もしかしたら骨格まで蛇に近しいのでは無いか。例えば、獲物を丸飲みに出来るよう、顎を外したかのように大きく口を開ける構造、つまり顎間接が二つあるとか。


 そう思ってシロに自分と同じように口を大きく開けてもらうべく紅朗は告げるが、残念ながら顔面の骨格構造は蛇のようにはしていないらしく、普通の人間同等の開口角度だった。しかしその口腔内にもまた、着目すべき点が存在した。



「これはもう、牙だな……」



 そう、牙である。


 牙……つまり歯と一口に言っても、その形状による用途は様々だ。人間で例えるのならば、端的に前歯と奥歯に分類出来る。前歯は別名【門歯】とも良い、先端は薄く広がり食物を切る役割を担っている。奥歯は【臼歯】とも言い、名前の通り臼状に分厚く四角く、繊維質の多い食物を消化しやすいように磨り潰す役割を持っている。また、犬歯とも呼ばれる尖った歯は肉を噛み千切る為に存在していると言っても良いだろう。


 この歯の種類がどのような割合で口腔内に生えているかで、その歯の持ち主が肉食か草食か判別できるのだ。


 では、シロの歯の形状はどうなのかと言えば、彼女の歯は総じて尖っていた。人間のように隙間無く生え揃っていながら、しかし肉食獣のようにぎらりと、自身の存在を主張している。その歯、というか牙は、確実に獲物の肉を噛み千切るためだけに存在していた。



「ああ、そうか。お前確か【噛み千切る蛇】とか呼ばれていたな」


「違うわよクロウ。【齧り取る蛇】よ」



 ふと思い出したソーラ由来の情報を確かめるように呟けば、後ろからテーラやスイと話していたソーラが訂正してくる。


 それはまぁ、良い。噛み千切ろうが齧り取ろうが同じ事だ。行為のそれ自体は問題では無く、その起こした被害について紅朗は一抹の不安を抱えたが故に訊ねたのだ。



「そんでお前、本当に【齧り取る蛇】なのか?」


「?」



 紅朗の問いに、シロは小首を傾げる。シロが理解出来ないのも無理も無い。なにせ【齧り取る蛇】とは冒険者ギルドが便宜的に名付けた呼称であって、シロが一度として自らをそう称した訳では無いのだから。



「まぁ、こっちが勝手に名付けた名称だから知らないか。えーと、だな……」



 その事を思い出した紅朗は後頭部を掻きながら、どうにかこうにか、自分の疑問点をシロに伝える方法を模索する。



「お前、でけぇ猪……つっても解んねぇか。こんなヤツ食ったか?」



 そうして思いついたのは、より原始的な伝達方法。即ち、絵である。幸いにして今紅朗達の居る場所の地面は、雑草が点在して土が露出しているので、描こうとも思えば指だけでも可能だ。勿論、それに加えて他人に伝えられる程度の絵心も必要なのだが、高等学校までの教育課程を普通に修了していれば多少なりとも修得出来るものだろう。美的センスは兎も角として。


 紅朗はと言えば美的センスも絵心も極一般的なものであったので、地面に描いた猪の絵を見てシロは元気に答える。



「くった! オイしかった!」


「じゃあこんなヤツは?」



 次いで描いたのは牛。これも問題無く伝わったのだろう、シロは満面の笑みで肯定した。



「くった! イっぱイくった!」


「マジか……。エンゲル係数高くなるなぁ……」



 その笑みに思わず紅朗は頭を抱えてしまう。


 紅朗が聞いたのは主に【齧り取る蛇】が起こしたと思われる被害であり、猪は紅朗が倒したボアウルフ。牛はソーラから聞いた牧場の家畜なのだが、どうやらギルドの言う【齧り取る蛇】とシロはイコールで結ばれているらしい。そして紅朗が頭を抱えざるを得ない問題とは、その量である。


 どれだけのスパンで食い荒らしたかは知らないが、牧場の牛十二頭と猪の内臓を一人で食い散らかしたのだ。一日の食費が如何程になるのか想像もしたくない。



「あれ? そういやぁ……ソーラ、【齧り取る蛇】の被害ってのは、牛は基本的に内臓が食われて、最後の一頭が肉毎全部食われてたんだよな」


「そうね」



 ふと思いついた疑問を後ろに投げかければ、パーティーの頭脳担当は最短で返した。



「そんで、ボアウルフは内臓辺りが食われていた、と。シロ、もしかしてお前、食う順番があんのか?」



 順番がある。肉も食っていた事例があるし、先程の紅朗が狩ってきた三種の生物は丸ごと食べていたシロ。なのに、ボアウルフに関しては内臓のみが食われていた。


 この事実に、紅朗は一つの仮説を立てる。、実は一回の食事量がボアウルフの内臓程度の量しか無く、肉まで食われた牛は何日もかけて食われたのでは? という仮説。その仮説が正しければ、一日当たりの消費量は紅朗が想定しているより幾らか下なのではないだろうか。


