全て仕組んだのは……
「……っえ?!」
何処から声がしているのか分からなかった私は辺りをキョロキョロと見回した。
だけれど、魔人と私以外誰も居なかった。
「だ、誰ですか?!」
私はその場で姿が見えない者に声が届くように叫ぶ。
「前」
一言そう聞こえ、前の方を見ると魔人が物凄く近くにいて斧を大きく振り上げている所だった。
私は間一髪で横に避けたが、派手に転んでしまう。
「……っ!!!」
足首に鈍い痛みを覚えた。
どうやら、足首を盛大に捻ってしまったらしい。足を動かそうとすると、悶える程の激痛が私を襲った。
「まさか、捻っただけではない……?!」
普段、捻った時は痛みを伴うが、ここまで痛いのは初めてだった。
「グゥ……ギヒッ……」
魔人は私の動けない姿を見て、笑ったように感じた。
立ち上がっていた時よりは煙を吸いにくくなったが、それでも肺が締め付けられるような痛みが私を襲う。
意識が朦朧とし、ボヤけている視界の端には魔人がこっちに向かってきているのが見えた。
――ここで気絶してしまったら私は……っ
拳を握りしめ、その場から動こうと怪我をしていない片足を動かそうとしても、身体はもう限界だった。
すると、突然奥の方から男が2人歩いてきた。
先程の声の主はあの方たちなのでは……?
そう思った私は助かった。と思い安堵するが、そいつらの視線は魔人ではなく私に向いており、とてもいやらしい笑みを浮かべていた。
私は悟った。
ここで私は……死んでしま――
意識が途切れかけたその時、二人の男の後ろにフードを深く被り、仮面をつけたもう1人の男が闇の中から音もなく現れた。
服の裾が風で揺れ、美しい歩き方に私は圧倒された。
月の光に僅かにフードは照らされ、その中にある短くて白い髪は綺麗で圧巻だった。
「もしかして……貴方……が――」
そう言い残して私は意識を手放した。
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――数時間前ーー
あの時ノアと寮の前で約束した時間に、俺は隠密と脚力を使いながらノアの家へと向かっていた。
星が見える夜空を見上げると、今日は満月だった。出来るなら森に行き、ラガーウルフを狩りまくりたい所だが、魔力結界の良い応用の仕方を教えてもらわなければならない。
そう思いながらノアの家の扉を開く。
「おっ! 来たね〜!」
ノアは椅子から立ち上がり、嬉しそうに俺に手招きする。
「ああ。魔力結界について教えてもらいに来たんだ。その後は今日は満月だからラガーウルフを狩らせてくれ」
俺がそう言うと、ノアは仕方なさそうに頷く。
「まあ、取り敢えず森に行こっか!」
「ああ」
俺は頷き、ノアと共に森にある小屋へと向かった。
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俺達はハシゴを降りた後、数分歩き小屋に着いた。
ノアは小屋の灯りを付け、俺の方に向き直った後、咳払いをする。
「よし! まずは魔力結界そのものについて話をしようか!」
「頼むよ」
俺がそう返すと、ノアは何かを唱えた。すると、前に魔力の薄い壁を出した。
よく見ると何層にもなっていて、薄いように見えて頑丈そうだ。
「これは……?」
俺は首を傾げた後、ノアに尋ねた。
「魔力結界の応用だよ」
魔力結界の応用……?一体どうやって……
「これはね、本来ならキューブになるはずだったものを潰し、表面と裏面にそれぞれ別の効力の魔力を込めるイメージをしたものなんだ」
なるほど……魔力結界をそのまま出すんじゃなくて別の効力の魔力を込めるイメージをするといいのか……
「そうそう! これを自分を囲むように何枚も作ると、自分を守れる魔力結界になるということなんだよ!」
ノアは笑顔でそう言うと、実際にやって見せてくれた。
1枚だけじゃちゃんと守れなくて心元無かったから、これを知れたのは正直めちゃくちゃ有難い。
「次は、この前見た魔力結界の説明をしようか」
ここからが本題だと察した俺は、表情を固くする。
「ああ」
「じゃあ、取り敢えずこの小屋の中に幻惑の魔力結界をつくってみようか」
ノアはそう言うと、また何かを唱える。
すると、突然小屋の中の様子が変わり、森の中の風景になる。
緑の木々が生い茂り、地面は柔らかい土に変わっていた。
「なっ……」
俺は驚き、辺りを見回す。
匂いや感覚、湿度や温度……全てを感じ、まるで実際に外に居るような感覚に襲われた。
