ヤクザ吸血姫、鑑定する
前回概要:デブさんをぐちゃぐちゃにしてやった、後悔していない。……嘘です、脅かしただけです
「えっと、シルフィさん。」
女性の傭兵こと、メーリーさんは恐る恐る聞いてくる。
さっきからずっと怯えられている気がします。例の青年にも、私にも。
何かおかしなことしてひかれてしまったかしら。
「なんでしょう」
「えっと、まずはどちらに行くの?」
ふむ。マーリン城所か、私はこの世界自体に詳しくありません。
お任せしても宜しいような気がしますが。まずは
「鑑定紙とやらを先に探しましょう。」
「わかった。確かにステータスわかった方が就職しやすいのよね」
メーリーさんは納得したような顔で頷くと、周りの見回った。
そして目線が屋根が赤くど派手な屋敷に留まり、そこに向かって歩き出し、私と肩に乗っている廉治は後ろに黙って付いて行きます。
てっきり赤い建物が目的地かと思ったら、右折してメーリーさんは裏路地に入った。
「あ、シルフィさんも覚えておくといいわよ、その赤い屋根の建物は商人ギルド。マーリン城の中心地だから、そこを目印にすれば迷わないから。」
なるほど。合理的な方法です。
「ここからは貧民窟。ちょっと治安外より悪いけど、武具と魔道具はここの方が遥かに良質で安い。
シルフィさんなら別にちょっかい出されても平気そうだから、住むならともかく、武具や魔道具はここがオススメ」
やはり治安が悪いのですね。しかし問題ありません。
私はこう見えても極道の娘、チンピラが何人集まってこようとぐちゃぐちゃにしてあげます、あそこを。
「おじょうさま……すこしテカゲンをしてあげて……」
「何を言うのですか、廉治。敵は潰すものと相場が決まっております。」
「……おじょうさまがからまれないように(ちんぴらが心配です)」
「……やはり、貴女はその妖狐と喋れるの?」
「普通に喋っていますが?」
何を言っているのでしょうか、メーリーさんは。
そういえば、妖狐って、廉治のことですよね。さっきのデブさんがトマトジュースになる前に言ってましたね
「おじょうさま、トマトじゅーすになってません……」
「妖狐は人間語喋れないのに、言葉わかるんだ……」
「私から廉治はずっと人間語を喋っていますが……」
「あ、うん。わかってた、ごめん、おかしいこと聞いて。(規格外だし)」
「??」
裏路地の貧民窟をすこし進めた先に、大きな廃屋がありました。
しかし、奇妙ですね。
廃れたハズの廃屋の前に、いくつか人間の痕跡があります。
中に入ったのですか?
「ちょっと汚いかもしれんけど、入りましょうか。」
そう言ってメーリーさんは容赦なしにドアを蹴飛ばして、中に入った。
弁償しなくていいんでしょうか、そのドア。
「はぁ、その頑固ババァ、またそんな灰だらけの門を設置して。どれだけ人を入れたくないのかしら」
「あら?」
廃屋の中はもちろん空だ。
人間の気配はもちろんなく、使用されてた痕跡はない。
人間以外の薄い気配はいくつあるけど、見えなかったことにしておきましょう。殴れない斬れないものはお断りです。
灰まみれの屋内を、メーリーは軽く何かを呟いて、手のひらの上に小さな光球を作り出す。
そしてすこし見回った後、見えない何かの所に進んで行き、
「ぶつかりますよ?」
「へ?あぁ、見えるん?クソババァの使い魔。大丈夫大丈夫、ブチっとしてていいから。」
メーリーさんはおもむろに手を上げて、その光球をアレにぶつけた
「ギャーギャー」という断末魔を出して、アレが消えた。
「成仏したのでしょうか」
「じょうぶつ?まぁ、消滅させてはおいたわよ。アレはこの店の店主の使い魔、本物の入口を守る門番なの。
だから、そいつを吹っ飛ばして、そしてこうと」
まだブツブツと5秒ほど呟いて、メーリーさんを中心に眩しい光が周囲に拡散していく。
すると、何もない壁に、何故かドアが出現した。
「こうなるのよ。さ、入った入った。」
「……は、はい!」
ま、魔法ですね、これは紛う事なき魔法です!
どうしましょう、魔法は初めてみました。私でも使えるのでしょうか
いいえ、落ち着きなさいシルフィ、魔法を使うにはまずは杖です。杖を買いましょう。
っは!さっきメーリーさんが使っている時杖もってません!
