第一章第二十話 弱肉強食の世界だからって強いものが最強というわけじゃない
豊橋は無数の無人戦闘機を引き連れて来ていた。
戦闘機によるミサイル攻撃を受ける。
俺達と大人浅風らは瓦礫の陰に身を潜めて攻撃を凌いだ。
「能力妨害装置を切って!」
ドリームレッドが大人浅風に叫んだ。
雨のような集中射撃を浴びようとしていた時、大人浅風は能力妨害装置の電源を切った。
その瞬間、時間が止まったような、音が一切しない不思議な空間に転移した。
最初その空間には俺しかいなかったが、奈々、銀河、瀬戸、出雲、そして大人浅風、ミシェル、タカヒロもやって来た。
そして最後にドリームレッドがやって来た。
「ちょっと時間を止めました。作戦会議しましょう。」
「ここはどこなんだ?」
「時空の狭間の異空間と言ったところかな。私が瞬間移動したり、タイムリープする時はこの空間に一度転移して高速で移動するの。ここは時間の概念がないからここにいれば時間が進まないんです。」
大人浅風が聞く。
「時間を止めているだけではこのまま元に戻ればミサイルの雨を浴びることになる。これはどう避ける?」
「このまま敷地の外まで空間内で移動すれば一旦は逃げられます。それでもって、もう一度何人かでヘリにテレポートして無人機を操っていると思われる豊橋を止めないといけませんね。」
ドリームレッドが答える。
「おい待て、それよりも普通にリベリオンの奴らまでここにいるけどいいのかよ。こいつら敵じゃねえのか?」
銀河が声を上げる。
「敵とか味方とか今は関係ないでしょ。とにかくなんとかしないと。もし悪さをするならその人だけミサイルの雨の中に放り出すだけだから大丈夫。」
ドリームレッドはニヤリと笑った。
俺は彼女が実に怖い女だと思った。
大人浅風は少し怒り気味だった。
「くだらないことを揉めてる場合ではない。俺とドリームレッドで豊橋のヘリに乗り込む。ミシェルとタカヒロは子供たちを避難させてくれ。」
「正気ですか?得体のしれないドリームレッドと二人でなんて危険すぎます。」
タカヒロが大人浅風を止めにかかる。
「得体がしれないからこそ俺が行く。お前たちにもしものことがあったら嫌だからな。」
「浅風さんにもしものことがあった時の方が困ります。」
「心配ない、俺は這ってでも生き残る。そこにいるガキとは違う、馬鹿にするな。」
大人浅風は俺を指さした。
俺は正直な今の気持ちを大人浅風にぶつけた。
「俺はお前のことが一番信用できない。どうせ自分さえ生き残れればいいって思ってるんだろ?」
「ちょっと違うな。俺は俺と俺の大事な人達を守る。それさえできればいいと思っている。」
「ふざけんなよ!自分勝手にも程があるだろ!」
「自分勝手ではない。それより赤の他人まで守れって方が自分勝手だろ?」
「は・・・?」
「いいか、お前は自分を大事にしなさすぎる。俺なんか死んだっていい、必要のない人間で嫌われて当然だって思ってるんだろ?」
「だってそうだ。ほとんど奴らはみんな俺が嫌いだ。こんなに皆に嫌われても数少ない友達がいたから頑張って来れたのに、俺は将来その友達をも裏切るんだろ?なら、俺もう生きてる意味ないじゃないか?」
「いい加減にしろ。お前の正義は自分を犠牲にすることか?」
「そうだよ。俺は誰かを守れるなら自分が傷ついたって構わない。失うものがない俺だからこそ、全部を捨ててでも弱いものを守るヒーローになる。」
「なら・・・、お前の友達の顔を見てみろよ。」
俺は奈々、銀河、出雲、瀬戸の顔を見た。
銀河は呆れ顔で、銀河以外はとても悲しそうな顔をしていた。
「お前を傷つけることは、お前を大事に思ってくれる人を傷つけることになるんだ。だからヒーローは自分が傷ついちゃいけない。
お前が傷つくか、あるいは命を落とすでもすれば、お前に助けられた人は一生お前に申し訳ないと思いながら生きていくんだぞ。それにお前を失って悲しむ人もいる。
それでも自分を犠牲にすることが正義だと思うか?」
「・・・思わない。でも俺にはこれしか・・・」
「ならもっと強くなれ。ヒーローになるのは非常に大変なことだ。普通の人は自分と家族や友人を守ることだけでも精一杯なのに、赤の他人まで守るんだ。
俺だってまだそこまでの力はない。だから俺はまず自分の大切な人たちを守る。お前もヒーローになりたいならまず自分と自分の仲間を守れ。」
「それって・・・」
「ああ、俺と俺の仲間を俺が守る。だからお前とお前の仲間はお前が守るんだ。」
その時、空間に亀裂が生じ始めた。
