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 まだ日本という国が確立する前、彼は突如と現れその大地を支配した。


『西の新勢力の噂は聞いたか、オイ?』

『ったりメェよ。圧倒的な強さで派手に暴れてるらしいじゃねえか。ひょっとしたら俺らの王も丸のみにされるかもな』

 

 生まれも育ちも一切不明、親や兄弟の存在も知られていない。だが彼の持つ力は比類なきものであり、その力だけは確かなものであった。


「王よ、近隣の二つの村から傘下に入りたいと申し出が」

「許す。直ぐに男の数と米の数を調べろ」


 自分たちの傘下に加わりたいと話があれば、それを受け入れる。そうして広大な土地と莫大な兵力・財力を下に対抗勢力を悉く滅ぼしていった。


 そして彼は何より「裏切り」を絶対に許さない性格であった。


「この者は敵国から賄賂を貰い、先の戦で偽の情報を流し、わが軍に甚大な被害をもたらした。

斬首でよろしいですな、王よ」

「ま、まってくれ!悪かった、娘や妻と孫だけはどうかッ....!せめて私だけ、私だけ!!」


「....命だけは助けてやろう、後は勝手にしろ」


 命乞いがあれば命を奪うことはしない。彼は生命の神秘・美しさを理解している。

 故に戦以外で人を殺すことは無い。


「...そこの小屋に()()おる筈だ。それを連れて消え失せろ」

「あ、ありがとうございます!! なんと申せばよいか...」

「行け」


 命は奪わない、彼が奪うのは「尊厳」だけだ。


『おいおい聞いたか?例の裏切りもんの話だけどよ』

『馬鹿なことをしたもんだ。王に逆らうなんて死より恐ろしいというのになあ』

『でもまさか自分の嫁さんや娘、14歳になる孫、皆すべて()()にされちまうだなんてな』


 裏切り者をこの世から消すことぐらい彼には容易い。だが処刑だけで裏切り行為を無くすことが不可能なのはこれまでの人類史で既に明らかになっている。


 故に尊厳を奪い敢えて生きさせる。生きていることが死よりも恐ろしい、その命が費える瞬間まで生き地獄を味合わせるのだ。


『舌をちょん切って鼻と耳を削ぐ。もちろん四肢もだ。でもいっぺんにやっちまうと血が無くなって死んじまうから、止血をしていったん中断。そしてちょん切ってまた止血。時間をかけて完成させんだとよ』

『でも目だけは両目とも残しておくんだとよ』

『え、なんでさ?』

『そりゃああれだろ。「変わり果てた自分を興味津々に観察する視線」を体験させてやりたいのさ』


 裏切り者は人ではない、その歪んだ認知から大人も子どもも関係ない。

 全て等しく尊厳を奪いつくす、そしてその様を見せつけることで自分の恐ろしさを世に示す。


『その光景に耐えれなくなったアイツは嫁さんたちに介錯をした後、自分の首をスパッと、ね。』

『それが嫌なら最初からするなってことだな』


 恐ろしいのは性格だけではない。彼のもつ『武』だ。


「オイッ! 敵の大将が直ぐそこまで攻めてきてるぞ!!もたもたしてないで早くにげr」

「ヤツだ!! ここで仕とm...」

「な、指令!!」


 彼の戦い方は2パターン存在する。人が足りている時は練兵も兼ねて大軍で戦を仕掛ける。

 だが収穫の時期など人を集めるのが難しい時期は「一人」で戦いに挑むのだ。


「...オイ、お前らの希望は()()()であってるか?そろそろ昼寝もしたいから帰りたいのだが」

「なっ....!!! はい、その首こそ我らが王です」

「そうか。ならよい、貴様は用済みだ。死ね」


 使うのは圧倒的な暴力と奇妙な力だけ。武器を使うことはその時点で「負け」と認識している。


『我が王よ、最近は術を使わぬのですか?』

『必要性が皆無だからな。人間は脆い、ちょっと触れるだけで直ぐに散ってしまう。これでは生きるのが退屈で仕方がない、大陸でひと暴れするのも良いかもしれんな』


 王がこの後どうなったかは一切記録が残っていない。

 絶大な力で大地を支配したその名も時間が経つとともに忘れさられた。


 そして長い年月が経過した。


「....え、昔話はこれでお終いなの?なんというかオチもないし王様の素性も一切わからないし、こうやって言うのも失礼だけど全然面白くないわね」

「最近の子は昔話に興味がないようだな」

「そういう訳ではないけどさあ、関連性とか全然なさそうだし」


 確かに今の昔話から僕らとの関連性は何も感じなかった。

 思わず途中でストップをかけそうなった。


「...まあ良い。実を言うとワシは嬢ちゃんの父親と共に『王』について長年調査を続けて

いたんだが...」

「だ、が?」


 カヤさんは慎重に問いかけた。


「十年程前だったか。突然文が途絶えたのだ、何の前触れも無くな」

「前触れも無く、突然...」

「すまないが、ワシも色々と調べてはいるが有力な手掛かりは無い」

 