魔法、奥が深そうですね。
「というわけで、メーリーさん。貴女を師と読んでもよろしいでしょうか?」
「え、いや、なんのわけなの?」
察してください、メーリーさん。それでも私の師ですか
「魔法カッコイイです。学びたいです。」
「え、できないの?」
「え?」
「え?」
何故かメーリーさんがポカンとして聞き返して来た
「いや、ごめん、てっきり身体強化魔法使ってる大魔法使いかと思ってた」
「いいえ、魔法なんて今は使えません。」
「あ、うん。わかってた。それ後回しね、まずは買い物済ませておきましょ?」
何故かうんざりした表情で納得されました。
はて
「なんじゃおめぇ、また来やがったかぇ。」
一瞬、訳が分からなかった。
背後から声が聞こえてて、後ろに振り返った。
そこに、作り物じみた若い少女がいた。
「おやおや、見ない顔ねぇ。メー、おめぇの連れかぇ?」
「そうよ、ちょっと訳ありでね。まず鑑定紙二枚頂戴。」
「あいよ。」
軽く笑って、少女はまるで最初からいないように消えていく
ありえない。
例え幽霊、ええ、残念ながら幽霊でも私は気配を感じられますが、例え幽霊でも私の背中を取るのは不可能です。
なのに、彼女はなぜ、私に気付かれないまま私の背中を
「驚いた?」
「ええ」
主に私の不甲斐なさに
「アレは人造人間。ここのババァの十八番よ。本当の中身は何百年も生きた死にぞこないのババァよ」
「そ、そうですか。あんまり年上を悪くいうものではありませんよ」
「そうじゃそうじゃ、おめぇもそこのお嬢に見習いな」
「きゃっ!」
急に胸を掴まれて、驚いて声を出した
また!また気づかぬうちに背後を……!
「おや、ウブな子よねぇ…ほれ、鑑定紙よ。使い方わかるかぇ?」
「い、いいえ」
「そうかぇ、それはの、自分の陰部に貼り付けるものじゃよ」
「陰部、ああ。そうですか、それにしてはサイズ大きいようですが、試してみます」
「試さないで!糞ババアも嘘教えない!」
ワンピースの裾をめくり上げようとしてたら、メーリーさんに真っ赤になって怒られた。
嘘だったのですか?まったくそのような気配がありませんでした
「いやいや、面白いねぇ~」
「はぁ、シルフィさん、ちゃんとしててよ。デブリンを見ぬいてたのに、このババァの嘘も見抜きなさいよ」
そう言われても、デブリンからは汚い感情が流れてくるので何となくわかりましたが
このババァ?の少女からは感情と気配まったく伝わってきませんもの、無理です
「お嬢、血を一滴垂らしてごらん。そうすれば鑑定紙に自分のステータスが出て来るよぇ」
「今回は?」
「本当です。短刀を貸してあげようか?」
「いいえ、結構です。」
ババァさんから鑑定紙(A4サイズ)を受け取って、尖った犬歯で親指を噛みちぎって、血を垂らした。
すると、黄色い鑑定紙にすいと血が吸い込まれ、赤い紋様が出て来る。
しまった。これは文字なのでしょうが、私はまたこの世界の文字が読めません!
「助けてください。読めません」
「え、読めないんだ。貸して?」
「はい」
メーリーさんが私から鑑定紙を受け取って、軽く確認すると
「」
気絶して後ろ向いて倒れた
「おやおや、どうだったんだぇ?」
ババァさんがケラケラ笑いながらも、メーリーさんの手から鑑定紙を取って、
笑顔が固まった
「こりゃ、無理ないねぇ~」
「どういう事でしょうか」
「読みあげるよぇ。」
名前:シルフィ・ペンドラゴン
種族:吸血姫・真祖14位
年齢:0歳 性別:♀
レベル:2 状態:健康
筋力:99 抵抗力:99
速度:99 魔力:99
精神力:99 回復力:99
技巧:99 幸運:2
スキル:沢山
「スキル沢山って、なんですか?そのいい加減な」
「一部なら読み上げるけどね、途中で鑑定紙に入りきれなくなってたんだよ。」
「そうなのですか……」
まさか入りきれないとは。鑑定紙のおっきいサイズに指定しておくんでした。
しかし、エルフかと思ったのに、吸血鬼でしたか。さり気なく姫扱いされました。悪くないです
さっき血溜りがやたら魅力的に見えたのはそういうことだったのですね。
「まぇ、どうしても気になるなら、後で大きめなのを作ってやるぇ。仕込みから三日くらいかかり、ちょっと高ぇぞぇ」
「お願いします。それと、一部でいいですから、スキルを教えてください。できれば効力も」
「まぁ、ええぞぇ。」
ババァさんが鑑定紙を持って目を細める。
「真祖、吸血衝動、神力、神速、天命、天魔、日光耐性lv9、状態異常無効、鮮血操作lv10、鮮血契約、闘技lv10、刀術lv10……」
多いですね。普通そういう時、一つのチートスキルだけ与えられるものではないのですか?