ドリームレッドが能力で空間を維持するのが限界のようだった。
「ごめん、もう力が限界で空間を保てない。急いで移動するよ。作戦に異論はないわ、みんなもそれでいいね。」
一同そろって頷いた。俺たちは異空間を通って敷地の外に移動し、異空間の外に出た。
一同がいた牢獄の跡地に無数のミサイルが放たれた。
幾重にも爆発を繰り返し、ありとあらゆるものを木っ端微塵にした。
豊橋はヘリコプターで上空から炎上する下界の様子を眺めていた。
「やれやれ・・・、浅風君、君を失ったのは惜しい損失だ。もう少し君がこんなじゃじゃ馬じゃなくて真面目な子だったらねえ・・・」
その時、豊橋は背後から大人浅風の声を聞いた。
「じゃじゃ馬で悪かったな。」
「何だと!?」
大人浅風は豊橋に拳銃を向けた。
「馬鹿な・・・どうやってヘリに飛んできたんだ!? お前の能力でも、あのミサイルをよけながらここまで来るなんてできるわけない。」
すると物凄い爆発音が聞こえた。
無人戦闘機が次々とミサイルを浴びて下界に落ちていく。
中には直接落下して行った無人戦闘機もあった。
ドリームレッドの能力だ。瞬間移動で次から次へと無人戦闘機を瞬間移動し、みるみるうちに墜落させて行った。
動揺していた豊橋だが、今後は急に不気味な笑みを浮かべた。
「ははははは。凄いなあの娘、まさに天才の中の天才だよ。でも、私が万が一のことも考えてリスクヘッジをしていないとでも思ったのかね?」
「何がおかしい?」
「私の側近を2人も連れてきたのは正解だったよ。」
その時、豊橋の無線から声が漏れてきた。
「豊橋さん、浅風の部下と少年複数名とエンゲージしました。これより戦闘に入ります。」
「ああ宜しく頼む。一人残らず殺してしまえ。」
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俺、少年浅風と奈々、銀河、瀬戸、出雲、ミシェル、タカヒロは敷地の外へ避難していたが、そこにある大男が立ちふさがった。
身長は2mくらい体重は150kgくらいありそうな大男だ。
「アケボノ・・・」
ミシェルは大男のことを知っているようだ。
「こいつはアケボノ。筋肉強化の能力を持っているの。もはや人ではないと恐れられる存在で・・・」
その時、ミシェルをめがけて光の矢が飛んできた。
タカヒロがその攻撃に気づきミシェルを押し倒したので間一髪避けることができた。
光の矢が飛んできた方向には、ミシェルの元上司、竹本剛の手下のハゼがいたのだ。
「おい、裏切り者のクソビッチ!バラバラにした後にお前の恋愛遍歴まで全部を世にさらしてやっからよ。」
「酷いね・・・、あの人」
「気にしないで、元々あの子には嫌われてるから。」
この時、アケボノが俺たちに向かって突進してきた。それと同時にハゼも光の矢を放ってきた。
ハゼの光の矢は、銀河のビームで相殺し威力を弱めた。
アケボノの突進はミシェルの水のバリアで防ごうとしたが強引に破られ、俺達は衝撃で吹き飛ばされた。
この時、アケボノはハゼを睨んだ。
「おい、援護だけでいいといったはずだぞ。」
「知らん、あのクソビッチむかつくんだもん。あいつは私がバラバラにしてやりたい。」
「業務中に私情を挟むな。」
銀河が起き上がると声を張り上げた
「俺は遠距離型だし、あの矢打ってくる女とは相性いいみてえだ。俺があいつを抑えるから姉ちゃん達であのデカブツをなんとかしろ。」
銀河以外だと、能力を使えるのはミシェルと俺だけだ。
でも俺は全ての力を使い果たしていて能力を使える状態ではない。
戦力となるのは実質ミシェル一人だ。
「下がって!」
ミシェルは俺達を制してアケボノの前に立ちふさがった。
俺がしっているミシェルはリベリオンの下っ端で大した能力を持っていないというイメージだったが、今日のミシェルはとても自身持っている強い人に見えた。
ミシェルは同僚の諸星あさみの指導を受けていたのだ。
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1か月ほど前
女子プロレス団体スターナイトのチャンピョンでもある諸星あさみは、リベリオン革新派のメンバーとなり、主に戦闘スキルの指導に当たって来た。
数々のメンバーを指導する中で諸星が特に戦闘力のポテンシャルが高いと太鼓判を押した人物がいた。
それがミシェルであった。
「ミシェルさん、美しい能力ですね!水を操る能力なんて。」
「いやそんなことないよ、しょぼい力だよ。こんな能力じゃ全然勝てないし、いつもすぐやられちゃうし・・・」
