54 衝撃の打診 Ⅱ
お祝いを言いに押し寄せる招待客をある程度捌き終わったハンナ姉が、スラムに来て初めて腹いっぱいのパンッパンになった私の所にやって来た。
そしてよく分からない事を言う。
「クオルフ!あのね、実は私本当に結婚したの。」
「…うん、知ってるよ。おめでとう。」
とりあえず無難に返したらハンナ姉は頬を小さく膨らませて可愛く怒った。
「もう!違うのよ!エインは大人になってからスラムに来たから住民票は持ってるでしょ?それで、ギャングの皆さんが私の住民票を結婚祝いに用意してくれたの。だから、本当に結婚出来たんだよ!本当にギャングの皆さんには感謝しかないわ!」
「ホントなの!?それって…凄い事じゃない!ギャングのコネとか賄賂とか使ってくれたんでしょ?本当に良かったね!もし子どもが生まれても心配無いよ!凄い凄い!」
「うん!ほんと嬉しいわ。あとね…クオルフにも良いお話があるのよ。」
何だろう?と思ったら、ハンス兄がどこからかヒョイっとやって来て説明は俺からする。と言ったので、ハンナ姉は大勢の人に囲まれたエインさんに手を降って人混みの中に戻って行った。
「あのな、まず確認だけど、今も貯金は続けてるだろ?」
「…うん。続けてるよ。聞こうと思ってたんだけど、あのお金って一体何の為に貯めてるの?それに、返って来るっていうのはどういう事?」
「それなんだが、クオルフ。お前に医療学校へ行く打診が来てる。その為の学費や必要経費として貯金してたんだ。」
「……………え?」
それってつまりどういう事?
「三年前の時点ではまだ本決まりじゃ無かったんだがな、4ギャングで金を出して医療学校に行かせて医者にする。その学費は診療所で働きながら返すか、一定年数働けばチャラにするって話だ。とはいえ、学費以外にも色々と入用な物もあるだろうし、クオルフはギャングに縛られるのを嫌がるだろうから出来れば学費も貯金で賄えるといいと思って。」
「ちょ、ちょっと待って!いきなり過ぎて混乱するんだけど!そもそも医療学校なんかに、スラムの孤児が入れるの?というか一生働いても返せない金額の学費がかかったりしないよね!?」
確か医大の学費って半端なかったよね!?
「そこはギャングの長達が後見人になるそうだ。医療学校自体、医者の子が多いから平民ばかりだし、金も医療学校の学費だけなら数年で返せるって。どうせもうすぐ独り立ちだろ?そうなったら稼いだ金を全て自分の為に使えるようになるからな。」
「で、でもさ、ギャングからお金を借りるのは良いとしたとしても、子どもの家の貯金を私だけの為に使うのは不味いでしょう。横領だよ!?」
「返せば問題ないさ。元々クオルフが稼いだ分からしか貯金はしてない。第一お前は同年代より倍近く稼いでるんだぞ?使って何が悪い。」
いやん。ハンス兄がすっかりギャング思考に染まってるよ。
「うーーん…じゃあ、ちゃんと返すならそれも借りても良いとして、私のメリットは何よ?ギャング側はもう一人医者が確保出来るけど、私は特に医者になりたいなんて思ってないしね。」
「けど、将来的に考えたら医者の方が給料は良いし安定してるだろ?…それに、スラムを出て中流階級の医者の子が集まる医療学校に行けば、お前の母親に会う事も出来るかもしれないぞ。」
それは……確かに。エインさんの契約書を見て驚いて良いな。と思った事は事実だし、本当にお母様に会えてしまうかもしれない。もしくは上級貴族である可能性の高いお母様は無理でも、乳母として働いてくれていたナニーならば、会ってお母様の現状や居場所を聞く事が出来るかもしれない。そう思ったらだいぶ惹かれた。
「強制ってわけじゃ無いから、とにかく考えてくれよ。今日の結婚式の後に会議室で詳しい話をしてくれるそうだから。」
「……分かった。色々考えてくれてありがとう。ハンス兄。」
「………がんばって良い条件引き出せよ。」
うん。と頷いて、すぐに去って行ったハンス兄と打診の事を考える。今回の事は…まあ、断れないだろう。
だって今後の助手と仲裁の給料に頼った生活の事を考えるとうかつな事は出来ないし、何よりハンナ姉に私がどうやったってしてあげられない事をしてくれちゃってる。厳密に言うと家を出たらもう兄弟では無いとはいえ、私がその恩に対して何もしないなんて事、心情的に出来るわけが無い。そんな事したら結婚式に呼んでくれるどころか、友人代表にしてくれたエインさんやハンナ姉に申し訳がなさすぎる。
ほんと、がんばって良い条件引き出すしかないね。
それにしても、がっつり計画的に嵌められた感あるわぁ…