 そう思ってシロに問いかけるも、その疑問文はシロにとって理解出来なかったらしく、「?」 と、小首を傾げるのみだった。



「わかんねぇか」



 この時点で、紅朗の脳内にはある種の打算的な選択肢が生まれた。このままシロを連れていく事のメリットとデメリット。つまりは損得勘定である。


 紅朗がシロを連れてきたのは只の成り行きだ。餌付けしたからかシロが懐いて、戦力として申し分無かったからそのまま放置した。端的に言えばそれだけの事。であれば、いずれ何処かのタイミングで放逐か別離か同行の選択を迫られるだろう。そしてその面倒な選択は、放置しておくと何故か予想外のタイミングで自分の横っ面を引っ叩くのだ。


 ならばそんな面倒事は、今ここで切り捨てておこう。決断するは今なのだ。


 まず、シロをこのまま同行させた時のメリット。それは、その膂力に他ならない。全身筋肉でありながらしなやかな動き。攻撃もさる事ながら全身鱗の重武装。攻撃面も防御面もこのパーティーでは断トツだろう。こと戦力という点で考えれば、シロという存在は放逐するに惜しい生物だ。


 だが、デメリットがデカい。


 デメリット1。まず意思疎通が難しい。単純な作戦ならば出来ない程では無いが、小難しい作戦は理解出来ないだろう。ただまぁ、学習能力はあるようなので、そこら辺の伸びしろは期待出来るだろう。


 次いでデメリット2。食費がかかる。これはあくまでもまだ仮説の段階であるが、食費がどれだけかかるか未定だ。一回の食べる量が牛一頭の内臓よりも多いのか少ないのか解らない。多少多くても戦力に見合った食費と考えれば納得はいくが、多少どころではない大食漢だったらどうしよう。この原始的な異郷では野生動物も地球よりは多いだろうから、最悪自分で狩って貰えば良いのだろうけれども。


 最後に、デメリット3。説明不要の意味不明な生物である。ソーラ達の知らない生命体であり、恐らくギルドの職員が過去のデータを漁っても便宜上の名前を付けざるを得ない程、認知度の低い生物である事。そんな生物がこの先、この異郷においてどれだけの不具合に引っ掛かるか解らないのが最大のデメリットだろう。


 ただの新種の魔獣と思われるだけかもしれない。しかし下手したらどこぞの研究機関が人工的に造り出した生物かもしれない。これは飛躍した考えだと紅朗は自嘲するが、シロの不明瞭な肉体は何処かの誰かが適当に混ぜ込んで造り上げたものに思えてならなかった。もしかしたら、と彼は思う。もしかしたら、シロは合成獣(キメラ)なのかもしれない、と。



「あ! 思い出した!!」



 そこまで考えて、ふと、紅朗の後方が騒がしくなった。突如として声を上げたテーラが荷物を漁り、何をするかと思えば一つの笛を取り出す。民族工芸品のような、笛。紅朗の記憶が正しければ、それは人語の話せるゴブリンことゴブーリから手渡された笛だった。なんでもその笛を吹けば、2~3日中にゴブリンがその場に現れるとゴブーリは言っていたが……。



「コレよコレ。どうする? 一応吹いておく?」


「いや、今吹かなくても良いんじゃない? この場所に長く滞在する訳でも無いのだし」


「あぁ、たしか吹いて直ぐ来る訳じゃないんだっけ。じゃあ王都に着いて暇が出来たら吹いてみようか」



 そう話し合う、頭部から兎の耳のようなものを生やしてケツから狐のような尻尾を生やした生物二人。そして人間に近くとも耳を無理やり引き延ばしたかのような生き物が興味深そうに二人を見ていた。


 そんな三人を見ていた紅朗は、途端に先程迄抱いていた悩みが馬鹿らしくなってくる。



「……もういいや、諸々メンドクセェ」



 合成獣なんて、この異郷では不思議でも何でもない。紅朗にとってみれば、この異郷で出会うほぼ全ての生物がキメラのようなものなのだから。そのような現実は、今更のようなものだ。


 紅朗は肩の力を抜いて笑みを浮かべ、ついでにスイにアルテリアに関しての話を聞こうと歩み寄る。勿論、その間にも時が止まっている筈も無く、狐兎族姉妹とスイの会話を聞きながら。



「あ、ていうか、スイはアルテリアなんだよね? 一応スイに聞いておこうか」


「そうね。スイ、貴女、ゴブリンと面識あるかしら」


「……いえ、知りません」





















「「「――うん?」」」



 どうやらまだ悩みの種は尽きていないらしいが、それはまた後日のお話である。







話中に入れられなかった裏話。


 ハベルゾンで起こった【齧り取る蛇(シロ)】の被害について。


 被害に遭った牛十二頭ですが、別に一日で食い殺された訳ではありません。まだ原始的なこの異郷。放牧している牛の管理も甘く、また放牧面積も広大です。故に発見が遅れ、正式な調査が入った時点の被害が十二頭だったという訳です。


 最後の一頭が全身食われていたのは、単純に肉の味をシロが覚えたから。野生動物は基本的に獲物の内臓から食す傾向がありまして(勿論、あくまで傾向)、シロも最初は内臓を食べて満腹になって食事を終えていたのですが、ある時たまたま肉を口にして肉の味を覚えて(最後の一頭)からは内臓を食べた後、一日置いてから肉を食べ始めています。


 シロもシロで、成長しているという話なのです。

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