第十一話:黒歴史(シカゴコネクション)
第十一話:黒歴史
デレクが盗み出した「金塊入りの箱」実際の内容、一体どれほどの金塊なのか?——それは、今のところは分からない、デレクもこれまで内容を確認する余裕などなかったことだろう。
L.Aの刑事とシカゴの刑事、そしてシカゴのチンピラにとって魅力的な量であることは間違いない
「シカゴか..............」
マーカスにとってシカゴは『因縁』のある土地だった。
3年前...........
シカゴ市警とLAPDの合同捜査。
LAで発生した強盗致死傷事件、LA付近で複数の同一手口による強盗事件が多発、死傷者も出た。
数か所の現場でDNA等の有力な証拠が残されていたにもかかわらず、犯人の特定に至らなかった。
数か月間の捜査の結果、数点の被害品がシカゴで換金されていたことが判明した。
複数犯の弊害だ(こちらには好都合だが...)
「金遣いの荒い奴が現金の分け前を使い切り、盗品を古物商に売ってしまう」
という典型的な発覚ストーリーだった。
更に、シカゴ周辺でも複数件の同一手口の犯行があったことから、盗品を売却した間抜けなメンバーを
糸口に、その輩の行動確認で仲間を割り出し、別件犯罪の把握等により、最終的には一網打尽にする目論
見でLAPDとシカゴ市警の合同捜査本部が立ち上がったのだ。
拠点はシカゴ、市警本部の会議室の一つを執務室として使った、こちらから派遣されたメンバーは、マ
ーカスと当時の相棒レイノルズ、階級は2人とも巡査部長だが、マーカスが4歳上で昇任もキャリアも2
年早かった、その下に巡査が5人、の計7名編成で長期の出張となった。
大規模な家宅捜索や、予定された逮捕事案の際はその都度、応援の人員が派遣され、LAPDの幹部や担
当検事も時折顔を出した。
州を跨ぐ事件なので、捜査本部の正式な立ち上げ前から調整役としてFBIも参加した。
映画やTVドラマに登場するFBIといえば、地元警察から手柄を分捕り、上から目線で威張り散らす高級
スーツの嫌な奴らとして描かれがちだが、現実は少し違う。
州を跨ぐ広域捜査で派遣されてくるFBIエージェントの本質は、凄腕のハンターというよりも「超優秀
で几帳面な官僚(事務方)」だ。
彼らの最大の関心事は手柄の独り占めではなく、法的な不備による公判維持の失敗を避けること——つ
まり「手続きの完璧さ」だった。
当時、マーカスたちの合同捜査本部に張り付いていたのは、ピシッとシワのないスーツを着た30代前半
の真面目なFBIエージェントだった。
彼はマーカスたちの
「令状なしのGPSロガーによる行動確認」
「民間人協力者に匿名通報させる『捜査の端緒作り』」
「それらを利用したグレーゾーンの令状請求」
等に対して、嫌味ではなく純粋な法的リスクとして何度も眉をひそめた。
「ヴァンス巡査部長。あなたのやり方は現場では合理的かもしれませんが、連邦裁判所では一発で証拠
能力を否定されます。公判でひっくり返されたら、これまでの努力が水の泡だ」
彼はマーカスたちの粗っぽい現場捜査を咎めつつも、決して捜査の足を引っ張るわけではなかった。
むしろ、現場の強引な捜査手法が後から違法収集証拠として排除されないよう、裏で綿密な書類上の
「法的手続き(デュー・プロセス)」
を整え、検察との間を泥臭く調整して回る役割を果たしていたのだ。
なかなか根性の据わった奴だった、マーカスはこの男が嫌いではなかった。
捜査自体は順調だった、最終的には強盗グループ5名全員を検挙できたし、物的証拠の押収、各人の取
り調べ、裏付け捜査もまずまずの出来だった。
あの日までは...........、あの日、証拠品が消えた日。
証拠品の管理は厳格に行っていた、収容する際も出庫する際も複数人でダブルチェック、トリプルチェ
ックをしていた。
保管は執務室として使用していた会議室内にある二つの倉庫、常に施錠し、執務時間内は常に人が居る
し、全員が帰宅や外出の際は倉庫はもちろん会議室自体も施錠し、鍵は本来の証拠品保管庫の係員が管
理、出勤し持ち出す際も、返還の際もサインが必要だった。
全ての証拠品はナンバリングしバーコードにより管理していた。
消えた証拠品は、
証拠品番号G-20~G-24
1 チェーンカッター 但し、ゴールドバーグ製
2 電動ドリル 但し、ブラックアンドデッカー製
3 ハードディスク 但し、三菱製 シリアル番号8400037201
4 携帯電話 但し、ノキア製
これらは、強盗グループの最後に逮捕された1人が潜伏先で確保された際に、逮捕現場における捜索差
押で、同人所有のセダンのトランク内から発見、押収したものの一部だった。
発見場所毎に番号が付けられ整理された。
押収された翌日には消えてしまったため、ハードディスクと携帯電話の中身は未だ解析前であり、その
他の物も、被害品なのか、それとも犯行用具なのかなど未だ特定前であった。
正に青天の霹靂、ありえないことが起こったのだった。
全ての作業は一旦ストップされ、関係者全員で何度も隅々まで確認したが、結局は見つからなかった。
そして、関係者全員がLAとシカゴ両警察の内務調査室、FBI、検事局の事情聴取という名の取り調べを受けた。
現在に至るまで物は発見に至らず、当時も内部的には大スキャンダルであったが、強盗致傷事件の重大
性や公判維持の観点から
「既に被疑者から所有権放棄書を取っていること」
「メインの起訴本件に関連がないこと」
等から判断され、メディア発表等もされなかった。
しかしながら、FBI、検事局も周知の事態である、関係者の処分は必至だった。
合同捜査本部の総責任者であるシカゴ市警の警視、証拠品保管庫の責任者、押収を担当した刑事数人がそれぞれ停職と減給。
当然、例のFBIのエージェントもそれなりの処分は免れなかったことだろう。
そしてLA側からは、現場のチームリーダーであったマーカスが停職処分と減給となったが、しかし........
それだけに留まらず、マーカスは内務調査室の取り調べの際に、この不祥事に乗じて
別件のグレーゾーン
についても追及を受けた、彼らは相当詳しくマーカスの実情を把握している様子だった。
マーカスからすれば「片目を閉じていれば俺が汚れ仕事をしてやる」という、マーカス特有の一種の純
粋な『街への奉仕の精神』は内務調査室には通用しない.........。ということだ。
もちろん、そんなことは昔から百も承知だったが...。
最後までお読みいただきありがとうございます。
第十一話「黒歴史」、いかがでしたでしょうか。
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次回もお楽しみに。第十二話は11月9日18:30!!