「後は三種類の魔法スキルがlv4で打ち切りだぇ。まったく冗談のようなやつぇ」
「冗談ですか?」
「いいかぇ?ステータスだがね、凄腕の狂戦士でも、80届けば無敵と呼ばれるんだぇ。そしてそいつのレベルは恐らく90台になるからねぇ
レベル2で99ってのは、まずありえねぇ。」
「そう、ですか」
「しかも、補助魔法でステータスを一時をはいえ、99に上げた例はあるんだがねぇ。そいつの主観だが、99は上限ではねぇ。
ただ鑑定紙の限界が99ってだけだぇ。実際レベル5の補助魔法を受けた時奴の速度は、レベル8の時とは比べ物にならなかったぇ」
「つまり、私のそのステータスはオール99ではなく、実際ぶち抜いている可能性があると」
「そういうことだぇ。そして真祖ってのは、吸血鬼の先祖たる13柱の化物の話だぇ。そいつらの力は神にも届くとさえ言われたぇ。14柱目がいる話は聞いてねぇが、
真祖ってだけでも、一国とタメ張れるくれぇの存在の証明さねぇ。その上ステータス補正の全種類スキルカンスト、吸血鬼が呪いにより苦手とする日光耐性がlv9
状態異常無効という、全ての状態異常の耐性スキル全部カンストしたチートスキルさねぇ。他には魔法がlv4だが、全部lv10つまりカンストのスキルだぇ
しかもまだ全貌ではねぇから、本当に冗談のようなやつだぇ。メーリーが気を失うのも頷けるわぇ」
それほど強かったのでしょうか。実感がありませんね。
しかし、強いのはいいことです。迷惑かけられても、速攻でぐちゃぐちゃにできます。
やったね
「坊主も泣くかねぇ~これはおめぇさんが仕舞っておきなぇ。他の人間にみせんじゃねぇ~」
「分かりました。ありがとうございます、ババアさん」
「おうおう、鑑定紙の料金は1銀貨さぇ。二枚は2銀貨じゃねぇ~」
「分かりました。」
「金貨かぇ、また面倒なものを……両替えしてからまた来なぇ」
ババアさんは金貨を突き返し、床で眠っているメーリーさんを抱き上げる。
そしてこのまま奥に行こうとする。
「あの……メーリーさんは……」
「安心せぇ、コレは儂のひぃひぃひぃ孫娘だぇ。そういえば、自己紹介はまだだったのう~」
メーリーさんを肩に乗せて、ババアさんは軽く腰を折ってお辞儀した
「儂の名は馬場龍城。300年前にこの世界に転生された、元日本人の人形師だぇ。」
まさかの殿方だった。しかも元は日本人ですって?
「けけけ……やはりおめぇも転生者かぇ。」
「そう、なるでしょうか。私の名前は染岡竜胆です。シルフィはこの世界で付けた名前です。」
「そうかぇ。この世界にそう数ねぇが、地球人はいるぇ。特にバカ強ぇやつはねぇ~世界を越えたことでボーナスもらえるんじゃぇ。」
「だから貴方は300年も?」
「本来の体とっくの昔に死んださねぇ。人形に入って生きてんだぇ。魔道具なら儂の腕を超えるもんはおらんぇ。」
そう言って誇らしげに笑って、ババァさんは力こぶをつける姿勢をみせた
ありませんね。
「魔道具の殆どは状態異常耐性じゃよ、完全耐性持つおめぇさんにはいらんじゃろうぃ。まずは頑固ジジィの鍛冶工房に行ってきぃ。日本刀もあるぜぇ~」
「本当ですか?ありがとうございます、ババァさん」
「おう~用があったら、魔法鳴らせぇ」
「すみません、未だ魔法は使えません」
「そうかぇ?スキルあるのにな~ま、慣れれば出せるだろぃ、じゃな~」
「はい、さよならです。」
手を振ってババァさんを見送る。
やはり気配のけの字もない方でしたね。
残りの一枚は後で廉治に使ってあげましょう。
にしても、ババァさんはジジィさんなのか、ババァさんなのか。分かりませんね。
「あ」
そういえば。
「文字、未だに読めません」
廉治に鑑定紙使っても読めません!
困りました!
それに私の案内人も攫われました!
未曾有の危機!
「お、おおげさです。おじょうさま……」
そして私は慌ててババアさんを探し始めました。
ババァさんは人形師です。人形に自分の魂を閉じ込め、体が死んでも生き延びることができる。
人形は普通の兵士より遥かに強く、その上転移魔法を所得しているのでババァさんを殺すのは至難。
男の人形か女の人形かは気分次第。ただしメーリーの親を生んだ時は生殖機能完備の女性型人形だったので、婆ちゃんと呼ばれました。今はあの呼び方ですが
割とハイスペックです、ババアさんは