 彼女はしょんぼりと落ち込んでしまい、俯いて口を閉ざした。


「確証は無いが嬢ちゃんの父親は二つの勢力に狙われた可能性があると見ている」

「二つの勢力ですか、....それは一体」

「一つ目の勢力は『藤原家』だ」


 藤原家がどんな一門なのかは僕も覚えている。自分の娘を帝の妃として嫁がせ、生まれた子が帝に即位すれば、外戚関係により力を奪い、朝廷を裏から支配していた一族だ。

 当然多くの家は反藤原家を掲げていたが、その都度藤原家は敵対勢力を容赦なく排除してきた。多くの敵を抱えていたが、彼女の父親もその内の一人なのだろうか。


「実は君たちが拾った本、『裏風土記』はその昔、打倒藤原家を軸としてある人物らが秘密裏に作成したものだ」

「裏風土記、ですか...」

「ここには「風土記」には()()()()()()()()()()()内容が書かれている」

「その本ですけど不思議な点が幾つも。一体どこから聞けばいいのか...」


 思えばこの本は不可解な点が多すぎる。郷土史の一面を持ちながら古文書の一面もある。

 そして作成時代にあるはずのない文字が書かれている点、奇妙過ぎるのだ。


(まてよ、あの平仮名って、まさか....)


 篁さんから本を拝借するとずっと気がかりだった一文を探し出した。


「こ、ここです!ほら、ここから突然ミミズのような文字で分が書かれていますよね?これは朝廷で生まれた文字、つまり藤原家とこの本に何か関りが....」

「確かにこれを書いたのは藤原家の可能性もある。だが坊や、朝廷の人間でもないお主がどうしてこの文字を読めるのだ?」

「そ、それは.... その、実は....」


 僕は洗いざらい全て話した。自分が未来から来た存在であること、これから起こる歴史がある程度わかること、そして記憶の一部が失われていること。全て話しきった。


「...未来から来た、か。面白いな、長い年月を生きてきたが初めての事例だ」

「え、疑ったりしないんですか?どう考えても怪しいと思うのに...」

「疑ったりせんよ。我々が神通力を扱えるように科学では証明できないことがこの世で溢れているからな」


 篁さんは本を手に取り、最後の一文を目で追った。どうやら彼も平仮名を読めるようだ


「ここには神通力のことが詳細に書かれておるな」

「何と書かれていますか?」

「こう書かれておる」


 『ひとがひとでなくなるときそのものはちからめざめる。そのちからをみな神通力とよぶ』


「人が人でなくなる時?どういう意味ですか、これ?」

「......」

「どうして黙るのですか」


 突然と口を閉ざした様子を見て体が小さく震えた。次第に呼吸が粗くなり、汗が止まらななった。


「...神通力は超越した力を手に入れる代わりに幾つか代償を払う契約がある。二人とも落ち着いて聞けるか?」


 確証も無いのに僕とカヤさんは思わす「はい」と返答してしまった。

 本当は無理と言いたかったが、それよりも事実を知りたい欲が先走ってしまった。


「代償その一『老いることが無い』。正確には力に目覚めてから肉体の全盛期を迎えるまでは身体が成長するが、それ以降肉体が老化することは無い。まあワシの様に老いぼれてから力に目覚めた場合は、その日から老い停止するって感じだ」

「確かに年をとってからだと大変ですけど、若い時代に目覚めれば利点しかないような....」

「本当にそうかな」


 たった一言で背筋が凍るような感じがした。野生の感というか、言葉では表せない奇妙な何かを察知したような感覚だ。

 思わず唾を飲みこんだ。


「代償その二『弱点が無くなる』だ。首を討たれぬ限り基本は死なぬ。例え皮膚を剥がされようが四肢を斬られようが時間と共に再生される」

「なんだ、何も問題ないじゃ...」


 僕の言葉を遮って篁さんは声に力を込めて次の代償を口にした。


「代償その三『永遠に生き続ける』。つまり不死だ。死にたいと思ってもそれすら不可能だ」

『!!!!!!』


 その言葉を聞いて吐瀉物が込み上げてきた。僕は口を押えて思わず庭に向かって吐き出してしまった。何度吐いても吐き続けても、湧き水の様に止まることなく湧き出てくる。

 人間である以上必ずその時はやってくるはずだ。それが無いだなんて有り得ない話だ。


「だ、大丈夫!?落ち着いて...」


 カヤさんの前で弱い姿を見せたくは無かったが、背中を優しくさすってもらうと少し気が楽になった。


「じゃあ、何ですか。力に目覚めた僕は死ぬことがないってことですか?...死ねないんですか!?」

「...首を討たれぬ限りはな。だが過去の例だが首を落とされても死なぬ者もいた。それが『王』だ」

「てことは、その『王』は今もどこかで生きてるってわけ!?」

「....恐らくな」

 

 二つ目の勢力は「王」だった。しかも何百年も前に生まれたのにも関わらず今もどこかで生きている。

 口周りの汚れを拭うと再び篁さんの前に座り込んだ。気が狂いそうだが口元を軽く押さえながら話を聞き続けることにした。


「...昔大陸に渡りその国に伝わる歴史書を読んだことがある。そこには『王』の名前が書かれていた」


 僕と彼女は言葉を発さず、視線だけ彼に向けてその時を待った。


「王の名は『帥升(すいしょう)』という」

「帥升....」


 顔も知らない人と僕らはこれから殺し合いをしていかねばならないのだろうか。

 そのために僕は狂う必要があるのかもしれない。


「...?どうしたの、急に見つめて」


 僕にはその覚悟がない。

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