「魔力で実際にその空間に作り変えてしまうから、感覚もその空間に適するものになるんだよ」
「なるほどな……」
俺は頷いた後、近くに生えていた木に触れてみる。すると、手触り等の質感が本当に、木そのものだった。
「ここまで完璧に再現するとなると、膨大な魔力が必要になりそうだな……」
「ご名答。こんな結界長時間作れないし、広範囲なのものも難しい……。試しに、どこかに向けて魔術を撃ってみて」
俺はノアに言われた通りに、炎の玉を放つ。
すると、突然何かが割れた音がして世界にヒビが入り、パラパラと結晶が割れるように、空間が元に戻った。
「このように内側から攻撃を加えると、結界も壊れてしまうんだ。外側からの衝撃には強いけれどね」
なるほどな。あの時も敵があの校舎に結界を張っていて、俺が敵を吹き飛ばす時に内側から破壊したから階段が戻ったのか。
「そうそう! ……あっ! そうだ、君に聞きたいことがあったんだ。敵は何人いて、どんな容姿だったか分かるかい?」
ノアは手を叩き、俺に尋ねる。
俺は奴らの姿を鮮明に脳に甦らせる。
「二人いたな。1人はアーミラというエルフで、髪の毛は金髪で腰まであるロングヘアーの女。もう1人はサツキという獣族で、髪の毛は黒で、また腰まであるロングヘアーの女だ」
俺の話を聞くとノアは、うんうん。と頷いてメモ帳を取り出す。
「なるほどね。1人目のアーミラという女、どこかで聞いたような――」
そう呟くとノアはメモ帳をめくる手を止め、目を見開いた。
「ちょっと待って……バザールのお気に入りの部下じゃないか……っ!!!」
「バザール……?!」
俺はノアが発した名前に驚き、繰り返す。
じゃあ、つまり最近の色々なことは全てバザールと言う奴が仕組んだことなのか……? でも、何の為に――
俺がそう思考を巡らせていると、突然ノアに肩を掴まれた。
「え?」
「だ、大丈夫だったかい?! 何もされなかった?!」
ノアは慌てた様子で俺の体を揺さぶる。
「え、ちょ、だ、大丈夫だったから! 揺らすなって」
俺がそういうとノアは「そ、そっか」と呟いた後、俺の肩を離してくれた。
「はぁ……で、そのバザールっていう奴はそんなに強いのか?」
「……強いなんてもんじゃないよ……。魔人一体のせいで、とある街が壊滅しかけた。っていう話は聞いたことあるだろう? その魔人がバザールなんだ。その魔人のお気に入りの部下なんて、何をしでかすか……」
なるほど。確かにそれは厄介そうな敵だな……
俺がそう考えているのを感じ取ったノアは呆気に取られた顔をしている。
「君はそんなに楽観的で良いのかい……?」
俺はノアにそう言われ、首を傾げた。
「魔人なんかに手間取っているようじゃ、魔神には勝てないだろう?」
俺の言葉を聞いたノアは「……凄いな。君は」と呟いた後、笑顔で俺の肩をぽんぽん。と叩く。
「そうだね! 頑張って! 僕も応援しているよ」
「言われなくても頑張るさ」
俺はノアの目を見て返事をした後、ふと時計を見ると、もう0時を回っていた。
「あ、まずい。俺、ちょっとラガーウルフと戯れてくるよ」
「た、戯れ……?!」
俺の言葉に驚くノアを無視し、俺は靴を履いてドアノブに手をかける。
「じゃあ、行ってくる」
「う、うん! 行ってらっしゃい〜」
扉を開け、俺は小屋の外に出た。
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俺は飛び出してくるラガーウルフを目を瞑りながら、1匹1匹を剣で斬り殺していた。
「流石に満月のラガーウルフは動きが速くていいな」
そう呟き、俺はまた飛び出してきたラガーウルフの頭に剣を突き刺した。
俺は目を開き、周りに落ちている魔石を拾い上げながら呟く。
「魔石もだいぶ溜まってきたな」
訓練用にもっと溜めておくか。
そう考えていると、ふと3km先に強い魔力を感じた。このような魔力には覚えがある。
「これは……まさか、魔人……?」
俺は脚力を使ってその場を駆け出した。
すると、直ぐに人の気配がした。木陰に隠れ、様子を伺っていると二人の男が何やら話をしているのが聞こえる。
「俺、魔人って初めて見たけどよぉ……あんなに俺達の言うことを聞くもんなんだな!」
「そうだな! あのべっぴんな金髪のエルフのねーちゃんに感謝しないとなあ!」
二人の男は談笑していた。
魔神が言うことを聞く……? 何の話だ? それに金髪のエルフって……まさか……
俺は取り敢えず、気配を消しながら魔人の元へ向かってみることにした。




