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幸運値MAXの俺、異世界のカジノを初日で壊滅。支払いに差し出された姫騎士を景品としてお持ち帰りする  作者: 葉山 乃愛


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第1話:初期資金は銅貨10枚。全自動幸運モードでルーレットを回した結果

「……なるほど。これが異世界転生ってやつか」



見知らぬ石畳の路地裏で目を覚ました俺は、目の前に浮かぶ半透明の画面を見つめて呟いた。



俺はどこにでもいる普通の大学生だったはずだ。

たしか、大学の帰りにコンビニに寄って……そこからの記憶が、驚くほどきれいに抜け落ちている。



目の前のステータス画面には、俺の名前と年齢、そして基礎能力値が記載されていた。



筋力:10

体力:10

知力:15

敏捷:10

魔力:0



見事なまでに平凡。

いや、魔力がゼロであることを考えれば、この世界では平均以下かもしれない。



しかし、その項目の最後尾に、信じられない数字が輝いていた。



幸運:99,999,999(限界突破)



「……いや、カンストどころかバグってないか、これ」



桁が多すぎて一瞬読めなかったが、どうやら俺の運は天文学的な数値に設定されているらしい。



手元にあるのは、麻の服と、ポケットに入っていた薄汚れた銅貨が10枚だけ。



魔法で無双するような力はないが、この「幸運」がどれほどのものなのか、試してみる価値はある。



俺は路地裏を抜け、活気溢れる大通りへと足を踏み出した。



中世ヨーロッパを思わせる美しい街並み。

行き交う人々の中には、獣の耳を持った亜人や、杖を携えた魔法使いの姿も見える。



そんな街の中心部で、ひときわ異彩を放つ巨大な建造物が俺の目を引いた。



黄金の装飾が施されたドーム型の屋根。

入り口には屈強な門番が立ち、着飾った貴族たちが次々と吸い込まれていく。



看板には『王立カジノ・グランシャリオ』と書かれていた。



「カジノ、か。手持ちは銅貨10枚。運試しにはちょうどいいな」



俺は躊躇することなく、その豪華絢爛な扉をくぐった。



内部は、外観以上に煌びやかだった。

シャンデリアの光が乱反射し、カードを弾く音と歓声が入り交じっている。



俺はフロアを見渡し、一番賑わっている巨大なルーレットテーブルへ向かった。



円盤には1から100までの数字が刻まれており、倍率は最高で100倍。

最低賭け金は、ちょうど銅貨10枚だ。



「さあ、張った張った! 次の数字はなんだ!」



ディーラーが声を張り上げ、客たちが次々と金貨や銀貨を積み上げていく。



俺はポケットから銅貨10枚を取り出し、盤面を見つめた。

どれに賭けるべきか、法則なんて一切わからない。



だから、ただ適当に、一番手前にあった『0』の枠に銅貨を放り投げた。



「おいおい、兄ちゃん。0なんて1日に1回出るかどうかの大穴だぜ?」



隣の商人が鼻で笑ったが、俺は気にせず前を向く。



「ルーレット、回ります!」



ディーラーの掛け声とともに、円盤が高速で回転し始めた。

銀色の球が、カチカチと音を立てて弾む。



やがて円盤の勢いが落ち、球がひとつの枠に向かって吸い込まれていった。



カコンッ。



澄んだ音とともに球が収まったのは、赤く塗られた『0』の枠だった。



「なっ……!?」



商人が目をひんむき、ディーラーの動きが止まる。

周囲の客たちが、一瞬の静寂の後にどよめきを上げた。



「0だ! 大穴が出たぞ!」

「銅貨10枚が、一気に銀貨10枚だ!」



ディーラーが震える手で、俺の前に銀貨の山を押し出す。



「お、おめでとうございます……」



「ありがとう。じゃあ次、この銀貨10枚をそのまま『0』に」



俺がそう言った瞬間、テーブルの空気が凍りついた。



「正気か!? 0が2連続で出る確率なんて、万に一つもないぞ!」



周囲の制止を無視し、俺は銀貨を動かさない。

ディーラーは額に汗を浮かべながら、再びルーレットを回した。



カコンッ。



結果は、またしても『0』。



「ば、馬鹿な……」



銀貨10枚の100倍。すなわち、金貨10枚。

平民が1年は遊んで暮らせる大金が、わずか数分で手元に転がってきた。



だが、俺の「幸運値」はこんなものでは終わらない。



「じゃあ次は、この金貨10枚を全部『0』に賭けるよ」



「ひっ……!」



ディーラーが短い悲鳴を上げた。

もしこれが当たれば、金貨1000枚。このカジノの利益を丸ごと吹き飛ばす金額だ。



「イカサマだ! そんなはずがあるか!」



騒ぎを聞きつけ、奥から黒服の男たちが現れた。

そして彼らをかき分けるようにして、一人の男と、その後ろに控える女性が歩み出てくる。



現れたのは、高級スーツを着た細身の男。支配人だろう。

だが、俺の視線はその後ろの女性に釘付けになった。



透き通るような銀色の長髪。

洗練された白銀の軽鎧を纏い、腰には立派な長剣を帯びている。



凛とした冷たい青い瞳。

圧倒的な美貌を持つ、姫騎士と呼ぶにふさわしい女性だ。



「支配人! こいつが連続で大穴を当てて……!」



報告を聞き、支配人は目を細めて俺を見た。



「我がカジノを汚す不届き者ですか。シルヴィア、彼を取り押さえなさい」



支配人の命令に、銀髪の姫騎士シルヴィアが一歩前に出る。



「お待ちください、支配人。彼からは一切の魔力を感じません。魔法による細工は不可能です」



彼女の声は、冷たく澄み切っていた。



「では、ただの偶然だと!? いいでしょう、私が自ら回して差し上げますよ」



支配人がルーレットの前に立ち、自ら円盤を回した。

そして、ポケットから取り出した漆黒の球を投げ入れる。



(あの球、普通の球じゃないな)



磁力か魔法か、明らかに軌道が不自然だった。

支配人の意志で、特定のハズレ枠に入るような仕掛けだ。



だが。



漆黒の球が『0』から遠く離れた数字に入ろうとした、その瞬間。



天井の巨大なシャンデリアから、小さなネジが1本だけ外れて落下してきた。



ポーンッ。



落下したネジが盤面にぶつかり、その反動で球を弾き飛ばす。

宙を舞った球は、美しい放物線を描き――吸い込まれるように『0』へ収まった。



「……………………は?」



支配人が、間抜けな声を漏らした。

ディーラーは白目を剥いて気絶し、客たちは声すら出せずに硬直している。



姫騎士シルヴィアだけが、信じられないものを見る目で俺を凝視していた。



「これで俺の勝ちだ。配当は金貨1000枚。きっちり払ってもらおうか」



俺が告げると、支配人は膝から崩れ落ちた。



「金貨1000枚……そんな大金、今すぐ用意できるわけがない……!」



絶望に顔を歪める支配人。

俺はふと、後ろで呆然としているシルヴィアに視線を向けた。



「払えないなら、仕方がないな」



俺はゆっくりと、彼女を指差した。



「代わりの支払いに、そこの彼女をもらっていく。それで手を打とうじゃないか」



「……えっ?」



凛とした姫騎士の口から、今日一番の素っ頓狂な声が漏れた。


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