2-8.今晩はウサギ鍋!
「おかえりなさい、ナツさん!」
ぼくらは『ギルド・シャルム』に戻っていた。
「ただいま戻りました、ノルーさん。」
「初クエストはどうでしたか?ピルラビットとは言えど、なかなか厳しかったでしょう。」
「そうですね、音に敏感なので何度か逃げられてしまいました。」
「フフフ、まぁ初めてのクエストなんてそんなものです!
落ち込まず、またチャレンジしましょ!」
「いやいや、狩れましたよ。」
「えっ、凄いですね、無能力なのに…
どれどれです、魔石を見せてください!」
「はい。」
そう言ってぼくは、袋に仕舞っていた魔石を取り出し、カウンターの上に並べた。
大小合わせて計26個。
狩ってるときにも思ったのだが、なぜ同じピルラビットを狩っていたのに大小の違った魔石があるのだろうか。
「え、えっ…ひぃふぅみぃよ…
にじゅうろっこ…
26個!?」
ノルーさんはビックリして目と口をかっぴらいている。
試験官の男といい、このギルドの人たちはみなこうなのだろうか。
「ナツさん、これお一人で集められたのですか…?」
もうノルーさんには明かすべきであろう。
「いや、実は…」
ぼくはルシフェルのことを事細かに説明した。
ノルーさんのリアクションは、まぁ想像するに易いであろう。
「な、なるほど…。
あの伝説の堕天使ルシフェルが…。
にわかには信じ難いことです…。」
「厳然たる事実じゃ。」
ルシフェルが影から出てきてそう言った。
傍から見れば、地面から美女が生えてきたのだ。
ノルーさんはおろか、周りにいた冒険者たち全員がルシフェルとぼくに釘付けになった。
「おい、ルシフェル!」
「いいんじゃいいんじゃ、いずれバレる事であろう。
現状も面倒であったしのぅ、いい機会じゃったし、良かろう?」
「な、ななな、なななな!
人が、地面から生えてきた…!」
キュー、バタンッと見事なまでにテンプレ通りの音を立てながら、ノルーさんは気を失い、後ろに倒れてしまった。
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「うーん、彼女は本当にルシフェルさんで、ナツさんが召喚したと。
…なるほど、それでサモンズテイマーなんですね!!
って、そんな簡単に納得できませーーん!」
目を覚ましたノルーさんは、必死に納得しようとしては出来ず、を繰り返している。
「まぁでもこれが事実ですし…。」
「そーじゃそーじゃ!」
「うむむむ〜…」
どうにも納得出来ないという風な素振りのまま、ノルーさんは魔石を買い取ってくれた。
小魔石は1つ1ブール、大魔石は1つ2.5ブールだ。
今日だけで計38ブール、メラサールの一般的な宿6泊分だ。
初クエストにしては上々の稼ぎである。
ぼくらはその報酬に満足したため、ピルラビットの肉は売却せず、晩御飯はウサギ鍋にすることにした。
自分で稼ぎ、自分で狩った肉を食う。
これぞ冒険者だ。
まぁ、狩りは全てルシフェルがやったし、もちろんルシフェルのご飯は魔素の結晶なのだが。
こうして、ウサギ鍋の湯気とともに冒険者生活1日目は幕を閉じたのであった。