55 衝撃の打診 ③
宴会の様相を呈した結婚式が終わり、出席者達がゾロゾロと帰っていく中、ギャングの長達と、その部下が数名、それに私だけが流れに逆らって診療所の中に入っていった。
「いやあ、めでたいめでたい!ぶぁっはっは!」
上機嫌なドンにバンバン背中を叩かれながら階段を上がって会議室に入った。
着席した全員を眺めてから、はあっ!と一つ大きなため息をついてやったら、ドンには思いっきり笑われるし、西のヘッドはニヤニヤしてるし、髭じいには立派なおひげを撫でながらふぉっふぉっふぉなんて仙人みたいな声を出されるし、散々だ!ちなみに東のセオさんは相変わらず寡黙だ。笑い上戸だけど、今回はツボに入らなかったらしい。
「で、とういう事ですかね。詳しく説明して下さいよ。」
ギャングの長として、上司としてハンス兄に根回ししたドンを主としてじろりと睨みつけてやる。
「あらましはハンスから聞いたろうが、俺達はお前を医者にしたい。だから医療学校に行け!簡単な話だろ?」
「だーから、行くのは良いとして、それじゃ分からんっての!もっと、学費以外に必要なお金が無いか、とか勉強はどれくらい必要か〜とかさ。色々あるでしょうよ。そもそも医療学校に行ってる間働けないなら、私生きていけないよ?」
学校が休みの日にフルで働いたとしても食べていけるのかな?
「大丈夫さ!学校は午前しかない!あと学費以外はペンとインク、紙の費用くらいだな!寮に入るなら寮費もいるが。勉強は嬢ちゃんなら大丈夫だよ!」
「それとな、医療学校に行く前にお前さんには学園に入って貰おうと思っとる。医療学校ではそこで基礎を学んだ前提で授業が行われるからのぅ。」
「え、学園ってあの?貴族もいるのよね?確か上級貴族以外は学園に入る前に適正検査を受けるって…」
「そういうこった!だから嬢ちゃんの母親の居所も探せるかもしれないと思ってな!」
「うむ。学園は貴族が半分、貴族と懇意になりたい商売人や親のあとを継ぐ役人などの子が半分で、貴族は満期の五年、平民は大概三年で卒業し、他の専門的な学校に入る。お前さんにも四年目からは医療学校に行って貰いたい。」
やっぱり髭じいの説明の方が分かりやすいです。相変わらずドンは説明下手だなぁ…
「それじゃあいったい、合わせて何年学校に行くの?学園が三年で医療学校は何年?」
「医療学校は他と違って少々長い。五年間になるから、合わせて八年だな。」
「八年!?ほぼ今までの人生と同じ長さだわ…」
いやまあ、日本の義務教育よりは一年短いんだけどさ。
「まあ上級貴族として順当に生きてりゃお前さんも学園には入る事になったんじゃからのぅ。医療学校に関してはあくまでこちらの希望じゃから、他の専門的な学校に行ってスラムや我らのためになる事をしてくれるのでも良いんじゃぞ。」
「皆さんにお金を借りたらの話ですけどね!で、学費は二つの学校合わせていくらになるんですか?」
ギャングに金借りたら、利息は十一になりかねないからね!怖っ!
「学園が一年で五百マンエル。医療学校が三百マンエルだ。」
「学園の方が高いんだ?なんか意外だね。」
義務教育の学校と医大のイメージでいたから逆だと思ったのにね。
「まあ、元々学園は貴族のために作られた学校だからな。平民も金持ちの商人の子なんかだから、高くしてもやってけるんだな。医療学校は田舎から出て来る医者の子なんかもいるから、そうそう高くもできねぇんだよ。」
「なるほどね…それにしても一年で五百マンエルかぁ……」
一般的な家庭の四人家族で食費だけなら一日一マンエルで暮らしてる。一月は三十マンエル。一年で四百二十マンエルだ。それを考えると高すぎると思うのは間違いじゃ無いだろう。
ハンス兄が管理人だった時に貯金しててくれてたのが、一日一マンエルの一月で三十マンエル。半年分で百八十マンエルだった。
私が一日二セン五百エル、一月七マン五センエル、三年分で二百七十マンエル。
合わせて 四百五十マンエル貯まっている。
「うん。貯金じゃ全然足りないね。」
「まあ、医者になったら一日五マンエルで雇ってやるからのんびり返せや。」
一日五マンエルだと一月で百五十マンエル。一年で一セン八百マンエル!
ごくり。確かに割と早く返せそう。そりゃギャングの皆さんは出来るだけ長いこと診療所に縛りつけときたいんだろうけどさ。
切り詰めれば一年で一セン五百マンエル返せるんじゃない?二年でギャングへの借りからオサラバ出来るじゃん!
「…まあそれなら考えない事も無いよ!」
「よっし!じゃあ決まりな!まず入学試験に受からない事には話にならねぇ。貴族なら実力を測るために試験は受けても、結果によって入学出来ないって事はねぇからな。今は貴族じゃ無くて残念だな!」
ドンはからかうように言った。それで思い出したが、前にドンから貴族に戻りたいか聞かれたな。これってそういう事か…?
「まあね。試験って何点くらい取れば受かるの?」
「国語、算数、歴史でそれぞれ百点満点中、八十点取れれば合格らしい。内容的には国語、算数は嬢ちゃんなら勉強せずとも余裕だろう。歴史はスラムにいると知る機会も無いだろうから、今から試験までに死ぬ気で覚えろ。」
「試験っていつなの?」
「来年の春の終わりに入学で、試験はその半年前、冬の始まる前になる。」
「てことはあと半年しか勉強の時間無いって事だよね!?ヤバイじゃん!」
「まあ、嬢ちゃんなら大丈夫だろうが、万が一歴史がダメでも国語と数学で百店満点なら、歴史を四十点だけでも取れば合格範囲内だ!凡ミスするなよ!」
「分かってるよ!わたしゃやると決めたらやる女なの!」
「じゃあさらに良い事教えてやろう。入学試験で平民の中の五位以内に入れば学費がタダになるぞ!どうだ!」
「まじで!?やる!五位以内目指す!」
「よぉし!がんばれ!」
ふっかけられて、エサで釣られていいように扱われてる気がするな。…まあいいけどさ!