「それは頭の中で戦闘のイメージができてないからだと思いますよ。」
「イメージ?」
「はい、プロレスだと投げ技、締め技、必殺技など戦況に応じて相手を倒すために色んな工夫を凝らした技を使うんですけど、能力も同じように相手や場面に応じて技を工夫すればいいんです。特に水は汎用性が高いから、ある意味チート能力ですよ!」
「チートって、買いかぶりすぎでしょ。」
「今ミシェルさんは水を動かしてるだけですけど、その能力を使った投げ技と締め技を考えてみましょう。」
「ええどうやって!?」
「なんでもいいから私に技をかけてみてください。私からスリーカウント取れるまで特訓です!」
「ええー!!無理だよ、あさみちゃんからスリーカウントなんて。」
「できます。私が指導しますから!それにミシェルさんはショボいわけじゃないですよ。ミシェルさんがショボくない自分を知らないだけです。」
それからミシェルは諸星のスパルタ的特訓を受けた。
その成果を試すときが来たのである。
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アケボノは物凄い脚力を使って飛びあがると、ミシェルに向かって飛び蹴りを食らわせようとした。
ミシェルは一瞬目をつむって自分の心に言い聞かせた。
--相手の攻撃を受け流す---
ミシェルは水蒸気から水を生成すると、水を渦潮のように巻きあげた。
そして、渦にアケボノの体を包み込んで、飛び蹴りの軌道を逸らした。
ミシェルは再び自分の心に言い聞かせる
--相手の動きを封じて締め上げる--
ミシェルがさらに多量の水を渦に注ぎ込むと、アケボノは身動きが取れず息もできない状態でもがき苦しんだ。
高速回転で三半規管が麻痺しているので能力を使うことも不可能。
さらに自分の力では抜け出すこともできない。
まさに最強の締め技だった。
ミシェルは諸星の教えを思い返した
--自分より遥かに強い相手と戦うときは相手の強さを利用するんです。大きな相手程ダメージを与える投げ技のように--
空中で水の渦に閉じ込められていたアケボノは力ずくで渦から脱出しようとした。
そこをミシェルはさらに水圧でアケボノを抑え込み、渦を逆回転させて地面に強く叩きつけた。
アケボノは頭から地面に激突し、倒れこんだ。
「サイクロン・シュトローム」
これが、ミシェルが諸星との特訓によって得た彼女の必殺技だった。
これで決まったかに思われたが、アケボノは再び立ち上がった。
タカヒロがミシェルに声を掛けた。
「気をつけろミシェル。あいつが常人離れしているのはパワーだけではない。タフさも同じだ。」
ミシェルはほっと一息ついていて一瞬油断していたのだ。
気が付けばアケボノの拳が目の前に迫っていた。
--このタイミングじゃ避けきれない。でも避ける--
ミシェルは再び渦潮を作り上げると自分自身を渦に巻き込んだ、そしてミシェルに強烈な拳を浴びせようとしたアケボノも渦に巻き込まれた。
二人を巻き込んだ渦潮はタイヤのように縦回転した。
「ローリング・シュトローム」
これは、諸星が使うプロレス技ローリングクレイドルから編み出した技だ。
ちなみにローリングクレイドルとは、攻撃してきた相手を捕まえて締め上げた状態でリング状を転げまわる技である。
ミシェルは感覚が狂うほど回転させて、渦から抜け出した。
さらに渦に取り残されたアケボノをコンクリートの塀に叩きつけた。
塀はバラバラに砕けて、アケボノの巨体は地面にズシリと落ちた。
ミシェルは俺達の知っている彼女とは見違える強さになっていた。
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この頃、大人浅風は豊橋と牢獄跡地上空のヘリコプターで対面していた。
「浅風君。君は弱者が救いを得られないのが理不尽だといったが、それは理不尽ではないよ。この世界の理だ。
弱きものは必ず滅びる。厳しい世界で努力をし、強くなったものだけが生き残るのさ。
恐竜は寒さに耐えうる力を得られなかったから滅びた。それは自然の摂理というものだが、君の言い分だとこれも理不尽ってことになるのかな。」
「恐竜は関係ない。話を逸らすな。」
「この世界で報われるかどうかは力が全てさ。優しさも思いやりも関係ない。いくら心優しいシマウマがいても、優しいからライオンに勝てる力が与えられるわけだはないだろう。
