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幸運値MAXの俺、異世界のカジノを初日で壊滅。支払いに差し出された姫騎士を景品としてお持ち帰りする  作者: 葉山 乃愛


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第69話:五階のチェス盤、あるいは最初の計算式

チーン。



エレベーターの扉が静かに開き、最上階である5階のフロアが姿を現した。

そこは、1階のロビーとは打って変わり、パーテーションすら取り払われた広大なワンフロアの空間だった。

部屋の最奥に設置された巨大なサーバーラックだけが、無数の青いLEDを明滅させながら静かに駆動音を立てている。



そのサーバーの前、ガラス張りのデスクに腰掛け、優雅に珈琲カップを傾けている男が一人。

黒いロングコートを椅子の背にかけ、現実世界の朝の光を浴びながら不敵に笑う、千影だった。



「驚いたな。1階の民間警備員10人を、まさか3分足らずで制圧してくるなんて。

シルヴィアさんの体術と、ミアちゃんの野生の機転は、現実の物理法則の中でも劣化しないというわけか」



千影はカップを置き、ゆっくりと立ち上がった。

あいつの手元には、あの『黄金の初期化コイン』が、現実のデスクの上でチリン、チリンと不気味な音を立てて回っている。



「そこまでだ、千影。お前の経済を使った嫌がらせも、ここで全部リセットさせてもらう」



俺はポケットから、阿良多が完成させた『最初の珈琲豆』のデータカードを引き抜き、あいつに見せつけた。

だが、千影はそのカードを見ても、焦るどころか、愛おしい我が子を見るような歪んだ微笑を浮かべただけだった。



「ああ、店主さんの遺産だね。一杯の珈琲を淹れる日常の温かさ、それを世界の『基底現実のアンカー』にするプログラム。

素晴らしいよ、カイト。君たちがそれをちゃんと見つけ出し、現実のデータへ昇華させてここまで運んでくれることを、僕は確信していた」



千影がパチンと指を鳴らした。

その瞬間、阿良多が抱えていたノートPCの画面が、突如として真っ赤な警告色に染まった。



「なっ……バカな!? 僕の端末が、外部から強制同期されてる……!?

千影、お前、僕たちが地下から持ち出したデータを、最初からこの部屋の無線網(Wi-Fi)経由で『吸い上げて』……っ!」



阿良多が驚愕の声を上げ、必死にキーボードを叩くが、画面のプログレスバーは非情にも100%へと向かって突き進んでいく。

彼の天才的なハッキング技術をしても、最初から網を張っていた千影の罠の速度には追いつけなかった。

悔しさに唇を噛む阿良多の肩を、リザが静かに、けれど強く抱きしめた。



「慌てないで、阿良多。あの男の計算がどれほど完璧だろうと、私たちがここに立っているという『現実』までは計算しきれていないわ」



リザが一歩前へ踏み出し、その碧眼で千影を真っ直ぐに射抜いた。

異世界の王女として、数々の謀略を打ち破ってきた彼女の瞳には、一切の揺らぎがない。

「千影。あなたはカイトの熱量をデータとして消費しようとした。

でもね、人間の感情は、あなたのその冷たいサーバーを焼き切るほどの熱を持っているのよ」



「いい表情だね、元王女様。だけど、これで僕の『完璧な日常のシステム』は完成する」

千影がデスクの上の黄金のコインを手に取った。



「そのカードのデータが僕のサーバーに統合された瞬間、この商店街の土地も、人々の負債も、すべてが僕の管理下で『最も効率的な数式』に書き換えられる。

誰も不幸にならない、誰も無駄な足掻きをしない、完璧に調律された美しい街の日常が、朝9時の時報とともに始まるんだよ。

さあ、残り時間はあと5分。君たちのその“熱量”で、僕のシステムを止めてみせてよ、カイト」



サーバーの明滅が激しくなり、ビル全体が微かに震え始める。

千影の狙いは、最初から俺たちに『原典のデータ』を持ってこさせ、自らのシステムに自発的に組み込ませることだったのだ。

ルカが胸のエンブレムを握り締め、祈るように俺を見つめる。

最大のピンチであり、すべての因縁を断ち切るための、本当の最終局面。

俺はリザの手を握り返し、千影に向かって、かつての日常のように不敵に笑ってみせた。


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