10 潮騒のヴェール、青とナギの結婚式
春の海を渡る風が、白い砂浜に設えられた小さな式場を優しく揺らしていた。西浜青と入江凪沙は、家族や友人の祝福の拍手を浴びながら、ゆっくりとバージンロードを進んでいく。晴れやかなはずのその表情に、青はどこか影のようなものを宿していた。
胸の奥底で、もうひとりの少女の姿がふと揺れる。
――ナギ。
小学生の頃、海辺で出会った、どこか不思議で、何より大切に思った少女。
長い時間が経つほどに、その存在は夢のように曖昧になり、記憶の片隅へ押しやられようとしている。
けれど消えない。ずっと心の奥に居続ける。
初恋と言ってもいい大切な人。
だが今日、自分は彼女と別れを告げるのだ。
「ありがとう。さよなら、ナギ」
青は心の中でそっと呟いた。
ここから先の人生は、目の前の凪沙とともに歩んでいく。
その決意を固めるために、今ここに立っている。
一方、凪沙――いや、ナギ。
彼女はヴェールの奥の瞳に、微かな揺らぎを宿していた。
幸せの絶頂であるはずの結婚式。
大好きな青の隣に立ち、これから先もずっと共にいられるはずなのに。
胸の奥にはどうしようもなく冷たい波が押し寄せていた。
人魚の掟とはいえ、どうして気づいてくれないのだろう。
「私はナギだ」と叫んでしまいたい衝動が、喉元で震える。
けれど、それを言ってしまえば、ナギは人間ではいられなくなる。
青は、ナギとの別れを抱えて、未来に進もうとしている。
その足を、愛する自分が止めるなんてできない。
誓いの言葉を交わすとき、青は凪沙の手を強く握った。
その温もりに、ナギの記憶が一瞬、鮮明に浮かぶ。
裸足で駆けた夏の日。
海のきらめき。
無邪気な笑顔。
青の胸が、はっ、とざわつく。
――でも違う。今、向き合うべきは未来だ。
指輪が凪沙の指に収まる。
青は小さく息をつき、愛おしげに微笑む。
凪沙も応えるように笑みを返す。
けれどその端に、誰にも気づかれない小さな寂しさが滲む。
海風が、二人のすれ違う想いを混ぜながら吹き抜けていった。
過去への別れと、未来への希望。
悔しさと、愛しさ。
それらすべてを抱えながら、青とナギは隣に立つ。
同じ方向を見ているはずなのに、まだ少しだけ、心は離れたまま。
それでも――二人は歩き出す。
いつかきっと同じ場所に辿り着くと信じて。
本編にはなかった青とナギの結婚式です。
2人はずっと一緒にいられるのに、この時は寂しいですよね。
アイデアを出して、AIが書いたものを加筆修正しました。