それと同じさ、弱き者は例えどのような者であれ強者には勝てん。そして強者にとって弱者をわざわざ守ってやるメリットはどこにもない。
だから弱者は食事にもありつけず、子孫も残せず滅びる。それは私達が生まれてくる前からこの世界にある暗黙のルールだよ。」
「・・・ふざけるな。だから弱者はどれだけ理不尽な扱いをされてもやむを得ないというのか。」
「残念だけどそういうことになるね。もう諦めたまえ。落ちこぼれの集団じゃ、どれだけ情に訴えても私達勝ち組集団には勝てんよ。君達が力をつけない限りはね。」
「それはどうだろうな、あれを見てみろ。」
上空から横たわっているアケボノの姿が見えた。
「なっ、まさかアケボノが・・・」
さらに、樹木のてっぺんから光の矢を放っていたハゼが白いビームを浴びて地上に落ちていくのが見えた。
豊橋の表情に少し焦りが見え始めた。
「まだまだだ。もうすでに援軍を呼んである。」
眼下の道路に目をやると、応援部隊が駆け付け銀河やミシェル達を制圧しようとしているところであった。
しかし、彼らは何者かから銃による攻撃を受け次々と倒れていった。
「どういうことだ!?・・・まさか最初からここまで見越して君も援軍を読んでいたのか?」
豊橋はついに焦りを隠せなくなった。
「イルカの群れがサメを撃退するって話は知ってるか?」
「ああ?」
「イルカは単体じゃ弱い生き物さ。でも集団になればサメよりも強い。自然の摂理がどうのこうのって言うなら強者も弱者が群れになったら倒されてしまうのもこの世界の理だよな。」
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ドリームレッドは数えきれない数の無人戦闘機を一人で片づけていた。
そのすべてを撃ち落としたところでドリームレッドは息を切らして地面にしゃがみこんだ。
そこへ豊橋の援軍がやって来る。
「敵の勢力だ。殺せ。」
その時、援軍は次々に何者かと攻撃を受けて倒れた。
そこへ一人の女性がやってきた。
「夢ちゃん、大丈夫?」
やってきたのはドリームレッドのスターナイトの同僚、諸星あさみであった。
「あさみ…!?どうしてここに?」
「あたしらダックだろ!助け合うのに理由いる?」
諸星は笑顔を浮かべた。
「ダックってリングでの話でしょ?」
二人は笑い合っていた。
「とりあえず敵兵は私が連れてきた革新派の援軍が大体片づけたし、とりあえず私達の勝利かなー」
諸星はあくびをしながら背伸びをした。
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大人浅風と豊橋はヘリコプターの中で睨み合いを続けていた。
「はははは、まいったね。やっぱり君は優秀だよ、浅風君。」
「お世辞はいらない。命が惜しければ、リベリオン総裁の座を俺に渡せ。俺が一からあんたの作った腐った組織を立て直してやる。」
「リベリオンを乗っ取るのが目的なら私を殺すのは辞めた方がいい。リベリオンが房総を不当に支配しているにも関わらず日本政府が黙認しているのは私がいるからだ。
私が日本という腑抜けた経済力の国を援助し続けているからこそ、リベリオンは存続できているんだ。
それが、君のような野良犬が組織ごと乗っ取りでもしたら日本政府は警察権を行使した武力制圧も躊躇わないだろうね。」
「そんな文句じゃ脅しにもならないな。元々俺達をここまで追い込んだのは日本社会だ。日本政府こそ俺達の本当の敵さ。」
「あはははは。君は最早テロリストだな。まあいい。なら総裁の座を君に渡そう。」
「…随分あっさりだな。」
「ただし条件がある。組織の全メンバーで総裁選をして、君が選挙に勝ったら君は次期総裁だ。」
「選挙だと・・・?」
「不満かね?このまま私を殺して組織を乗っ取ったと言われるより、私の正式な後継者となった方が君のためかと思っての提案なんだがね。」
「こういう提案をして来るということは絶対に選挙をしたら負けない自信があるんだろう?」
「もちろん。そうでなければこんな提案はしない。だが、君に私以上の人望と知識と力があるなら私を選挙で倒してみせろ。
君が勝つ可能性は極めて低いとは思うが、私と正々堂々勝負して君が勝ったなら、誰もが君をリベリオンの次期総裁と認めざるを得まい。それは君にとっても最善策だろう。」
「…わかった。その提案受けてやるよ。あんたの口車に乗せられてるような気しかしないが、あんたの言うことはあながち間違いじゃないからな。」
こうして豊橋と彼の勢力は撤退することとなった。




