栗色の男の子
「ん・・・あれ、僕は・・・」
そう言って少年は体を起こして周りを見る。シンプルなデザインの部屋だが、ふんわりと香るこの少し甘い匂いは女の子のものだろうと判断した。
「みゃーお。」
「君は・・・ルル?」
そういうとルルと呼ばれた黒猫は、「みゃーお!!」と元気に鳴き、少年にすりついてきた。
「ふふっ、くすぐったいよぉ。」
・・・という光景を柱の陰からルミアは見つめていた。この世界では猫と人が戯れている姿なんてあり得ないので目に焼き付けておこうと思った。美少年だしね。昨日は前世で言う金曜日だったので今日明日は学院は休みなのだ。ゆっくりと美少年を見ていたい。
「目が覚めたのね。」
「あなたが僕を助けてくれたのですか?ありがとうございます。」
疑うことを知らないような純粋な目に真っすぐに見つめられてそう言われたものだから、先ほどの自分の行動を思い出し、とてつもない罪悪感に襲われた。だが顔には出さないようにした。
「いいのよ、さすがに男の子が山に倒れていたら普通はそうするわ。ところであなたお名前は?」
「あ、僕は・・・僕は、あれ?」
「?どうしたの?」
「・・・思い出せません。」
「記憶喪失かしら。確かに神経毒がいくつもかかっていたから頭をやられたのかもしれないわね。」
「そうですか・・・あと、ルルを保護してくれたのですね、本当にありがとうございます。」
「ルル?」
「この黒猫の名前です。人に隠れて育ててたんです。」
「そうなの・・・でもなんでルルについては分かるの?」
「あ・・・なんででしょうか。たぶん僕に関することを忘れているんだと思うのですが・・・」
不思議だけど男の子が嘘をついている様子もない。
「分からないわ。でもそれじゃあ家族のもとに帰れないじゃないの。」
そう言うと男の子は暗い顔をした。
「・・・家には帰りたくないんです。」
「どうして?」
「分かりません。でもなぜか帰りたくないって心が言っているんです。」
「そうね・・・人にもいろいろあるからね。そうだ、良ければここに住まない?私も家を出たくなる気持ち分かるから。」
前世では親から虐待を受けていたのだ。自分たちの子なのにあまりにも容姿が違い過ぎるし、頭の出来も違うから気味が悪い、と。
「いいんですか!?」
「いいわ。そうした方がルルも嬉しいでしょう。」
「ありがとうございます!僕たぶん掃除ができるので、任せてください!」
「そう。ありがと、よろしくね。」
「はい!」
キラキラとした笑顔は心が浄化されそうになる。私の心は穢れているわ・・・
「そういえば言っていなかったわね。私の名前はルミア・ルノワールよ。ルミアって呼んでちょうだいな。」
そういうと男の子は驚いた顔をした。
「貴族の方だったのですか!?しかもルノワールって!・・・なんだっけ?聞いたことはあるのに・・・」
心の中でガクッてなったわ。天然ねこの子。
「変かしら?」
「変です。貴族がどこの馬の骨かも知らないやつを保護してしかも猫まで保護するなんて・・・」
「確かにそうね。でも私、動物が好きなのよ?」
そうなのだ。前世では動物好きで動物アレルギーという悲しい感じで、ここでは思う存分触れる!と思っていたのに・・・でもタマもといルルのお陰で癒しの日々を送っていた。この男の子もゼラル並みに癒しオーラ出てる。・・・でもゼラルはお母さん並みに口うるさいのでこっちのがいいかも。
ルミアは知らないが、動物を見ると彼女は口が緩むのだ。とってもいい笑顔なのである。前世の記憶と公爵令嬢が混じって結構残念な感じになるが、見た目は”完璧な天使”なのだ。
「・・・」
男の子はジッとルミアを見ている。心なしかほんのり頬を赤らめて。
「・・・?私の顔に何かついてるかしら?」
「いや、なにも・・・」
そういって男の子は顔をそむける。
「で、あなたは・・・あなたって面倒くさいわね。名前つけてもいいかしら?」
「いいんですか!?お願いします。」
「敬語じゃなくていいのよ?・・・うーんそうねぇ。」
正直私にはネーミングセンスがない。タマが良い例だ。下手に決めちゃうと記憶が戻らなかったときこの子が可哀そうだし、変な名前の場合でもこの子は喜んでしまうだろう。だから前世の知識からとろうかな。
「えーっと・・・そうだ!こんなのはどう?」
「なんですか!?」
「あなたの名前はリュカよ!」
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