0.プロローグ 転生orじいさんの補佐
「………い、おーい、そろそろ起きたらどうじゃ?」
遠くの方で声がする。
「………ったくお前さんは、わざわざわしが起こしに来てやったのじゃぞ〜」
うるさいなぁ、ぼくは死んだんだよ。
なんで死んだのに声が聞こえるのよ。
しかもしゃがれたじいさんの声、どうせなら女の子の声が良かったのに。
なんにせよ、死ぬ時くらいは静かに死なせてくれ。
「おーーーい、夏乃介や〜」
ん、ぼくに話しかけてるのか?
なら話は変わってくるな。
「はい、なんでしょう」
「んぬぉ!
急に目を覚ますでない、びっくりするじゃろうが」
いやいや、あんたが話しかけてきたから応えたんでしょうに。
せっかく気持ち良く死んでたのに無理矢理起こしたあげく今度は起きるなとは。
ん、というか、今ぼく喋った?
死んだのに喋ったのか…?
…いや、死んだのに喋ったのではない、死んでなかったから喋ることができたのか。
「んにゃ、お前さんは死んでるぞ」
やっぱりそうだよな、死んだのは間違いないんだ。
だとすると、なぜ喋ることができたのだろう。
「そりゃお前さん、ここが死後の世界じゃからじゃよ。お前さんは霊体で、その体で喋っておるのじゃ。」
なるほど、ここは死後の世界で、霊体になってここに存在している、ということか。
そして次の疑問が湧いてくる。
喋ってないことに対して、じいさんは応えてきたのだ。
「そりゃ、わしは神様じゃからのぅ。そんくらい造作無いわい。」
お、また応えてきたぞ。
このじいさんはぼくの考えていることを勝手に読み、それに応えてきてるのか。
「そうじゃな。そういうことじゃ。」
すごいな、まるで超能力だ。
でもぼくはじいさんの考えてることが読めないぞ。
「そりゃお主は神様じゃないからのぉ。お主は夏乃介、分かっとったじゃろうに。」
そうか、ぼくは夏乃介だ、神様じゃなかった。
でもなーんか腹立つなぁ、全部見透かされてるの。
「ふぉっふぉ、神様に対して腹を立てるか。肝が据わっておるのか単にアホウなのか。
あとお前さんや、わしが神様だと言ってることに対して驚くなり感動するなり、何か反応せい。ちょっと悲しいじゃろ。」
それはまぁ、少しは驚くべきなのだろうが、ここは死後の世界なんでしょ。
だったらまぁ、神様がいても別に不思議じゃないよ。
「お前さん、いやに冷静じゃの。もっと派手にリアクションしてくれんと張り合いがないわい。」
たしかに、自分でも驚くほどすんなりと全てを受け入れている。
まぁ自分の死すら簡単に受け入れていたのだ、大抵のことは受け入れることができるようになる。
「してお前さんよ、まだ生きたかったか?」
難しい質問だな。生きたかったといえば生きたかったし、別に死んで良かったといえば死んで良かったとも言える。
「なんじゃ、どういうことじゃ?」
まぁ、どっちでも良かったってことだよ。何もなければあのまま生きていただろうし、こうして死んだのを受け入れられないって訳でもない。どっちでも良かったんだ。
「うーむ、覇気が無い若者じゃのう…これがゆとり世代というやつか?」
うるさいやい。
「じゃあ次の質問じゃ。
もう一度別人として新たな人生を送ることが出来るとしたら、お前さんはそれを望むか?」
…それは、望まなかった場合はどうなるんだ?
「そりゃお前さんは死んだからのぉ。死後の世界にずっといることになるの。そうじゃ、丁度わしも今仕事が立て込んできてしまっていてのぉ、わしの補佐役として働いてもらうことになるかの。」
「新たな人生を歩ませてください!」
「お主、覇気が急に増したぞ。そんなにわしのもとで働くのは嫌なのか、さすがのわしも少し悲しいぞい。あと今まで心の中で会話してたのに、今回だけ声に出すな。余計に際立つじゃろ!」
すみません。
けど、さすがにずっとここで過ごすのは退屈すぎる。
だったら新たな人生を歩む方がいくらかマシだろう。
「まぁ良いがの。じゃあ転生するということで良いか?」
「はい、大丈夫です。」
「ならばお前さんに新たな人生を与えよう。転生先はそうじゃの、あそこが丁度良いじゃろ。」
あそことはどこだろう。イージーな人生になれば良いけれど。
「ふぉっふぉ、恐らくそうはいかんじゃろうな。してお前さんよ、これも何かの縁じゃ、わしからお前さんにオリジナルギフトを一つ授けよう。」
オリジナルギフト?
なんだそれ。
「まぁ、生まれ持っての特殊技能みたいなもんじゃ。わしからのささやかな贈り物じゃよ。」
なるほど、それは少しありがたい。
「なぬ、少しじゃと?他の者たちが喉から手が出るほど欲しがるほどの代物じゃぞ。」
そうなのか。
で、どんなギフトなんだ?
「それはまぁ、ギフトくじを引いてみてのお楽しみじゃ。どんなギフトになるかは運、まぁハズレは無いから安心して引け。」
ハズレは無いのか。それに他の人が喉から手が出るほど欲しがる物。どんなのだろうな。
「さぁ、引いてみよ。」
………………………
「ふぉっふぉっふぉっふぉっ、こりゃあとんでもないものを引いたのぉ。これからが楽しみじゃ。お前さんはやはり持っておるのぉ………」
またしても神様の声が遠くなり、意識が遠のいていった。
こうして、ぼくの新たな人生は幕を開けることになったのだ。